東北大生が西洋経済史のレポートや試験でよく引用する経済史のキーワード.
要点を確認しましょう.
エンクロージャー / 救貧 / 近世 / 結婚パターン
国家形成 / 財政革命 / 産業革命 / 資本家 / 消費革命
植民地主義 / 人口増加 / 大分岐 / 中間層 / 都市化
土地保有 / 奴隷貿易 / 東インド会社 / 封建制
エンクロージャー Enclosure
「囲い込み」と訳されるイギリス農業史のキーワードです。特定の時期(「第1次」、「第2次」など)に起こる現象であるかの如く説明するテキストもあるようですが、農地・農法の改良は中世・近世を通じて行われていました(Fox:1975)。市場経済の論理が早くから農業にも及んでいたからです。
続きを読む 2024.03.29
救貧 Poor Relief
救貧の歴史では、エリザベス朝期に導入された救貧法がよく知られています。西欧では、慈善(チャリティ)の制度化が、同法導入以前から進んでいました。課税システムの構築よりもはるかに古い富の分配機能定着の歴史です。かくして、救貧は、生産、流通、消費と同じように、経済と密接にかかわる西洋経済史の重要なテーマと言えます。
続きを読む 2024.10.24
近世 Early Modern
経済史の講義では、16〜18世紀を近世と呼び、それ以前の時代を中世、その後の時代を近代とし、時代区分を定めています。もちろん、このような時代区分が常に妥当なわけではなりません。しかし、イギリス経済史に関する限り違和感は少なく、歴史家の間でもコンセンサスが得られやすいと言えるでしょう。
続きを読む 2024.09.29
ヨーロッパ的結婚パターン
European Marriage Pattern
人口変動は、マクロ経済について評する際の重要なテーマです。近代経済のもとでは、繰り返される大量死を想定する必要がなくなったので、人口変動の考察では主に出生率が注目されるようになりました。続きを読む 2024.10.26
国家形成 State Formation
マクロ経済という概念が意味をなす前提には国家という行政単位の定着が不可欠であることは言うまでもありません。その歴史を、国民国家の建設に拍車がかかる19〜20世紀に見出す見方もありますが、イギリス経済史上、国家形成の原点は、1530年代の「行政革命」にまで遡ることができます。
続きを読む 2024.09.26
財政革命
遊休資本をいかにして経済活動に活用できるかは、金融システムの質に依存します。その意味で、17世紀初頭に株式会社として設立された東インド会社は、画期的な経営組織となりました。その後、この民間金融のイノベーションが公的部門にも応用されるようになったからです。1694年におけるイングランド銀行の設立です。続きを読む 2024.03.14
産業革命
「産業革命はなぜイギリスに起こったのか」という問いに対し、これまで多くの学者が答えを出してきました。そのお陰で、産業革命に至る経済史は驚くほど豊かになりました。この成り行き一つとっても、近代経済史について論じる際、産業革命以前の出来事を軽んじる歴史観がいかに不合理であるかがわかるでしょう。続きを読む 2024.06.26
資本家
担保になり得る資産を積極的にビジネスに活用する人のことですが、具体的にイメージするのが難しく、つい大雑把な理解に陥りがちな用語です。例えば、産業革命期の工場主や問屋制の織元らははわかりやすい例ですが、東インド会社に投資する女性、ロンドン市の有力な親方職人、裕福な農民や下層地主(ジェントリ)らのように、実際、投資をビジネスの一部と考えていた者のプロフィールは多様でした。続きを読む 2024.09.12
消費革命
19世紀後期における経済思想史上の変化により、経済学者の目線が生産(労働価値説)から消費(効用理論)へ移行したことはよく知られています。それから約100年後、イギリス経済史の研究領域においても、供給側の変化(産業革命)から、それ以前に拡大する内需の大きさへと視点が移り、人々の購買意欲の高まりに注目が集まりました。「消費社会の誕生」、あるいは、「消費革命」と呼ばれることもあります(Gilboy:1932; Thirsk:1978; McKendrick:1989)。続きを読む 2024.06.30
植民地主義
16〜19世紀において西欧の商業力はヨーロッパ以外の地域へ拡張していきます。しかし、当初の目的は、国家による植民地の政治的支配ではありませんでした。初めは主に商業主義が目立ち、貿易量も限られていました(Coleman:1977)。その影響の大きさは時期と場所によっても大きく異なっていたのです。
続きを読む 2024.06.13
人口増加
経済史において人口変動が注目されるのは、史料が乏しい近代以前の経済動向を推定するための重要なデータになり得るからです。人口増加は概ね好況を示唆し、持続すれば経済成長の裏付けにもなります。
続きを読む 2024.10.12
大分岐
19世紀に入るとイギリス産業革命の成功を他の西欧諸国とアメリカ合衆国が追いかけることになります。その結果、20世紀には欧米諸国と他の国々との間の所得格差が開く結果となりました。大分岐と呼ばれる現象です。続きを読む 2024.05.29
中間層 The Middling Sort
経済史の講義では、各時代の特徴について社会階層別に説明されることがよくあります。そこには大切な意味があります。例えば、経済学では消費者と生産者の区別はありますが、現実には、個々の経済力や生きる力に差があるわけですから、同じ消費者や生産者の間でもそれぞれの所得や職業の違いに目配りが必要になります。続きを読む
2024.10.04
都市化 urbanization
都市化といえば、都市人口が増え、大都市がいくつも生まれる過程を想像します。一国の経済において、都市に住む人々の割合が増える現象を示す用語であることは間違いありません。しかし、重要なのは、その用語に含意される社会変化の方向性にあります。続きを読む 2024.06.30
土地保有 landholdings
中世・近世の農業経済史の講義でよく用いられる土地利用に関連する用語です。この用語は、時の権力者(王権や領主)から一時的に土地を与えられその土地を利用する権利と共に、将来的には返上することが前提とされるニュアンスを含みます。私的所有権が確立される前によく用いられていた概念です。続きを読む2024.10.12
奴隷貿易
言わずと知れた植民地主義にまつわる負の遺産ですが、西洋経済史の研究では論争が激しいテーマの一つです。イギリス産業革命と同じ頃(18世紀後半〜)に盛んであったことから欧米経済の成功要因と考えられがちですが、意外にも、そのルーツを辿ると、アフリカ大陸内における悪しき伝統に突き当たります。そこでは、西欧人が訪れる前から奴隷制が広まっていたのです(Allen: 2011, 97)。
続きを読む 2024.06.26
東インド会社
遠方の地域との取引が増えれば想定すべき市場圏も当然大きくなります。西洋経済史のおもしろさは、市場圏の拡大に呼応して制度と組織が着実に変化していく様を考察できる点にあります。農業におけるエンクロージャーや、政治の分野で目立つ国家形成はその好例と言えるでしょう。続きを読む 2024.06.26
封建制 Feudalism
中世ヨーロッパには土地保有を基礎に経済的権力関係を維持する封建制と呼ばれる制度がありました。領主と家臣との間の軍事的関係のもとで営まれる農業中心の経済関係が強調されがちですが、肝心なのは、封建制の定着により、ルールに基づく経済社会が成立したことです。それは、市場経済が伸びる前提条件となるからです。続きを読む 2024.04.29
参考文献
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Allen, R.(2011), Global economic history : a very short introduction.Oxford.[訳書]
Britnell, R. H. (1993), The commercialisation of English society, 1000-1500. Cambridge.
Broadberry, S.N.(2015), British economic growth, 1270-1870. Cambridge.
Campbell, B. M. S.(2009), ‘Factor markets in England before the Black Death’, Continuity and Change, 24 , 79-106.
Coleman, D.C. (1977), The economy of England, 1450-1750 . London.
Crafts, N.F.R.(1985), British economic growth during the Industrial Revolution. Oxford.
Fisher, F.J.(1948), 'The Development of London as a Centre of Conspicuous Consumption in the Sixteenth and Seventeenth Centuries', The Transactions of the Royal Historical Society, 4th series, vol. 30.
Fox, H.S.A.(1975),'The chronology of enclosure and economic development in medieval Devon', The Economic History Revew, vol. 28, 181-202.
Gibbs, S.(2019), 'Lords, tenants and attitudes to manorial office-holding, c.1300-c.1600', Agricultural History Review, vol.67 (2019), 155-74.
川名 洋 (2024)『公私混在の経済社会』 日本経済評論社.
Koyama, M., and Rubin, J.(2022), How the world became rich : the historical origins of economic growth. Cambridge.[訳書]
Miller, E. and Hatcher, J.(1978), Medieval England : rural society and economic change, 1086-1348. London.
Murphy, A.L.(2009), The origin of English financial markets: investment and speculatoin before the South Sea Bubble. Cambridge.
Overton, M. (1996), Agricultural revolution in England : the transformation of the agrarian economy, 1500-1850. Cambridge.
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Date Created: 2024/04/01 Last Updated : 2024/10/15
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