東北大生が西洋経済史の試験やレポートでよく引用する経済史の用語集です。要点を確認し、授業の予習・復習に活用しましょう。
福祉経済 救貧法 / チャリティ / ホスピタル
移住 Migration
移動する距離にかかわらず、他の地に永続的、または、半永続的に移り住むことを意味する用語です。交通が発達した近現代では、外国への移住が目立ちますが、産業革命以前の都市化や職業構造の変化を主題とする長期の経済史では、農村から都市への移動を主に思い浮かべることになるでしょう。続きを読む 2024.12.20
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エンクロージャー Enclosure
「囲い込み」と訳されるイギリス農業史のキーワードです。特定の時期(「第1次」、「第2次」など)に起こる現象であるかの如く説明するテキストもあるようですが、農地・農法の改良は中世・近世を通じて行われていました(Fox:1975) 。市場経済の論理が早くから農業にも及んでいたからです。続きを読む 2024.03.29
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技術革新 Technological Innovation
技術革新に対する歴史的見方は、大きく二分されます。そのインパクトに着目するならば、産業革命 が重要な転換点となるでしょう。新技術が次々と応用され、生産や流通の分野に浸透していくスピードは、産業革命以降、加速度的に増しています。続きを読む 2025.02.05
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救貧法 The Poor laws
救貧法の施行が注目されるのは、その結果、救貧という、もともと自発的・宗教的な行為が、政府や議会、都市自治体などの公的機関の号令のもとに義務化されることになったからです。それに合わせて、救済に値する者と労働を強いられる健常者との区別が法的根拠をもとに試みられるようになりました。ここに、弱者救済策が財政及び雇用政策と重なるという近代福祉社会の前提となる制度が誕生するのです。エリザベス1世治世に導入されたため、エリザベス救貧法と呼ばれることもあります。
続きを読む 2024.11.22
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行政革命 The Tudor Revolution in Government
民主主義と権威主義。どちらの政治体制が経済的に優れているかを問う最近の思想的潮流は、決して特別なものではありません。同様の問いは、冷戦時代にも存在しました。また、国家建設の歴史を踏まえれば、時をさらに遡ることもできるでしょう。実際に西欧において経済成長と国家運営との関係は、近世において既に重要視され始めたと考えられます。をさらに遡ることもできるでしょう。実際に西欧において経済成長と国家運営との関係は、近世において既に重要視され始めたと考えられます。続きを読む 2025.02.15
近世 Early Modern
経済史の講義では、16〜18世紀を近世と呼び、それ以前の時代を中世、その後の時代を近代とし、時代区分を定めています。もちろん、このような時代区分が常に妥当なわけではありません。しかし、イギリス経済史 に関する限り違和感は少なく、歴史家の間でもコンセンサスが得られやすいと言えるでしょう。続きを読む 2024.09.29
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穀物法 The Corn Laws
自由貿易の是非をめぐる19世紀の政策的・思想的論争を想起しがちですが、穀物の輸出入を規制する穀物法は、中世に導入され始めた重要な食料政策の一つです。生存に必要な食料が人々に行き渡らない状態を避けるため講じられた政策でした。
穀物の輸出入には、国内農業従事者の保護と消費者利益の増進という二つの目的が内在しています。しかし、当時、食料供給は人々の生存率を高める最も重要な要件であったため、後者の消費者利益、特に食料へのアクセス可能性を確保する視点が重視されたとしても不自然ではないでしょう(Gras:1915) 。2025.03.05
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国家形成 State Formation
マクロ経済という概念が意味をなす前提には国家という行政主体の成立があったことは言うまでもありません。その歴史を、国民国家の建設に拍車がかかる19〜20世紀に見出す見方もありますが、イギリス経済史 上、国家形成の原点は、1530年代の「行政革命」にまで遡ることができます。
続きを読む 2024.09.26
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財政革命 The Financial Revolution
遊休資本をいかに効率よく経済活動に活用できるかは、金融システムの質に依存します。その意味で、17世紀初頭に株式会社として設立された東インド会社 は、画期的な経営組織と言えます。なぜなら、ビジネスに必要な資金を不特定多数の投資家から集める民間金融のイノベーションに成功したからです。そのノウハウは、その後、公的使命を帯びた金融機関にも応用されるようになりました。1694年におけるイングランド銀行の設立です。続きを読む 2024.03.14
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産業革命 The Industrial Revolution
「なぜ産業革命はイギリスで起こったのか」という問いに対し、これまで多くの学者が答えを出してきました。そのお陰で、産業革命に至る経済史は驚くほど豊かになりました。この成り行き一つとっても、近代経済史について論じる際、産業革命以前の出来事を軽んじる歴史観がいかに不合理であるかがわかるでしょう。続きを読む 2024.06.26
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市場革命 The Market Revolution
商品の販売はかつて、食料や衣服の取引の例が示すように、顧客に相対して行われるのが一般的でした。例えば、食料品商は、顧客の顔と好みをよく知っていましたし、仕立屋は、客の注文を聞いてから作業に取りかかました。このように、伝統的な市場では、変化に乏しい顧客のニーズに着実に応えることが、商品販売の動機になっていました。続きを読む 2024.06.26
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自治都市 Cities and Boroughs
近代経済は、消費財の購入から人生設計に至るまで、個人に幅広い選択肢を保障する自由な社会の中で動いています。イギリス経済史 の研究成果から、一千年近い歴史を有する自治都市の歴史との繋がりが見えてきました(川名:2024) 。続きを読む 2024.11.07
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食料供給 Food Supply
いかなる時代においても、人口増加が持続するための条件は、人々が生きていくために必要な食料が十分に供給される状態を維持することでした。そこで、経済史の研究では、各国において食料供給が安定し始めるタイミングを探ることになります。食料輸入が一般的になるには、海運効率が飛躍的に向上する19世紀を待つ必要があったので、その前の時代においては、国内の高度な農業生産力に頼るしかありませんでした。現代の物差しで表現すれば、高い「食料自給率」の維持が、持続的人口増加の条件であったと言えるでしょう。続きを読む 2025.03.06
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資本家 Capitalist
担保になり得る資産を積極的にビジネスに活用する人のことですが、具体的にイメージするのが難しく、つい大雑把な理解に陥りがちな用語です。例えば、産業革命 期に登場する工場主や問屋制度を組織した織元らはわかりやすい例ですが、東インド会社 に投資する主婦、ロンドン市の有力な親方職人、裕福な自作農や下層地主(ジェントリ)らのように、実際に投資をビジネスの一部と考えていた者を含めれば、そのプロフィールは様々でした。続きを読む 2024.09.12
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消費革命 The Consumer Revolution
年齢にかかわらず、私たち人間が経験する最も身近な経済行為は消費です。人生の質を決定する大事な選択を伴う経済行為でもあります。19世紀後期における経済思想史上の変化により、経済学者の目線が生産(労働価値説)から消費(効用理論)へ移行したことはよく知られています。それから約100年後、イギリス経済史 の研究領域においても、供給側の変化(産業革命)から、それ以前に拡大する内需の大きさへと視点が移り、人々の購買意欲の高まりに注目が集まりました。「消費社会の誕生」、あるいは、「消費革命」と呼ばれることもあります(Gilboy:1932; Thirsk:1978; McKendrick:1989) 。続きを読む 2024.06.30
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植民地主義 Colonialism
地中海及び北海・バルト海商業圏において蓄えられた西欧の商業力は、16〜19世紀にかけてヨーロッパ以外の地域へ拡張していきます。しかし、全ての国が初めから植民地の政治的支配に乗り出していたわけではありません。例えば、イギリスの場合、当初は主に商業主義が目立ち、貿易量も限られていました(Coleman:1977) 。その影響の大きさも、時期と場所によって大きく異なっていたのです。
続きを読む 2024.06.13
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人口増加 Population Increase
経済史において人口変動が注目されるのは、史料が乏しい近代以前の経済動向を推定するための重要なデータになり得るからです。人口増加は概ね好況を示唆し、持続すれば経済成長の裏付けにもなります。続きを読む 2024.10.12
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税制 The Tax System
一人の人間とは異なり、国家には明確な意思がなく、経済成長は必要でも、国家自体を労働力の単位と見なすことはできません。そこで、国家の意思決定には議会を必要とし、国家の経済力を高めるためには、国民の間に蓄積された富の一部を活用するシステムが必要になります。それが、税制です。続きを読む 2025.02.15
大分岐 The Great Divergence
19世紀に入るとイギリス産業革命 の成功を他の西欧諸国とアメリカ合衆国が追いかけることになります。その結果、20世紀には欧米諸国と他の国々との間の所得格差が開く結果となりました。大分岐と呼ばれる現象です。続きを読む 2024.05.29
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中間層 The Middling Sort
経済史の講義では、各時代の特徴について社会階層別に説明されることがよくあります。そこには大切な意味があります。経済学では消費者と生産者の区別はありますが、現実には、個々の経済力や生きる力に差があるわけですから、実際の経済を再現するとなれば、同じ消費者や生産者の間でもそれぞれの所得や職業の違いに目配りが必要になります。そこで、経済史学では、社会階層や職種・職業の違いを考慮しながら、経済成長の要因や市場経済の意味を読み解くスキルが求められるのです。続きを読む 2024.10.04
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定住法 The Law of Settlement
移動の自由が経済的にも人権の面でも尊重される近現代の常識から見れば、近世の前半期、1662年にイギリスにおいて制定された定住法は、悪法の誹りを免れないでしょう。その約半世紀前、救貧法 の導入によって働けない弱者と健康で働ける者をうまく区別する試みがなされるようになりましたが、給付と雇用機会の偏在によって人々が移住を繰り返す事態に対処できないという課題が残されました。定住法は、そうした課題への最初の公式な対策であったと言えるでしょう。一部の教区に救貧の負荷が集中しないよう、貧困者の移動に対する取り締まりが強化されたのです。続きを読む 2025.01.25
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都市化 Urbanization
都市化といえば、都市人口が増え、大都市がいくつも生まれる過程を想像します。一国の経済において、都市に住む人々の割合が増える現象を示す用語であることは間違いありません。しかし、重要なのは、その用語に含意される社会変化の方向性にあります。続きを読む 2024.06.30
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都市文化 Urban Culture
18世紀イギリスの都市文化は、都市を基点に生じる社会変化の好例と言えます。当時、イギリスの都市化率は上昇し続けていましたが、その経緯は単なる人口の集中ではなく、洗練された都市文化の影響が強まる現象として捉えることができます。都市に集う中間層 の人々の行動様式や価値観が独自のカルチャーとなって定着し、社会に浸透したからです。都市史学者P・ボーゼイは、その現象を「都市ルネサンス」と名付けました。(Borsay:1977, 96-7) 。続きを読む 2024.09.30
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土地保有 Landholdings
中世・近世の農業経済史の講義でよく用いられる土地利用にかかわる用語です。この用語は、時の権力者(王権や領主)から土地を与えられるものの、利用の仕方を含めいくつもの条件があらかじめ定められ、場合によっては返上することが義務付けられるニュアンスを含みます。定期借地権が認められ、やがて私的所有権が確立される前によく用いられていた概念です。続きを読む 2024.10.12
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奴隷貿易 The Slave Trade
言わずと知れた植民地主義 にまつわる負の遺産ですが、西洋経済史の研究では論争が激しいテーマの一つです。イギリス産業革命と同じ頃(18世紀後半〜)に盛んであったことから欧米経済の成功要因と考えられがちですが、意外にも、そのルーツを辿ると、アフリカ大陸内における悪しき伝統に突き当たります。そこでは、西欧人が訪れる前から奴隷制が広まっていたのです(Allen: 2011, 97) 。続きを読む 2024.06.26
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東インド会社 The East India Company
遠方の地域との取引が増えれば想定すべき市場圏も当然大きくなります。西洋経済史のおもしろさは、市場圏の拡大に呼応して制度と組織が着実に変化していく様を考察できる点にあります。農業におけるエンクロージャーや、政治の分野で目立つ国家形成 はその好例と言えるでしょう。続きを読む 2024.06.26
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封建制 Feudalism
中世ヨーロッパには土地保有 の慣習を基礎に農業経済が維持される封建制と呼ばれる制度がありました。国王とその家臣との間の軍事的主従関係や、その下で営まれる領主と農民との間の上下関係が強調されがちですが、封建制の歴史的意義は、その制度を基礎に、ルールに基づく経済社会が何世紀もの長い間、維持されていたことにあります。封建制は、西欧において市場経済が伸びた前提条件と言えるからです。続きを読む 2024.04.29
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ヨーロッパ的結婚パターン The European Marriage Pattern
総人口の変化は、歴史上、マクロ経済の状態を知る上で重要なバロメーターです。近代に入ると、飢饉などによる大量死を想定する必要がなくなったので、人口変動の考察では、主に婚姻率と出生率が注目されます。続きを読む
2024.10.26
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参考文献
Allen, R.(2011), Global economic history : a very short introduction. Oxford.〔訳書〕
Borsay, P.(1977), ‘The English Urban Renaissance: The Development of Provincial Urban Culture c. 1680-c. 1760’, Social History , vol.2,(1977), 581-603.
Coleman, D.C. (1977), The economy of England, 1450-1750 . London.
Fox, H.S.A.(1975),'The chronology of enclosure and economic development in medieval Devon', The Economic History Revew , vol. 28, 181-202.
Gilboy, E.W. (1932)‘Demand as a Factor in the Industrial Revolution’, in A.H. Cole et al., eds., Facts and Factors in Economic History .Cambridge, Mass.
Gras, N.S.B.(1915), The Evolution of the English corn market from the twelfth to the eighteenth century . Cambridge, Mass.
川名 洋 (2024)『公私混在の経済社会』 日本経済評論社.
McKendrick, N.(1989), ‘The consumer revolution of eighteenth-century’, in McKendrick et al., eds., The Birth of consumption: The Commercialization of Elighteenth-Century England . Kingston.
Thirsk, J.(1978) , Economic Policy and Projects: the Development of a consumption in Early Modern England . Oxford: Clarendon.〔訳書〕
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Last Updated : 2025/03/07
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