国際卓越研究大学認定校
東北大学 大学院経済学研究科・経済学部 川名 洋教授(西欧経済史)

Prof. Yoh Kawana(Ph.D. University of Leicester)

経済史のキーワード
用語集



 

 東北大生が西洋経済史の試験や 
レポートでよく引用する経済史の用語集



移住 Migration

 東京一極集中、過疎化、外国人技能実習制度。移住は、これらの時事問題に共通する重要なテーマです。移住の是非は、場所、時代、個人の状況によって大きく異なり、一概に結論付けられるものではありません。しかし、経済成長には、住む場所を選ぶ自由を容認する制度とカルチャーの存在が重要であることが、明らかになってきました。
続きを読む2024.12.20

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エンクロージャー Enclosure

 農業法人の設立や農業の6次産業化。近年、規模の経済が物を言う農業に対する認識が大きく変わりつつあります。一方、どの先進国の農業も政府の保護を必要とするとはいえ、独立自営農民、大規模農業経営、農業革命といった用語が、経済史のキーワードになる西欧の例は注目に値します。エンクロージャーもその一つです。続きを読む2024.03.29

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技術革新  Technological Innovation

 技術革新が人類にとって諸刃の剣であることは、現在では広く認識されています。大量破壊兵器の開発はもとより、生命の営みそのものを脅かしかねないからです。だからといって技術革新が止まることはありません。17世紀の科学革命により、パンドラの箱はすでに開けられたからです。独創的な発明・発見を何よりも重んじる価値観は如何にして広まったのか。西洋経済史の重要な問いです。
続きを読む2025.02.05

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救貧法  The Poor laws

 加齢、介護、経済格差。今では問題意識を喚起する際の決まり文句です。ところが、中間層の人々がこれらの課題を認識し、制度を構築するようになる歴史的スピードには、文化圏によって大きな差がありました。いち早く着手した国々の経済が先に伸びたのは、決して偶然ではなかったことが明らかになってきました。 続きを読む2024.11.22

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行政革命
The Tudor Revolution in Government

 民主主義と権威主義。どちらの政治体制が経済的に優れているかを問う最近の思想的潮流は、決して特別なものではありません。同様の問いは、冷戦時代にも存在しました。また、国家建設の歴史を踏まえれば、時をさらに遡ることもできるでしょう。西欧近世に露わになる各国間の政治システムの違いは、やがて経済力の差を伴って近現代史の方向性を決定づけることになったのです。続きを読む2025.02.15

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近世  Early Modern

 17世紀に西洋とのつながりを制限した日本が、19世紀になると逆にそれを広げたのはなぜでしょう?もちろん、日本の事情は広く知られています。一方、その理由は、西洋の側にも見出されるのです。続きを読む2024.09.29

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穀物法 The Corn Laws

 2025年日本の冬。生産調整の是非が問われる中、一部の業者が米を買い占める令和の米騒動が起こりました。食料供給の安定は、農業生産力だけでなく流通の問題でもあることを改めて想起させる事件です。実は、中世の人々も流通の重要性をよく認識していました。そのことがわかる制度が穀物法の歴史に残されています。続きを読む
2025.03.05

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公開市場 The Open Market

 マーケットと言えば、証券市場を思い浮かべる者は多いでしょう。一方、西欧都市には、中世以来続く市場いちばが、安価な食料品の販売場所として今でも都市景観の一部となっています。それは、教会と共に西欧都市の歴史的連続性を示す象徴的な制度と言えます。
続きを読む2025.03.29

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国家形成 State Formation

 マクロ経済という概念が意味をなす前提には国家という行政主体の成立があったことは言うまでもありません。その歴史を、国民国家の建設に拍車がかかる19〜20世紀に見出す見方もありますが、イギリス経済史上、国家形成の原点は、1530年代の「行政革命」にまで遡ることができます。 続きを読む2024.09.26

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財政革命 The Financial Revolution

 財政規律の難しさと財政破綻の可能性が問われる中、消費税減税や手取りを増やす税制改正をめぐり、財務省の動きが注目を集めています。これらの時事問題のルーツを探ると、17世紀の西欧に起こった金融と財政にまたがる大改革に行き着きます。続きを読む2024.03.14

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産業革命 The Industrial Revolution

 「なぜ産業革命はイギリスで起こったのか」という問いに対し、これまで多くの学者が答えを出してきました。そのお陰で、産業革命に至る経済史は驚くほど豊かになりました。この成り行き一つとっても、近代経済史について論じる際、産業革命以前の出来事を軽んじる歴史観がいかに不合理であるかがわかるでしょう。続きを読む2024.06.26

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市場革命 The Market Revolution

 商品の販売はかつて、食料や衣服の取引の例が示すように、顧客に相対して行われるのが一般的でした。例えば、食料品商は、顧客の顔と好みをよく知っていましたし、仕立屋は、客の注文を聞いてから作業に取りかかりました。このように、伝統的な市場では、変化に乏しい顧客のニーズに着実に応えることが、商品販売の動機になっていました。
続きを読む2024.06.26

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自治都市 Cities and Boroughs

 公務員を目指す学生に限らず、市民一人ひとりにとって国や政府との関わり方を考えるのは大切なことです。事故や災害の際に公の力は欠かせませんが、その一方で、身の回りのことは大概自分で決めたいと誰もが思うものだからです。続きを読む2024.11.07

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食料供給 Food Supply

 「地産地消」への関心の高まりは、かつての自給自足経済を彷彿とさせる興味深い社会現象と言えます。この動きを中世の封建制に照らし合わせるならば、地産地消の動向に伴い、分権化へと回帰する行政改革の可能性を想定してみるのも面白いでしょう。
続きを読む2025.03.06

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資本家 Capitalist

 担保になり得る資産を積極的にビジネスに活用する人のことですが、具体的にイメージするのが難しく、つい大雑把な理解に陥りがちな用語です。例えば、産業革命期に登場する工場主や問屋制度を組織した織元らはわかりやすい例ですが、東インド会社に投資する主婦、ロンドン市の有力な親方職人、裕福な自作農や下層地主(ジェントリ)らのように、実際に投資をビジネスの一部と考えていた者を含めれば、そのプロフィールは様々でした。続きを読む2024.09.12

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消費革命 The Consumer Revolution

 消費の拡大がマクロ経済の成長にとって欠かせないのは言うまでもありません。また、活発な消費には、個人による商品の選択を通じて自由な社会を維持する効果もあります。消費革命がいつどの国に起こったかを調べることで、そのことがよりはっきりと理解できるようになるでしょう。続きを読む2024.06.30

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植民地主義 Colonialism

 植民の歴史には常に、取引や価値観の強制といった負の側面と、優れた技術や制度、思想の伝播といった正の側面とが存在します。感情を揺さぶられるテーマですが、いずれの影響も定量化は困難であるため、単純に正と負の側面を天秤にかけるような議論は適切ではありません。また、各国の例を無視して、その歴史を一律に評するのも難しいでしょう。 続きを読む2024.06.13

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人口増加 Population Increase

 人口減少の時代にマーケットの縮小や少子高齢化が問題となるのは当然です。経済史の視点から見れば、そうした現状に対する懸念は、さらに深刻でしょう。なぜなら、総人口が持続的に増加したからこそ、近代経済の誕生が可能であったことがわかっているからです。続きを読む2024.10.12

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税制 The Tax System

 一人の人間とは異なり、国家には明確な意思がなく、経済成長は必要でも、国家自体を家族のように労働力の単位と見なすことはできません。そこで、国家の意思決定には議会を必要とし、国家の経済力を高めるためには、国民の間に蓄積された富の一部を活用するシステムが必要になります。それが、税制です。続きを読む2025.02.15

大分岐 The Great Divergence

 19世紀に入るとイギリス産業革命の成功を他の西欧諸国とアメリカ合衆国が追いかけることになります。その結果、20世紀には欧米諸国と他の国々との間の所得格差が広がる結果となりました。大分岐と呼ばれる現象です。続きを読む2024.05.29

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中間層 The Middling Sort

 医師、弁護士、教員、看護師、建築士、会計士、官僚、ジャーナリストといった専門職に従事する人々の活躍は、経済の質に重大な影響を及ぼします。なぜなら、専門職に携わる人々の価値観、世界観、倫理観、人生観は、経済力を有する中間層の人々の集合的アイデンティティに大きく作用すると考えられるからです続きを読む2024.10.04

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定住法 The Law of Settlement

 現在では、どの経済先進国においても、国民は住む場所を自由に選ぶことができます。一方、政府は、出入国管理といった明確な規制に限らず、教育機関、交通インフラ、公共サービス提供の場を介して、人々の自由な選択を抑制する影響力を持っています。
続きを読む2025.01.25

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都市化 Urbanization

 産業革命によって人々の働き方は大きく変わりました。家庭ではなく、工場やオフィスで働くことができるようになったからです。都市化によって人々の暮らし方も大きく変わりました。農業に携わることなく生きる選択肢が広がったからです。産業革命は18世紀後期に起こりました。都市化はそれよりも前から始まっていたのです。続きを読む2024.06.30

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都市文化 Urban Culture

 18世紀イギリスの都市文化は、都市を基点に生じる社会変化の好例と言えます。当時、イギリスの都市化率は上昇し続けていましたが、その経緯は単なる人口の集中ではなく、洗練された都市文化の影響が強まる現象として捉えることができます。都市に集う中間層の人々の行動様式や価値観が独自のカルチャーとなって定着し、社会に浸透したからです。都市史学者P・ボーゼイは、その現象を「都市ルネサンス」と名付けました。(Borsay:1977)続きを読む2024.09.30

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土地保有 Landholdings

 土地の最適な活用方法を決定するのは誰か。この問いは、一国の経済成長、地域経済の活性化に深く関わる重要な問題です。西欧では、中世から近世にかけて、土地利用の決定権が領主及び共同体から個人へと移る傾向にありました。それは、西洋経済が発展した決定的要因の一つであったと考えられます。続きを読む2024.10.12

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奴隷貿易 The Slave Trade

 言わずと知れた植民地主義にまつわる負の遺産ですが、西洋経済史の研究では論争が激しいテーマの一つです。イギリス産業革命と同じ頃(18世紀後半〜)に盛んであったことから欧米経済の成功要因と考えられがちですが、意外にも、そのルーツを辿ると、アフリカ大陸内における悪しき伝統に突き当たります。そこでは、西欧人が訪れる前から奴隷制が広まっていたのです(Allen: 2011, 97)
続きを読む2024.06.26

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東インド会社 The East India Company

 遠方の地域との取引が増えれば想定すべき市場圏も当然大きくなります。西洋経済史のおもしろさは、市場圏の拡大に呼応して制度と組織が着実に変化していく様を考察できる点にあります。農業におけるエンクロージャーや、政治の分野で目立つ国家形成はその好例と言えるでしょう。続きを読む2024.06.26

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封建制 Feudalism

 中世ヨーロッパには土地保有の慣習を基礎に農業経済が維持される封建制と呼ばれる制度がありました。国王とその家臣との間の軍事的主従関係や、その下で営まれる領主と農民との間の上下関係が強調されがちですが、封建制の歴史的意義は、その制度を基礎に、ルールに基づく経済社会が何世紀もの長い間、維持されていたことにあります。封建制は、西欧において市場経済が伸びた前提条件と言えるからです。続きを読む2024.04.29

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ヨーロッパ的結婚パターン
The European Marriage Pattern

 総人口の変化は、歴史上、マクロ経済の状態を知る上で重要なバロメーターです。近代に入ると、飢饉などによる大量死を想定する必要がなくなったので、人口変動の考察では、主に婚姻率と出生率が注目されます。
続きを読む2024.10.26

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歴史人口学 Historical Demography

 軍備、食料供給、税収にかかわる総人口の変化は、いかなる政府にとっても関心の的です。ところが、近代以前の総人口を長期にわたり把握できる正確なデータは残されていません。19世紀の西欧において記録され始めた人口センサスが画期的なのは、他の地域に先駆けて人口統計の重要性が公式に認められるようになったことを示しているからです。それは近代経済学の基礎が固まる時期とも一致します。続きを読む2025.03.13

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参考文献

  • Allen, R.(2011), Global economic history : a very short introduction.Oxford.〔訳書〕
  • Borsay, P.(1977), ‘The English Urban Renaissance: The Development of Provincial Urban Culture c. 1680-c. 1760’, Social History, vol.2,(1977), 581-603.
  • Fox, H.S.A.(1975),'The chronology of enclosure and economic development in medieval Devon', The Economic History Revew, vol. 28, 181-202.
  • 川名 洋 (2024)『公私混在の経済社会』 日本経済評論社.


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