はじめに西洋にはチャリティや救貧法など富の分配を実践する中世以来の伝統があります。一方、近世前半の国家形成期において西洋では、国富増大を目論む政策が重視され始めました。アダム・スミスの登場に象徴されるように、富の分配と経済成長を柱とする近代経済学の思想的構造は、近世に築かれることになるのです。 しかし、その過程で、当時の経済学者すら予期できなかった現象が地球上に起こります。それは、消費革命、そしてそれに続く産業革命以降、人類の生活水準が飛躍的に高まるという現象です。とくに欧米における衣食住の水準は、現在までに16倍増加したという推定も示されています(McCloskey: 2011)。 実は、こうした歴史が経済と経済学の重要性を高めることにもなったのです。というのは、守るべき人々の数、国富の量、そして領土の価値がかつてない程大きくなったからです。当然、富の分配機能も旧態依然の状態では済まなくなりました。つまり、高水準の政治システムなしに国家を維持することは不可能になる現実が浮上したのです。 人口が増え、生産量と取引量が共に増える現象は、いかなる文明史においても見られたでしょう。西洋経済史に起こる経済成長が特別なのは、誰も想像しなかった生活水準の向上が達成されたからです。そして、その結果、その高水準を維持する超難題に立ち向かうことが、あらゆる物事の優先順位のトップとなる国際政治の世界が生み出されたからです。 近代経済成長 欧米の経済成長を、産業革命以降に顕在化するいくつもの要因により特別視する見方は、S・クズネッツにより提唱されたことは広く知られています(Kuznets: 1966)。技術と制度と知識の向上を基調に高い人口増加率と生産性を両立させる経済社会の構造が重視されました。自由で民主的な政治システムのもとでこうした構造が整えば、資源が乏しい国でも経済成長が可能となるモデルを比較経済史的方法をもとに提示した点に意味があります。そうした政治システムが条件とされるのは、職業選択の自由と社会的流動性の重要性が認識されていたからです。 参考文献 |