土地保有
中世・近世の農業経済史の講義でよく用いられる土地利用にかかわる用語です。この用語は、時の権力者(王権や領主)から土地を与えられるものの、利用の仕方を含めいくつもの条件があらかじめ定められ、場合によっては返上することが前提とされるニュアンスを含みます。定期借地権が認められ、やがて私的所有権が確立される前によく用いられていた概念です。
その条件の中には、例えば、収穫の一部を領主に納めたり、一定期間、領主の直営地で働いたりする義務があったことはよく知られています。そうした条件が領地ごとに異なる慣習によって決まっていたことから、慣習的土地保有と呼ばれます。
しかし、義務ばかりに着目して、土地保有の条件を説明すべきではありません。実際には、農地を相続したり、他者へ貸したり、譲渡したりする例も多かったことが明らかになっているからです。農民らが自ら選んで他の農村や都市へ移住することも珍しくありませんでした。そのため、土地の利用や処分の仕方が保有者の主体的選択に委ねられる「自由土地保有」の増加を見極めることが重要になります。市場付近の土地や新規に開拓された土地に多く認められたことから、商業が活発になり人口増加が続けば、このような保有地も増えていくことが想定できます。
また、イングランドでは13世紀頃に条件が緩和され、領主への金納を条件に商業や手工業、サービス業を営むことが許される、都市生活に適した土地保有が新旧の都市に目立ち始めました(Britnell: 1993)。「都市的土地保有」と呼ばれます。
このように、土地保有の歴史から中世イギリスではすでに、商業化・都市化と経済的自由は、表裏一体の関係にあったことがわかるのです。しかも、そのような関係が封建制の基礎となる農業経済において顕在化したことに重要な歴史的意義があります。このことからも、封建制が市場経済を内包していたイギリス経済史の事情を認識することができるからです。
2024.10.12
参考文献
Britnell, R. H. (1993), The commercialisation of English society, 1000-1500. Cambridge.
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Last updated : 2024/10/12
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