はじめに |
はじめに言わずと知れた植民地主義にまつわる負の遺産ですが、西洋経済史の研究では論争が激しいテーマの一つです。イギリス産業革命と同じ頃(18世紀後半〜)に盛んであったことから欧米経済の成功要因と考えられがちですが、意外にも、そのルーツを辿ると、アフリカ大陸内における悪しき伝統に突き当たります。そこでは、西欧人が訪れる前から奴隷制が広まっていたのです(Allen: 2011, 97)。 一方、奴隷貿易で潤ったビジネスが産業技術のイノベーションを促したことを示す証拠はそう多くはないという論点が示されています(Koyama and Rubin: 2022)。 欧米経済が奴隷貿易によって潤ったのは確かです。しかしだからといって、マルクスの主張に端を発する近代世界システム論で示唆されるように、搾取が近代経済勃興の主要因であったと言えるかどうか。論争は続きそうです。2024.06.26 奴隷制の廃止イギリスは奴隷制を生み出した最初の国ではありません。しかし、初めて奴隷制廃止に動いた国として注目されます。内乱後の17世紀後半にイギリス商人らは、ポルトガルやスペイン中心のそれまでの奴隷貿易に参入し、18世紀初期までにはその権益を掌握するに至りました(Coleman: 1977)。 ところが、アメリカ独立戦争における敗北の衝撃は、奴隷貿易に反対する宗教家や人道主義者の主張を強める一因となりました。その結果、イギリスでは、宗教的(教会)及び啓蒙思想的(世俗)観点から、奴隷制の存続は困難と考えられるようになったのです(Hopikins: 2018) やがて、アメリカ合衆国における奴隷制廃止運動へと繋がるこうした動きは、人類史上の重要な転換点といえます。時期を同じくする産業革命になぞらえれば、その裏側で起こっていたまさに思想的革命と捉えることができます。2025.03.23 参考文献 |