エンクロージャー「囲い込み」と訳されるイギリス農業史のキーワードです。特定の時期(「第1次」、「第2次」など)に起こる現象であるかの如く説明するテキストもあるようですが、制度変化を伴う農地・農法の改良は、中世・近世を通じて行われていました(Fox:1975)。市場経済の論理が早くから農業にも及んでいたからです。 ある地域においてエンクロージャーが起こるきっかけは、場所と時代によって異なります。耕地から放牧地への転換一つとっても領主と農民の間の交渉による場合もあれば、よりよい土地へ移り住むために農民自ら農村を出て行ったことが原因となる場合もありました。その結果、放牧への転換が起こるのは不思議ではありません。耕作よりも牧畜の方が農作業は労働節約的になるからです。(Overton: 1996, 160; Broadberry: 2015, Ch.2)。働き手が不足する時代にはむしろ、自然な成り行きであったと見ることもできるでしょう。 このように、領主と農民の立場は違っていても、経済状況に応じた合理的な判断がなされていた点は共通していました。それは農業において、継続を重視する伝統や慣習による価値観ではなく、状況の変化に適応する個人の選択も重要になっていたことを示しています。エンクロージャーといえば小農を追いやる悲観的解釈がつきものです。しかし、冷静に見れば、個人主義的で商業色が強いイギリス農業の象徴ととらえることもできるのです。 レポートの課題例 参考文献 |