国際卓越研究大学 UREX 1
東北大学 大学院経済学研究科 川名 洋教授(西欧経済史)

Prof. Yoh Kawana(Ph.D. University of Leicester)


経済史のキーワード

女性史
Women's History

 

はじめに

女性史と公私混在の経済社会

都市化と女性の活躍 **

家内取引の影響 **

工業化、人口増加、都市化の影響

** 受講者のみ

はじめに

  戦後、男女間の格差は、経済力及び社会進出いずれの面でも縮まりました。こうした傾向が経済先進国に目立ち、男女間の格差解消に消極的な国々の経済が停滞するのは不思議ではありません。なぜなら、性差別による経済的損失は莫大であることがわかっているからです。2007年の国連による報告によれば、アジア・太平洋諸国において女性を労働市場から排除するコストは、年間約430〜470億ドルと推計され、女性を教育から排除することによってさらに160〜300億ドルが失われると推計されました (Ogilivie: 2007)

 男女間の格差は人権上の問題です。一方、その解消は経済成長を促す経済的課題でもあります。しかし、最近になるまで問題が残されたとすれば、その要因の探究は、人類共通の歴史的課題と見なすこともできます。
2025.07.29

女性史と公私混在の経済社会

  近世イギリス社会の特徴は、個人の都合が優先される緩い人間関係によって物事が動く社会領域にあることがわかってきました。すなわち、市議会やギルドのように合意形成によって物事が決まる「公式な領域」に対する「非公式な領域」の存在です (川名:2010; 川名: 2024)。それは、働く女性が目立つ社会領域でもありました。

 当時のイギリスは、西欧諸国の中でも最も安定的に都市化が進んでいた国として知られています。都市経済の比重が高まるにつれて、都市の非公式な社会領域は益々重要になっていきました。女性史は、その歴史を見極める上で重要な視座を提供することになるでしょう。
2025.08.14

工業化、人口増加、都市化の影響

 かつて男女間の格差問題は、工業化の歴史的文脈に沿って論じられました。例えば、家内工業から工場制工業への移行によって、女性は労働市場において不利な立場に置かれるか、あるいは、市場から排除される存在になったと主張されました。また、工業化の初期段階において女性は、簡単に解雇されるいわば使い捨ての労働力になったという悲観論も示されました。多くの女性が低賃金で工場で雇用されたものの、技術革新の結果、資本集約的生産が主流になると雇用は男性にとって代わられる傾向にあったからです。

 急激な工業化に着目するこれらの見方は、19世紀のイデオロギーに思想的基盤をおいている点で共通しています (Burnette: 2008)

 しかしながら、男女間格差に作用した歴史的要因は、生産様式の変化だけではありません。例えば、イギリスの女性にとって中世後期が「黄金時代」とされた理由は、その時代の総人口の減少にありました。慢性的労働力不足のため、女性は有利な条件で働くことができたというのです参考「女性の活躍と結婚パターン」

 対照的に近世前半期は人口増加の時代でした。しかし、だからといって女性の経済機会が減少したとは言えません。当該時期は都市化の時代でもあったからです。

近世の都市経済に目立ったのは、中間層の人々の活躍でした。夫の営業を支える者がいる一方で、裕福な世帯では、妻の収入へ依存しなくて済むようになるケースもあったでしょう。また、都市では職種によって女性の働き方も、当然、異なりました。かくして、働く女性の立場は、一様ではなく、時代や状況によって大きく異なり、変化の説明要因も単純ではなかったと考えられるのです (Wrightson: 1988)
2025.08.13

参考文献

      Burnette, J. (2008),Gender, work and wages in industrial revolution Britain.Cambridge.
      Clark, A. (1919), Working Life of Women in the Seventeenth Century. London.
      Dale, M. K. (1933), ‘The London silkwomen of the fifteenth century’, Economic Hisotry Review, vol. 4, pp. 324-35.
      Hanawalt, B. A. (2007), The wealth of wives: Women, law, and economy in late medieval London. Oxford.
      川名 洋 (2010)『イギリス近世都市の「公式」と「非公式」』創文社/講談社.
      Pound, J. (1988), Tudor and Stuart Norwich. Chichester.
      Ogilvie, S. (2007), 'Can We Rehabilitate the Guilds? A Sceptical Re-Appraisal', working paper, University of Cambridge.
      Pinchbeck, I. (1930), Women Workers and the Industrial Revolution 1750-1850. London.
      Stevens, M. F. (2012), ‘London women, the courts and the ‘Golden Age’: A quantitative analysis of female litigants in the fourteenth and fifteenth centuries’, London Journal, vol. 37 , pp. 67-88.
      Stretton, T. (1998), Women Waging Law in Elizabethan England. Cambridge.
      Willson, A. (1990), 'The ceremony of childbirth and its interpretation', in V. Fildes, ed.,Women as mothers in pre-industrical England. London.
      Wright, S. (1985)., '"Churmaids, Huswyfes and Hucksters": the Employment of Women in Tudor and Stuart Salisbury', in L. Charles and L. Duffin, eds., Women and Work in Pre-industrial England. London.
      Wrightson, K. (1982), English Society, 1580-1680. London.〔訳書

Top ▲

Last updated :

© 2024 Yoh Kawana