はじめに
今後、女性史研究は、経済について学ぶ者にとって重要なアプローチの一つになることが予想されます。なぜなら、経済学部において男性の割合が圧倒的に高い理由は、未だによくわからないからです。研究と教育とではマーケットは異なるものの、合理的かつ客観的であるべき学問の世界に男女による差が生じるのはなぜか。経済と社会との関係について理解を深める上で重要な課題設定になりそうです。
産業革命以前の女性の経済的役割への注目度は、1919年に出版されたA.Clarkの著作により高まります (Clark: 1919)。最近では、女性の経済的役割が、これまでの推定よりも大きかったことがわかるようになりました。GDPの推計において無視されがちな家事や介護の仕事量をデータに加える方法が提唱されているからです。1500〜1700年のイギリスにおいて仕事を通じた経済への男女別貢献度は、男性が56%、女性は44%であったと推定されています (Whittle: 2024)。
歴史的共通課題
戦後、男女間の格差は、経済力及び社会進出いずれの面でも縮まりました。こうした傾向が経済先進国に目立ち、男女間の格差解消に消極的な国々の経済が停滞するのは不思議ではありません。なぜなら、性差別による経済的損失は莫大であることがわかっているからです。2007年の国連による報告によれば、アジア・太平洋諸国において女性を労働市場から排除するコストは、年間約430〜470億ドルと推計され、女性を教育から排除することによってさらに160〜300億ドルが失われると推計されました (Ogilivie: 2007)。
男女間の格差は人権上の問題です。一方、その解消は経済成長を促す経済的課題でもあります。しかし、最近になるまで問題が残されたとすれば、その要因の探究は、人類共通の歴史的課題と見なすこともできます。
女性史と公私混在の経済社会
近世イギリス社会の特徴は、個人の都合が優先される緩い人間関係によって物事が動く社会領域にあることがわかってきました。すなわち、市議会やカンパニー(ギルド)のように合意形成によって物事が決まる「公式な領域」に対する「非公式な領域」の存在です (川名:2010; 川名: 2024)。それは、働く女性が目立つ社会領域でもありました。
当時のイギリスは、西欧諸国の中でも最も安定的に都市化が進んでいた国として知られています。都市経済の比重が高まるにつれて、都市の「非公式な領域」の重要性は益々大きくなっていきました。女性史は、その歴史を見極める上で重要な視座を提供することになるでしょう。
参考文献
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Burnette, J. (2008), Gender, work and wages in industrial revolution Britain.Cambridge.
Clark, A. (1919), Working Life of Women in the Seventeenth Century. London.
Gowing, L. (2021), Ingenious Trade: Women and Work in Seventeenth-Century London. Cambridge.
Hanawalt, B. A. (2007), The wealth of wives: Women, law, and economy in late medieval London. Oxford.
Liddy, C. D. (2024), 'The household, the citizen and the city: towards a social history of urban politics in the late Middle Ages', Social History, vol.49, pp.261-293.
Macleod, C. et.al., eds, The whole economy: work and gender in early modern Europe. Cambridge.
Ogilvie, S. (2007), 'Can We Rehabilitate the Guilds? A Sceptical Re-Appraisal', working paper, University of Cambridge.
Pinchbeck, I. (1930), Women Workers and the Industrial Revolution 1750-1850. London.
Whittle, J. (2024), 'Putting women back into the early modern economy: work, occupations, and economic development', Economic History Review, vol.77, pp.1125-1153.
Wright, S. (1985)., '"Churmaids, Huswyfes and Hucksters": the Employment of Women in Tudor and Stuart Salisbury', in L. Charles and L. Duffin, eds., Women and Work in Pre-industrial England. London.
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