経済学と経済史学
経済学では、統計的・数学的に予測可能な内因性の変化が分析対象になります。一方、他の影響は全て、外因性の変化と見なされます。経済学の特徴は、このように説明すべき要因と、説明を要さない(あるいは、予測不可能な)要因を選別する点にあります。そうすることで、説明しうる規則性や相関関係を明確に示すことができるようになるのです。
一方、経済史学では、過去に起こった幅広い経済的事象や出来事が分析対象になります。対象となる人間は、経済学と同じように、個人の場合もあれば集団の場合もありますが、経済史学が経済学と大きく異なるのは、人と社会の動きを予測する学問ではない点です。人体のメカニズムは同じでも、人の精神と心理は個人により異なり、しかも人は様々な文化と社会規範を生み出し続ける社会的生き物です(Keynes: 1891; Cipolla: 1991)。人間の世界は多様性が支配し、その動きを正確に予測することは難しいと考えられています。過去に起こった金融危機がそのことを証明しています。
こうした経済史学特有の方法は、必然的に考察対象を経済以外の分野に広げることになります。経済史学では、経済と関係が深い政治、社会、文化と諸制度も説明要因と見なされます。当然、政治学、社会学、人文科学など周辺諸科学との協同作業が必須となります(Cipolla: 1991)。
また、経済史学では、いかなる要因も、時代性を無視して説明されることはありません(Keynes: 1891)。現在、通用する説明も、時代が変われば通用しなくなることを想定しています。このように長期的視点で物事について思考する力は、人類固有の優れた能力です。経済史学はその能力を最大限生かすための学問と言えます。
2025.09.27