国際卓越研究大学 UREX 1
東北大学 大学院経済学研究科 川名 洋教授(西欧経済史)

Prof. Yoh Kawana(Ph.D. University of Leicester)


経済史のキーワード

価格革命
The Price Revolution

 

はじめに

インフレーション

制度変化と社会変化 **

人口増加の影響

** 受講者のみ

はじめに

 16世紀から17世紀前期にかけて続いた長期の物価上昇は、停滞するスペイン経済にかわりイギリスとオランダの経済が伸びる遠因となるなど、ヨーロッパ北西部が近代化の基点となるその後の西洋経済史に大きな影響を及ぼしました。価格革命と呼ばれる現象です。

 価格革命の要因を度重なる改鋳やスペイン銀の流入に求める見方があります。貨幣数量説をとるマネタリストの論理です。しかし、その時期は長期にわたる人口増加の時代と重なる点にも注意が必要です。人口が増えれば消費財市場は活発化し、当然、物価は上昇すると考えられるからです (Outhwaite:1969)
2025.08.02

インフレーション

  インフレーションと言えば、近世前半期の価格革命が有名ですが、長期の物価上昇は、黒死病の流行にいたる長期の13世紀の経済においても、また、産業革命期の18世紀後半にも考察できる現象です (Miller and Hatcher:1978; Daunton:1995)。これらに共通するのは、同じ時期に人口増加が続いていたことです。そうした事実から、長期の物価上昇のトレンドは、人口増加による需要増に起因すると考えられるのです。

 長期のインフレーション、人口増加、需要増との関係について理解するには、物価変動の様子を細かく考察する必要があるでしょう。16世紀イギリスの例では、商品によって価格上昇率に大きな違いが見られました。工業製品価格の上昇率は、農産物価格のそれよりも低かったことがわかります。貨幣賃金の上昇率を上回ることはなかったのです。こうした違いが発生したのは、工業製品と農産物に対する需要の価格弾力性が異なるためですが、工業は、農業に比べ生産性向上の恩恵を受けやすく、地代上昇の影響を受けにくいためという説明も成り立つでしょう (Outhwaite:1969)。かくして、当該時期にイギリスにおいて長期にわたり物価上昇が続いたのは、人口増加による需要増の結果、とくに農産物価格の高騰が響いたためと考えられるのです。

 当該期の物価上昇は、王朝名に因んで「テューダー・インフレ−ション」と呼ばれています。貨幣の改鋳と植民地からの地金の流入はいずれも、政府による政策に起因します。しかし、イギリスの物価上昇が目を引くのは、婚姻と出生にかかわる個人の選択によって変化する人口増加に起因する部分が大きかった点です。だとすれば、物価上昇が長引いた主要因は、公的措置ではなく、実は個々の人々のライフサイクル上の選択にあったと理解することもできるでしょう。
2025.08.05

人口増加の影響

 物価上昇に対する人口増加の影響について論じる意義は、価格革命が単に植民地貿易によって引き起こされた歴史ではないことを認識できるようになる点にあります参考 植民地主義人口増加の要因は、出生率と死亡率にあります。出生率は婚姻率が上昇すれば増加し、死亡率は凶作や疫病の流行によって高まります。つまり、物価上昇が人口増加によって引き起こされた事実から、価格革命が西欧に内在する要因によって起こったと見ることもできるのです。

 一方、価格革命によって西ヨーロッパの勢力図が激変したことは確かでしょう。植民地貿易を主導したスペイン経済は、長期の物価上昇の影響により衰退しましたが、植民地の開拓では後塵を拝することとなったイギリスとオランダ経済は、逆に黄金時代を迎える準備を整えていたからです。
2025.11.08

参考文献

      Daunton, M. J. (1995), Progress and Poverty: An Economic and Social History of Britain, 1700-1850. Oxford.
      Garrett-Goodyear, H. (2013), 'Common Law and Manor Courts: Lords, Copyholders and Doing Justice in Early Tudor England', in J. Whittle, ed., Landlords and Tenants in Britain, 1440-1660. Woodbridge.
      Miller, E., and Hatcher, J. (1978), Medieval England: Rural Society and Economic Change, 1086-1348. London.
      Morrin, J. (2013), 'The Transfer to Leasehold in Durham Cathedral Estate, 1541-1626', in J. Whittle, ed., Landlords and Tenants in Britain, 1440-1660. Woodbridge.
      Outhwaite, R.B. (1969), Inflation in Tudor and Early Stuart England. Cambridge.〔訳書
      Overton, M. (1996), Agricultural revolution in England: the transformation of the agrarian economy, 1500-1850. Cambridge.

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