はじめに
物価上昇には、近代経済思想の潮流さえ変えるほどの大きな影響力があることはよく知られています。その物価上昇が約1世紀もの長い間続いた影響を軽んじるわけにはいきません。実際、そうした現象が16〜17世紀前期の西欧に起こり、その結果、経済史の流れは大きく変わることになったのです。価格革命と呼ばれる現象です。それは、産業革命よりも100年以上前のことでした。
価格革命は、ヨーロッパ北西部が近代化の基点となるその後の西洋経済史に大きな影響を及ぼしました。価格革命の要因を度重なる改鋳やスペイン銀の流入に求める見方があります。貨幣数量説をとるマネタリストの論理です。しかし、その時期は長期にわたる人口増加の時代と重なる点にも注意が必要です。人口が増えれば消費財市場は活発化し、当然、物価は上昇すると考えられるからです (Outhwaite:1969)。 2025.08.02
「小分岐」の要因
物価上昇に対する人口増加の影響について論じる意義は、価格革命が単に植民地貿易によって引き起こされた歴史ではないことを認識できるようになる点にあります【参考 植民地主義】。人口増加の要因は、出生率と死亡率にあります。出生率は婚姻率が上昇すれば増加し、死亡率は凶作や疫病の流行によって高まります。つまり、物価上昇が人口増加によって引き起こされた事実から、西欧に内在する事情も価格革命の要因として無視できないのです。
価格革命の要因はもちろんのこと、その結果も目を引きます。価格革命を境に西ヨーロッパの勢力図が激変することとなったからです。新大陸アメリカを舞台に植民地主義の恩恵を受けたスペイン経済は、物価上昇の影響に耐えきれず衰退しましたが、植民地の開拓では後塵を拝することとなったイギリスとオランダ経済は、逆に黄金時代を迎える準備を整えていたからです。 2025.11.08
参考文献
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Miller, E., and Hatcher, J. (1978), Medieval England: Rural Society and Economic Change, 1086-1348. London.
Morrin, J. (2013), 'The Transfer to Leasehold in Durham Cathedral Estate, 1541-1626', in J. Whittle, ed., Landlords and Tenants in Britain, 1440-1660. Woodbridge.
Outhwaite, R.B. (1969), Inflation in Tudor and Early Stuart England. Cambridge.〔訳書〕
Overton, M. (1996), Agricultural revolution in England: the transformation of the agrarian economy, 1500-1850. Cambridge.
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