はじめに貨幣経済の起源を商業経済に探る見方はそう不自然ではないでしょう (Hicks: 1969)。しかし、その恩恵を受けていたのは商人層だけではありませんでした。封建制下のヨーロッパでは、ほぼ全ての人々が貨幣経済の便益を得ていたと考えられます。村民や労働者への賃金の支払いや農産物の販売、手工業製品の購入やサービス料の支払いに貨幣は欠かせませんでした。また、見過ごされがちなのは、王権が得ていた税収と地代収入の大半が、貨幣によって満たされていた事実です。貧困層から直営地を維持する地域の領主や国王に至るまで、中世ヨーロッパの人々にとって貨幣収入の有無は、生存の可能性を左右する必須の要件となっていたのです (Britnell: 1993; Miller and Hatcher: 1995) 。 かくして、封建制下にあった中世ヨーロッパ経済は、貨幣経済を基礎に成長していたと言えるでしょう。実際、12万5千ポンドに満たなかった12世紀イギリスの貨幣流通量は、14世紀に110万ポンドを超過したと推計されています(Masschaele: 1997)。 参考文献
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