封建制
中世ヨーロッパには土地保有を基礎に経済的権力関係を維持する封建制と呼ばれる制度がありました。領主と家臣との間の軍事的関係のもとで営まれる農業中心の経済関係が強調されがちですが、肝心なのは、封建制の定着により、ルールに基づく経済社会が成立したことです。それは、市場経済が伸びる前提条件となるからです。
例えば、封建制下のイングランド農村では、マナーと呼ばれる領地経営のための仕組みが機能していました。農村民の立場からすれば、それは農村を治める単位と見ることもできます。そこで開かれるマナー裁判所(領主裁判所)はかつて、領主による農民支配の装置と見なされましたが、最新の研究では、労働移動が激しくなる中世後期において、各農村の経済・社会秩序を維持する機能が積極的に評価されています(Gibbs: 2019)。 また、領主や農民の暮らしは、市場向け農業生産と農産物の活発な取引によって潤っていたことから、封建制と市場の働きの間に矛盾はありませんでした。(Miller and Hatcher: 1978, 242)。土地取引でさえ珍しくはなかったのです。 かくして、イングランドの例を見る限り、封建社会は市場経済の原理を内包していたと言えるでしょう(Broadberry: 2015, Ch.2)。 2024.04.29 関連項目 中世の封建制について学ぶ意味は何?
参考文献
Broadberry, S.N.(2015), British economic growth, 1270-1870. Cambridge.
Gibbs, S.(2019), 'Lords, tenants and attitudes to manorial office-holding, c.1300-c.1600', Agricultural History Review, vol.67 (2019), 155-74.
Miller, E. and Hatcher, J.(1978), Medieval England : rural society and economic change, 1086-1348. London.
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Last updated : 2024/08/15
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