はじめに一人の人間とは異なり、国家には明確な意思がなく、経済成長は必須でも、国家自体を労働力の単位と見なすことはできません。そこで、国家の意思決定には議会を必要とし、国家の経済力を高めるためには、国民の間に蓄積された富の一部を活用するシステムが必要になります。それが、税制です。 税制について関心を持つには、まずその制度が重要になる経済史の文脈を理解するのが早道です。政府が民に税を課すこと自体は、どの時代においても珍しいことではありません。しかし、近世は特別な時代と言えるでしょう。というのは、その時代に経済問題が、公共の課題と捉えられるようになる政治思想上の変化が西欧に起こるからです。すなわち、何百万人もの人々が、全体として経済力を高めることが必須の政治課題と認識されるようになったのです。国家形成の時代と言い換えることもできます。2025.02.15 財政国家の形成ところで、経済成長の論理には、技術革新による生産力に注目する見方と、経済活動を制御する制度の良し悪しを判断する見方があります。税制は後者の視野に入る好例と言えるでしょう。 とはいえ、近世的経済成長を達成するためには、税制そのものの効率性よりも、制度をとりまく政治的・経済的事情が重要であったと考えられています。 例えば、歴史上、侵略と掠奪によって国家財政の財源を確保する手段は珍しくありません。一方、国内に効率的な税制を整える政策は、そう簡単ではありません。 そもそも税制を効率的に動かすためには、国内の政治的統一と安定した社会基盤が不可欠です(スペインやロシアの例)。また、小国であれば、国防のコストと税収のバランスが釣り合いません(オランダの例)。一方、大国であっても、絶対主義や官職売買がまかり通るような社会では、効率的な徴税を実現するのは難しいでしょう(フランスの例)(O'Brien, 2011)。 近世イギリスの経済力が注目されるのは、民富の蓄積を国力へ転換するシステムが効率よく働いていたからです。財政革命に繋がる時にかなった税制の改良と税制を支える政治改革が行われていたというのです(Brewer: 1989; Braddick: 1996)。 参考文献 |