はじめに
一人の人間とは異なり、国家には初めから明確な意思があるわけではありません。また、人と違って国家自体を労働力の単位と見なすこともできません。そこで、国家の意思決定には議会を必要とし、国を豊かにするためには、民富を活用する制度が要ります。それが税制 です。
税制 について理解するには、その制度史の歴史的文脈を知るのが早道です。政府が民に税を課すこと自体は、どの時代でも珍しいことではありません。しかし、ヨーロッパの近世 は特別な時代でした。というのは、その時代に、経済政策が一部の権力者のためではなく、公共の課題と捉えられるようになる政治思想上の変化が起こるからです【参考 行政革命 】 。
その結果、国力の増強には経済力が肝心であること【参考 政治算術 】 、そして、経済力を伸ばすことが政府にとって必須の政治課題であることを、人々が認識できる国制運用の社会基盤が整い始めたのです。国家形成 の時代と言い換えることもできます (川名: 2007 ) 。
効率のよい税制 とは、その必要性を国民が納得しないかぎり、実現が難しい制度です。近世 イギリスでは、税制改革が活発になります。財政革命 をも可能にする税制基盤が整う背景には、同国で暮らす人々にとって国家の必要性が明確になるという肝心な政治的カルチャーの変化があったのです。2025.02.15
参考文献
Braddick, M. J. (1996), The nerves of state: taxation and the financing of the English state, 1558-1714 . Manchester. 〔訳書 〕
Brewer, J. (1989), The Sinews of Power: War, Money and the English State, 1688-1783 . New York. 〔訳書 〕
Coleman, D.C. (1977), The Economy of England, 1450-1750 . Oxford.
Cornwall, J.C.K. (1988), Wealth and Society in Early Sixteenth Century England . London.
川名 洋「『長い17世紀』のイングランドにおける国家形成―公権力と市民性をめぐる研究動向―」, 『社会経済史学』, 2007年.〔J-Stage 〕
O’Brien, P. (2011), 'The nature and historical evolution of an exceptional fiscal state and its possible significance for the precocious commercialization and industrialization of the British economy from Cromwell to Nelson', Economic History Review , vol.64 , pp.408-446.