国際卓越研究大学認定校 UREX 1
東北大学 大学院経済学研究科 川名 洋教授(西欧経済史)

Prof. Yoh Kawana(Ph.D. University of Leicester)


経済史のキーワード

食料供給
Food Supply

 
 

はじめに

穀物法

都市の食料政策 **

食料政策の転換 **

** 受講者のみ

はじめに

 いかなる時代においても、人口増加が持続するための条件は、人々が生きていくために必要な食料が十分に供給される状態を維持することでした。そこで、経済史の研究では、各国において食料供給が安定し始めるタイミングを探ることになります。食料輸入が一般的になるには、海運効率が飛躍的に向上する19世紀を待つ必要があったので (De Zwart and Van Zanden: 2018, 271)、その前の時代においては、国内の高度な農業生産力に頼るしかありませんでした。現代の物差しで表現すれば、高い「食料自給率」の維持が、持続的人口増加の条件であったと言えるでしょう。
【参照】「農業生産性の高さが光る工業国家の歴史的前提」

  しかし、食料供給は単なる生産力の問題ではない点に注意が必要です。

 食料供給の好条件について考える際、いかなる時も農産物が身近に存在するかどうかを問うことが重要になります。そのように考えると、都市に住む人々が増加する都市化は、食料供給の点では必ずしも望ましいトレンドではないことに気がつきます。そこで注目されるのが、農民と消費者との間に介在する流通システムや中間業者の存在になるわけです。つまり、安定した食料供給は、そもそも農村から離れて暮らす大多数にとって、農産物を身近なものにするための制度や政策の問題でもあるのです。都市に住む人々にとって、農産物が身近なものに感じられるのは、ある制度のお陰です。公開市場の歴史はそのことをよく示しています。
2025.03.06

穀物法 The Corn Laws

 穀物法といえば、自由貿易の是非をめぐる19世紀の政策的・思想的論争を想起しがちですが、穀物の輸出入を規制する同法は、中世に導入され始めた重要な食料政策の一つです。生存に必要な食料が人々に行き渡らない危機的状況を避けるため講じられた政策でした。

 穀物の輸出入には、消費者とは別に生産者を保護する観点が内在しています。しかも、消費者と生産者の利益は必ずしも一致しません。食料供給は人々の生存率を高める最も重要な要件であったことを踏まえれば、食料へのアクセス可能性を確保するため、当時の政策において消費者利益の保護が優先されたとしても不自然ではないでしょう (Gras: 1915)。ここに、現代の農業政策について考えるきっかけにもなりうる穀物法の歴史的意義があるのです
2025.03.12

参考文献

      De Zwart, P., and Van Zanden,J. L. (2018), The Origins of Globalization : World Trade in the Making of the Global Economy, 1500-1800. Cambridge.
      Gras, N.S.B. (1915), The Evolution of the English corn market from the twelfth to the eighteenth century. Cambridge, Mass.
      Ljungqvist, F.C. et al. (2024),'Famines in medieval and early modern Europe ? Connecting climate and society', Climate Change, vol.15, pp. 1-31.
      Thompson, E.P. (1993), Customs in common: studies in traditional popular culture. New York.
      Wrigley, E.A. (2004), Poverty, progress, and population. Cambridge.
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