はじめに
いかなる時代においても、人口増加が持続するための条件は、人々が生きていくために必要な食料が十分に供給される状態を維持することでした。そこで、経済史の研究では、各国において食料供給が安定し始めるタイミングを探ることになります。食料輸入が一般的になるには、海運効率が飛躍的に向上する19世紀を待つ必要があったので (De Zwart and Van Zanden: 2018, 271)、その前の時代においては、国内の高度な農業生産力に頼るしかありませんでした。現代の物差しで表現すれば、高い「食料自給率」の維持が、持続的人口増加の条件であったと言えるでしょう。
【参照】「農業生産性の高さが光る工業国家の歴史的前提」
しかし、食料供給は単なる生産力の問題ではない点に注意が必要です。
食料供給の好条件について考える際、いかなる時も農産物が身近に存在するかどうかを問うことが重要になります。そのように考えると、都市に住む人々が増加する都市化は、食料供給の点では必ずしも望ましいトレンドではないことに気がつきます。そこで注目されるのが、農民と消費者との間に介在する流通システムや中間業者の存在になるわけです。つまり、安定した食料供給は、そもそも農村から離れて暮らす大多数にとって、農産物を身近なものにするための制度や政策の問題でもあるのです。都市に住む人々にとって、農産物が身近なものに感じられるのは、ある制度のお陰です。公開市場の歴史はそのことをよく示しています。
2025.03.06