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はじめに ** campus-only |
はじめに産業革命期以前に広く見られた家内工業の存在はよく知られています。家内工業の歴史は、工業化の歴史的文脈において問屋制度と農村の安価な労働力に焦点を当てて説明がなされるテーマです。 職人の作業場が住居内にあった都市の手工業も、「家内」であった点は同じです。ところが、その事実が工業化の歴史において注目されることはありません。都市の手工業では職人の技術が主に重視されるため、生産効率の追求を示す好例にはならないからです。また、都市史でも住居内の営みがとくに重視されてきたとは言えません。プライベートな空間は、公開市場、市議会、カンパニーといった公的な制度史との関係が薄かったためと考えられます。 家内取引の発見−都市の「非公式な領域」−ところで、現在の商取引では、民間の頑丈な建物内など主にプライベートな空間を利用するのが一般的です。消費者と販売者双方の都合が重んじられる私的な空間です。その源流を辿れば、公的監視のしやすさに重きを置いた公開市場ではなく、住居と併用の店舗の存在にたどり着くことになるでしょう。 近世前期(16〜17世紀)における国内商業の拡大に合わせて、商人らは、公開市場を避け公的監視の緩い宿屋 (inns) を商談と取引の場に選ぶようになったことが知られています (Everitt: 1967)。また、近世イギリス都市に関する実証研究から、商売は、一般の住居内でも非公式に行われていたことがわかってきました。しかも、そうした取引には1ポンド未満の小規模な売買が含まれ、幅広い社会層がかかわり、出回る消費財の種類も増える傾向にあったというのです (川名: 2024, 第2章)。 近世都市の本質を見極めるには、都市を「公式な領域」と「非公式な領域」とに分けて考察する方法が有効です (川名: 2010)。都市の「非公式な領域」において取引は、宿屋やエールハウス、住居内を利用して広く行われていたからです。 こうした発見が重要なのは、近世後期に起こる消費革命の胎動を近世前期に想定できるようになるからです。むろん都市の経済的価値を高めていたのは、開催権を公式に認められた公開市場であったことに変わりはありません。しかし、家内取引の発見により、公共の施設だけを想定する場合よりも、はるかに重層的な流通機能と消費市場が都市に備わっていたことがわかるようになるのです (川名: 2024, 第2章, 第5章)。 参考文献
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