中間層とは経済史の講義では、各時代の特徴について社会階層別に説明されることがよくあります。そこには大切な意味があります。経済学では消費者と生産者の区別はありますが、現実には、個々の経済力や生きる力に差があるわけですから、実際の経済を再現するとなれば、同じ消費者や生産者の間でもそれぞれの所得や職業の違いに目配りが必要になります。そこで、経済史学では、社会階層や職種・職業の違いを考慮しながら、経済成長の要因や市場経済の意味を読み解くスキルが求められるのです。 また、社会階層に拘る見方には、経済社会の発達を的確に把握できる効果もあります。例えば、農民が土地取引や移住を選択できないような社会では階層化は起こりにくいはずなので、ある時代に階層化が進んでいたことに気づけば、その時代に農民らの選択肢が増えつつあったことも想定しやすくなります。 中間層という概念が西欧近世において注目されるようになるのは、経済の動きが個人の選択に委ねられるようになりつつあったことと無関係ではないのです。 中間層について考察するおもしろさの一つは、そこに属する人々がどのようなグループや組織を形成するかを読み解くことができる点にあります。一見、自立心が強い人々のようですが、実は共有された価値観による結束力にその特徴が現れることがわかっているからです。 少し矛盾するようですが、個人の選択力が試されるようになるからこそ人々の間では結束力が高まるのです。社会が流動的になり個々にとって将来予測が難しくなると、当然、不安も大きくなるからです。西欧都市の歴史から明らかなように、中間層の人々の組織力は、古くからある農村共同体や地主エリート層のそれとは全く異なる社会原理によって高められていくのです。(Barry: 1994) 参考文献 |