国際卓越研究大学 UREX 1
東北大学 大学院経済学研究科 川名 洋教授(西欧経済史)

Prof. Yoh Kawana(Ph.D. University of Leicester)


経済史のキーワード

カンパニー
Company

 

はじめに

カンパニーの公式性

カンパニーの非公式性 **

カンパニーの「国際性」

§参考文献§

はじめに

市場経済はビジネスの組織化を促します。それゆえ、商工業者の組織が都市に集中するのは自然な成り行きと言えるでしょう。カンパニーは、そうした都市型の商業及び産業組織を指す総称として用いられました。代わりにギルド、あるいは、「仲間」という用語が使われる場合もあります (坂巻: 1987; 酒田: 1991)

 現在では主に会社を意味する言葉として用いられるカンパニーですが、その強みは集団主義にではなく、個人が組織に属することによってその力を存分に発揮できるようになる点にありました (【比較】日本的経営)。カンパニーの設立は、都市において「公式な領域」「非公式な領域」とが重なり合う「公私混在の経済社会」に起こる制度的イノベーションだからです。
2025.09.08

カンパニーの公式性

 カンパニーは、ヨーロッパの中世都市を代表する公式な制度です。カンパニーは政府と結びつく傾向にありました。双方にとって、統治のコストを下げる効果は大きかったでしょう。また、当時の為政者にとって、商業利益が常に重要な財政収入源と見なされていた事情も無視できません (Miller: 1995)。かくして、徒弟制度と共に市場経済に秩序をもたらすカンパニーは、政府に公認されるようになったのです。経済史学では、取引費用論の提唱をきっかけに、その経済効果が注目されるようになりました (Epstein, 1998)

 ところで、取引には、情報交換と金銭の貸借を可能にする人脈づくりが欠かせません。そこでもカンパニーの肩書きは役に立ったと考えられますが、イギリス都市史の実証研究から、取引の大部分は、組織とは無縁のパーソナルな信用に基づき成立していた事情が明らかになりつつあります。カンパニーが目立つ一方で、都市経済が私的な「緩い人間関係」に基盤を置いていた事情は、見過ごされがちな興味深い発見です。というのは、そのような個人的な関係にも「カンパニー」という言葉が広く用いられていたことがわかってきたからです (川名:2024, 第5章)
2025.09.08

カンパニーの「国際性」

 西洋経済史における画期的イノベーションは、製造業部門だけに起こったわけではありません。中世ヨーロッパにおける都市経済には、商工業者らによる職能別組織が目立ちます。中でも羊毛及び織物商のカンパニーには、現代のグローバル企業にも通じる二つの特徴がありました。

 その一つは、広域権力と結びつきやすい有力カンパニーならではの特徴です。例えば、中世イギリスにおいて羊毛輸出は、未だ社会全体に担税力がない脆弱な経済において重要な財政収入源でもありました。ゆえに、羊毛商及び織物商カンパニーと王権との結びつきは自然な成り行きと言えるでしょう。その関係は、まず羊毛取引を担うステイプル商人のカンパニーを設立することによって、そして、その後に設けられた冒険商人のカンパニーによって強固な制度となりました。

 しかし特筆すべきは、もう一つの特徴です。それは、遠方に新市場を発見し、開拓する外向き指向のビジネス・カルチャーに現れます。イギリス経済史の例で言えば、12〜13世紀にかけて、ローカルな商業組織を築いていた都市商人らは、14世紀までに全国組織を築き始めました。その頃、"merchant"という言葉には、ビジネスを地理的に拡大させる卸売業者という意味合いが濃くなっていたと考えられます。

 当時の貿易商人らは、穀物、海鮮、皮革、金属、香辛料、染料、塩、木材など幅広い品々を扱っていましたが、最も重要な商品は何と言っても羊毛、織物、ワインでした (Miller: 1995; Masschaele: 1997)

 かくして、中世から近世にかけて羊毛や織物を扱うカンパニーがイギリスで最も有力になったのは、不思議なことではありません。もちろん、貿易商のカンパニーとして最もよく知られているのは、1600年頃に設立された東インド会社でしょう。しかし、それ以前にステイプル商人や冒険商人による長いカンパニーの歴史があったことは見逃せません。なぜなら、その歴史を認識することによって初めて、西欧における商業が大航海時代よりもはるか前から国家の枠組みを超えた「国際的」なビジネスであったという真実に、向き合うことができるようになるからです。
2025.09.08


参考文献

      Epstein, S. R. (1998), 'Craft guilds, apprenticeship and technological change in preindustrial Europe', Journal of Economic History, vol. 58 , pp. 684-713.
      酒田利夫 (1991) 『イギリス中世都市の研究』 有斐閣.
      坂巻 清 (1987) 『イギリス・ギルド崩壊史の研究― 都市史の底流―』 有斐閣.
      Masschaele, J. (1997), Peasants, merchants, and markets: Inland trade in medieval England, 1150-1350. Basingstoke.
      Miller, E. (1995), Medieval England: Towns, Commerce and Crafts. London.

Top ▲

Last updated :

© 2024 Yoh Kawana