国際卓越研究大学認定校
東北大学 大学院経済学研究科・経済学部 川名 洋教授(西欧経済史)


イギリス都市史



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都市史に近代社会の源流を辿る
 イギリスの近世(16〜18世紀)は、近代経済の胎動が感じられる都市化の時代です。産業革命へ向かうこの大事な時期に、イギリスの都市化率は、ヨーロッパの中で最も安定して増加していたことがわかっています。首都ロンドンも世界有数の巨大都市へと成長しました。農業主体の経済社会の転換期に、豊かな知識と科学技術、洗練された文化や景観を大切にすることこそが近代において目指すべき価値観と規定されるようになったのも、最初の工業国家の前提にこうした都市化のプロセスがあったからと見ることができます。
  一方、イギリスの都市史が注目されるのは、近世における都市化のプロセスがプロト・デモクラシー定着の歴史と重なるからです。そしてその歴史を先導したのが、中世以来、地方自治実践の場となった自治都市でした。そこでは、選挙によって選ばれる市長と住民により構成される市議会を中心とする都市法人が誕生しました。
  個人の選択力を最優先する市場原理との共存(公私混在)にその真骨頂が現れる都市法人というアイディアは、形を変えてやがて世界へ広まることになるのです。
2024.05.31
関連時事:政令指定都市

イギリス都市史研究の基盤づくり
 イギリスにおける都市史研究は、1870年以降に活発になります。その動きは、当時、都市自治の歴史への関心が強まっていたことと無関係ではありません。19世紀を通じて地方行政に対する中央政府の影響が強まっていたからです。その関心はまずイングランドの中世都市に向かいました。当時の法制史について論じたF.W.Maitlandや地方都市の行政史料編纂に尽力したM.Batesonらが活躍し、戦後の都市史研究への足掛かりが築かれたのです。 2024.06.06
関連時事:地方自治

近世イギリス自治都市に関する研究書
London ロンドン市
坂巻 清 『イギリス・ギルド崩壊史の研究 ― 都市史の底流 ― 』 有斐閣, 1987年

Chester チェスター市
川名 洋 『公私混在の経済社会 ― 近世イギリスにおける個人と都市法人』 日本経済評論社, 2024年

Exeter エクセター市 
安元 稔 『イギリスの人口と経済発展 ― 歴史人口学的接近 ― 』 ミネルヴァ書房, 1982年

King’s Lynn キングス・リン市
小西恵美『長い18世紀イギリスの都市化: 成熟する地方都市キングス・リン 』 日本経済評論社, 2015年

Leicester レスター市
川名 洋 『イギリス近世都市の「公式」と「非公式」』 創文社, 2010年

Newcastle-upon-Tyne
ニューカスル・アポン・タイン市

中野 忠 『イギリス近世都市の展開 ― 社会経済史的研究 ― 』 創文社, 1995年

Norwich ノリッジ市
唐澤達之 『イギリス近世都市の研究』 三嶺書房, 1988年

York ヨーク市
酒田利夫 『イギリス中世都市の研究』 有斐閣, 1991年



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Last updated : 2024/05/15

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