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はじめに 西洋経済史の宗教的背景 ** 市場経済の宗教的淵源 ** ** campus-only |
はじめに西洋経済史において近世という時代に注目が集まるのは、後に近代経済の特質を規定することになる重要な出来事が、16〜18世紀の約300年の間にヨーロッパに起こったからです。なかでも統治の形を変える国家形成、価格メカニズムの効果を発揮する市場経済、生産構造を大きく変える産業革命は、そのことを示す重要なキーワードです。これら制度的、思想的、構造的変革は、近代経済が西洋に起こったことを表す歴史的刻印となり、現代に残されています。その意味で、近世は、近代経済の前提となる社会変動の時代であったと言えるでしょう。 16世紀前期に起こった宗教改革は、中世から近代に至るこうした変革期の出発点となった画期的な出来事の一つでした。 植民地主義の宗教的淵源 宗教改革の影響は、植民地主義のあり方を大きく変えました。新天地を求め北米へ移住したイギリス人らは、中南米へ進出したスペイン・ポルトガルの入植者とは、移住の動機もさることながら、社会組織のあり方も著しく異なっていました。移民の年齢構成において最も目立っていたのは、15〜24歳でした。17〜18世紀においてイギリスから北米へ渡った移民の構成にプロテスタンティズムが及ぼした影響を数量的に明らかにすることは難しいものの、その多くが自立心の強い若者であった事情は注目に値します (Thomas: 2009)。後にアメリカ合衆国が誕生し、それが世界情勢に多大な影響を及ぼすに至った経緯は、宗教改革がもたらした「意図せざる結果」の最たる事例と言えるでしょう。 プロテスタンティズムと経済成長宗教改革と経済成長の関係で言えば、プロテスタント教徒の倫理と資本主義経済の発達に相関関係を見出した M.ウェーバーのテーゼが有名です。オランダ、イギリス、アメリカ合衆国のように、歴史上、早期に経済的成功を収めた国と地域ではプロテスタント教徒の割合が高かったことから、ウェーバーの主張は現在でも関心を集めています (Weber: 1930; Rubin: 2017)。 特定の宗教と経済パフォーマンスの関係性を「説明する」のは簡単ではありません。しかしながら、ある社会規範や倫理観が、労働生産性や教育水準の向上を促進したという結果自体に不自然さはありません。信仰は社会規範や倫理観の実践と不可分であることを踏まえると、そこに宗教的影響を見出す視点もまた、不自然とは言えないでしょう。そこから少し背伸びをすれば、近年、教会由来の社会規範や倫理観の存在は、欧米先進国における経済成長の主要因として注目されつつある「制度の安定性」について理解するヒントになるかもしれません (Broadberry and Wallis: 2025)。 近年、技術革新の側面から「ウェーバー・テーゼ」を捉え直す新たな視点が、当時の活版印刷の普及を例に提唱されています。 プロテスタンティズム特有の倫理観がマクロ経済に好影響を与えたとするならば、情報伝達の高速化の影響は無視できないというのです (Rubin: 2017)。こうした見方には、今世紀に飛躍的に進歩することが期待されるIT技術への注目度が反映されているものと考えられます。 参考文献
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