|
はじめに 相続、教会、個人 ** |
はじめに 死後の財産分与について記された遺言書は、経済史研究に不可欠な一次史料です。そこには、故人の職業や資産内容が記録され、相続人のプロフィールや故人の親族関係、他者との債権債務関係の詳細が具体的に記載されることもあるからです。とくに都市民の遺言書は、フリーメン登録簿と照合することによって都市の複雑な職業構造を明らかにできる史料としても知られています (Patten: 1978; Goose: 2000)。
教会裁判所における検認遺言書が効力を発揮するためには、現在の公証に当たる検認が必要とされました。イギリスにおいて遺言書の検認は、その司法管轄権が民事裁判所へ移される1858年まで、教会裁判所において実施されました (Goose: 2000)。 遺言書の検認を教会が担うようになった背景には、埋葬が教会の典礼であった点に加え、死後の財産分与を個人の信仰の実践と捉える考え方がありました。とくにイギリスの遺言書の場合、教会やホスピタルへの遺贈の詳細が記載されるなど、チャリティーの精神が反映されることが少なくありませんでした (川名: 2024, 第6章)。そのため、聖職者らが中心となって遺言書の形式が整えられたとされています (Sheehan: 1963)。 経済史の観点から見ると、これら一連の経緯が極めて重要な歴史的意義を持つことは言うまでもありません。なぜなら、検認の主体が国王裁判所であったなら、個人の意思による財産分与といえども、封建制の慣習からは逃れられなかったと考えられるからです。中世に始まるホスピタルの歴史が注目されるのは、死後の財産分与の手続きに教会が深く関与するようになった意義を、具体的に示すことができるからです (川名: 2024, 第6章)
。 参考文献
|
