はじめに科学革命とは、この世の成り立ちを人間自らが主体的かつ能動的に認識する対象と位置づけた西洋史上の思想的大変革を指す用語です。その結果、ヨーロッパの人々は、古代・中世の自然哲学を所与の知識とせず、物質世界の「規則性」を実験と観察によって発見する斬新な方法を積極的に実行に移すようになったのです。 この世を成り立たせている「規則性」を探る個人の好奇心と飽くなき探究心こそ、現在のような経済的豊かさを生む西洋近世特有のスピリットと捉えることもできるでしょう。科学革命が経済史の重要なキーワードになるのは、そのためです。 教会の影響とはいえ、科学革命の内実は、過去からの断絶と連続性が入り交じった複雑な歴史的変化と捉えるのが適切でしょう。この世の「規則性」を探る探究心には、その創造主の存在を立証することに繋がるという信仰の力が働いていたことがわかっているからです (Henry: 1997)。科学革命それ自体は、世俗化の始まりではなく、科学と教会との対立を示すものでもありませんでした。ニュートンやボイルら、当時の「科学者」たちが信仰心を拠り所に真理の探究に挑んでいたことは広く知られています。西洋の科学者の間で、ともに知の前提になりうる科学と宗教が、その関係や位置づけをめぐって常に論争の的になるのも不思議ではないでしょう (Dawkins: 2006; Meyer: 2021)。 かくして、唯物論と結びつけて理解されがちな科学革命ですが、本質的には、信仰と新思想により触発された汎神論と不可分の出来事であったと捉えることができます。 経済と経済思想への影響実験と観察を重視する科学的方法の影響は、自然に対する認識の変化に止まりませんでした。例えば、経済面では、国家の経済力を正確に把握する政治算術を導き、経済を、人間が主体的に考察し、理解しうる対象と見なす学問的方法を誕生させました。市場理論に登場する「神の見えざる手」といった表現からも、経済学が科学革命の影響を強く受けた西洋の学問であることを想起させます。また、産業革命へ繋がる技術革新も、実験と観察という科学革命に由来する新たな方法を応用することによって達成されたことは、周知の事実です (Mokyr: 2004)。 このように、科学革命が近代経済発祥の遠因となった事情は、見逃せません。そのことがわかれば、西洋近世に開花した独特の思想と方法が、近代経済と経済学の方法の中に歴史的刻印として随所に現れる事情について、納得しやすくなるからです。
|
