国際卓越研究大学 UREX 1
東北大学 大学院経済学研究科 川名 洋教授(西欧経済史)

Prof. Yoh Kawana(Ph.D. University of Leicester)


経済史のキーワード

ホスピタル
(救貧院・施療院)
Hospital


【関連用語】チャリティ救貧法年金

 

はじめに

  現在のような高齢化社会では、病院の有無が都市の利便性を左右します。しかし、立派な病院の存在は、市民の誇りにもなるはずです。病院と訳されるホスピタルは、もともとヨーロッパの中世都市に設けられた救貧・介護施設を指す用語でした (川名: 2024, 第6章)。首都ロンドンには、当時としては大きく立派なホスピタルがいくつも集まり、そうした事情は市民の誇りでもあったとされています。最新のイギリス都市史研究から、中世・近世において地域経済の要として機能していた都市は、救貧、介護サービスの中心地でもあったことがわかってきました (川名: 2024, 第6章,第7章)。ホスピタルの歴史は、古くから市場と教会とが併存するヨーロッパ都市の特質を示すテーマとして、注目されるのです。



ホスピタルの歴史的意義

  興味深いのは、現在の病院内でも昔のホスピタルの位置づけがよみがえっている点です。先端医療の恩恵を受ける一方で、やはり「いたわり」を求める人は多いものです。高い医療技術を見込めなかった中世ヨーロッパにおいて、ホスピタルは、病気を「治す」所というよりは、弱っている人を「いたわる」施設であったことがわかります。つまり、看護の歴史は、治癒を目指す歴史に比べれば、圧倒的に長いことに気づかされるのです。

 また、社会保障の面においても、ホスピタルを備えた中世社会と現代の高齢化社会との共通点を見出すことができます。例えば、ホスピタルでは、入所時に財産を施設に納める代わりに、亡くなるまで衣食住とケアのサービスを受ける権利が得られる"corrodies"と呼ばれる制度が設けられました。現在のような年金制度がない時代に、それは、老後の安心を得るための数少ない制度でした。対象となる人数は限られていたものの、長期に渡りそのようなサービスを受けていた者の中で、とくに女性の割合が高かったことが最近の研究からわかってきました (川名: 2024, 第6章,第7章; Brown: 2024)



参考文献

      Brown, A. T. (2024), 'Social security in late medieval England: corrodies in the hospitals and almshouses of Durham Priory', Historical Research, vol.97, pp.199-217.
      Clark, E. (1982), 'Some aspects of social security in medieval England', Journal of Family History, vol.7, pp.307-320.
      Goodall, J. A. A. (2001), God’s House at Ewelme: Life, Devotion and Architecture in a Fifteenth-Century Almshouse. Aldershot.
      川名 洋 (2010)『近世イギリスの「公式」と「非公式」』 創文社/講談社.
      川名 洋 (2024)『公私混在の経済社会ー近世イギリスにおける個人と都市法人ー』 日本経済評論社.
      McIntosh, M. K. (2012), Poor relief in England 1350-1600. Cambridge.
      Pelling, M, and Smith, R. M. (1991), eds., Life, Death and the Elderly: Historical Perspectives. London.
      Prescott, E. (1992), The English Medieval Hospital, c. 1050-1640. London.
      Slack, P. (1988), Poverty and policy in Tudor and Stuart England. London.