はじめに政府の役割の一つは、万人にとって必要で、かつ政府でなければ準備できない財とサービスを提供することにあります。それらの中には、生存に欠かせないもの(災害対策やきれいな空気など)がある一方で、占有すれば利益を独占したり、支配の道具にできるものもあります(法、軍隊、教育など)。これらに共通する特徴は、どれも市場取引には適さない点です (Offer: 2022)。経済学では公共財という用語が当てられています。 こうした財とサービスは、どの時代やどの地域にも存在しました。しかし、それらを公共財と呼ぶためには、ある社会条件が必要となります。その条件とは、政府と公的制度に対する信頼性の定着です。政府に対する信用がなければ、必要不可欠な財とサービスとはいえ、それらの供給を政府に任せることはむしろ大きなリスクになりかねないからです。 ところが、そのような社会条件が長期に渡り整う国は、そう多くはありません。それはなぜか。国家形成や公私混在の経済社会の成立過程について、歴史的考察が必要になるのはそのためです (North, Wallis, and Weingast: 2009; O'Brien: 2011; 川名: 2024)。 公共財には、経済学で言うところの非競合性や非排除性が伴うことは広く知られています。しかし、肝心なのは、市場経済の主体である「個人」にとって、生存に欠かせない財とサービスの提供者、すなわち、政府が信頼に足る存在であるかどうかを問うことなのです。そのことは、公共財が、自由な社会において市場経済を補完する概念として提唱された経緯からも納得できるでしょう。
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