本稿は、いわゆる「二重介護」、すなわち育児と高齢者介護の双方を同時に担うことが経済の安定性および持続可能性に及ぼす影響を分析する。モデルの経済主体は兄弟関係にあり、出生、貯蓄、ならびに分業に関する意思決定を集団的に行うことで、効用最大化を図る。分析の結果、長期的な経済の軌道は、二重介護負担の大きさによって大きく左右されることが示される。負担が一定水準以下であれば、経済は持続的な成長経路を維持する。一方、負担が過大になると、出生率が低下し、資源の大半が介護に割かれることで、所得創出に必要な資源が枯渇し、「介護地獄」とも呼ぶべき停滞状態に陥る可能性がある。このような状況に対し、政府は子ども手当等の出生奨励策を講じることで、問題の緩和を図ることができる。しかし、介護負担がある臨界点を超える場合、経済は構造的な崩壊に直面する。このような状況では、より多くの子どもを育てること自体が経済の許容範囲を超えるため、出産奨励政策を導入したくても、実行は不可能となる。
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