―東北大学大学院経済学研究科・経済学部―西欧経済史研究室/川名 洋教授(Yoh Kawana, Prof., Ph.D.)


西洋経済史 講義ブログ (公開)

経済史・都市史のページ(ホーム)≫    文庫本で読む「西洋経済史」≫
 


経済史の世界
The World of Economic History and Beyond

The essence of nations’ economy is not only about trade, money and technology, but also about its social impact upon human society whose prosperity can only be sustained by accommodating differing political and cultural values. For this reason, the study of Economic History, well-known for its holistic approach to economic issues, offers one of the necessary windows through which to see how the modern economy works in the way it does.



2022年10月改訂(初出2018年6月)
「西洋経済史のすすめ」
 経済学入門のテキストを開く前に、西洋経済史をしっかり学ぶ意味は小さくありません。近現代の経済的豊かさは、主体的に物事を選択できる個人を重視するカルチャーに負うところが大きく、なぜそう言えるのか納得しなければ、近代経済のメカニズムを解く経済学の学びもつまらないものになるからです。
 経済について説明する際、マーケットの影響をあえて狭く捉え広く複雑な社会と区別して説く方法(例えばミクロ経済学など)には、説明が曖昧にならぬよう工夫する経済学者の思いが込められています。しかし「社会」を遠ざけるその工夫には、実は他にも深いわけがあるのです。
 西洋経済の特質は、個人の価値判断が社会全体を見据える政府のそれよりも優越する原理にどこよりも早く到達したその歴史に現れます。『国富論』を著したアダム・スミスが注目されるのもそのためです。
 ところが、19世紀から20世紀前半を通じていつの間にか、再び社会全体が優先されるようになる。 急激な工業化や都市化によって、逃れようとする対象が、それまでの「政治的権力者」から貧困や不平等など経済社会の「社会矛盾」に換わり、その解消を目的に社会全体を見渡す「政府」が再び重視されるようになるという思想的揺り戻しの現象が起こったというわけです。
 おもしろいのは、この歴史には前段があって、中世の時代には互助を促す農村共同体の縛りや領主による支配が当然視され、近世(16世紀〜)に入ると今度は中央政府のパターナリズムを社会が招き入れることになった経緯を私たちは西洋経済史から学ぶことになります。
 経済学ではまず個人の選択について勉強します。その作法には、社会の論理よりも個人の論理が優越するという、決して盤石とは言えない西洋特有の思想を大事にしたい人々の思い(歴史観)が込められているように見えるのです。しかし、この肝心な前置きが経済学の初学者に語られることはあまりありません。

Keywords: individualism, socialism, absolutism
関連科目:西欧経済史演習

Top ▲
Last updated : 2022/10/21


≫東北大学        ≫経済史・都市史のページ

Copyright(C)Yoh Kawana All Rights Reserved.