はじめに18世紀後期に起こった産業革命について知らない者は少ないはずですが、蒸気機関の導入や工場の設立など機械工学的技術革新由来の変化と同じくらい世界経済にとって決定的な出来事が同時代にありました。アメリカ合衆国の建国です。 わずか100年程で植民地から工業生産力において世界一の大国となったアメリカ合衆国の経済史が極めて特異であることは間違いありません。とくに、ヨーロッパ諸国とは異なる経済発展の条件や、プラグマティズムなど同国に生まれる独特な世界観と思想的伝統は、注目に値します (Rorty: 1999; Ratner-Rosenhangen: 2019)【参考 市場革命】。今ではアメリカ合衆国の影響力から逃れられる国々は少ないからです。 歴史的連続性アメリカ独立革命後の北米大陸がアメリカらしいのは当然ですが、それ以前、13植民地が並び、まだイギリスの影響を受けていた時代(17〜18世紀半)は、イギリス史の一部と捉えても不自然ではありません (Gaskill: 2014; Valeri: 2023)。 また、アメリカ合衆国建国後も、イギリスとアメリカ合衆国の歴史にはいくつもの連続性を見出すことができます。経済面では、本国イギリス資本の影響が19世紀を通じて継続し、アメリカ合衆国経済の発展を後押ししました。政治面における民主的傾向や文化面における英語と教会の影響は広く知られています。奴隷貿易の廃止から奴隷解放宣言への長い道のりも、両国の社会的共通課題を象徴する歴史的経路となりました。自由貿易に欠かせない安全保障の面でも、両国にまたがる歴史的連続性が、19世紀後期の段階ですでに意識されていました (Rosenblatt: 2018)。 これらの歴史的連続性を踏まえると、英米史という視座が浮上してくるのも頷けます。 興味深いのは、近世イギリス経済の拡張の先に西海岸、太平洋、そして東アジアがあるという考えてみれば逃れようのない地政学的事実です。日米が出会うまでの長い歴史を調べてみると、その筋書きは思いもよらないところから始まっていた事実に気づくことになるのです。 「特別な関係」 The Special Relationship近現代史は、各時代において異なる覇権国を生み出しながら進んでいきます。国際政治経済学やグローバル経済史においてよく主張される、覇権循環論という考え方です。19世紀から20世紀にかけて覇権国がイギリスからアメリカ合衆国へと交代するという見方は、その実例として挙げられます。しかしながら、両国の関係には、16世紀のポルトガルと、それに代わって17世紀に覇権を掌握したとされるオランダとの関係にはない事情がありました。イギリスとアメリカ合衆国は、20世紀を通じて「特別な関係」にあったというのです。 例えば、国際金本位制の時代から金融危機が起こった2010年代までの金融史を分析したJ.Greenによる最新の研究から、戦後のブレトン・ウッズ体制とその崩壊、そしてその後訪れる「大いなる安定(グレート・モデレーション)」の時代を通じて、アメリカ合衆国経済は、イギリスの政策担当者、政治家、金融機関の影響を常に受け続けていたことがわかってきました。こうした発見は、大英帝国の衰退に伴いアメリカ合衆国へ覇権が移行したとする、従来の歴史観を塗り替える可能性を秘めています (Green: 2020)。
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