日本の生活保護制度には直接的・間接的な就労支援プログラムが複数存在するが,被保護者の
就労や自立に寄与する顕著な成果は挙げられていない。その主な一因は,賃金収入に課される
高率の限界税率が,保護中の労働インセンティブを抑制させるだけでなく,保護中とほぼ変わらな
い所得に対して課される課税によって,保護脱却直後の可処分所得を純減させていることにある。
2014 年に施行された就労自立給付金制度は,後者の問題を解消するために被保護者の保護脱
却に焦点を当てた新しい公的な就労支援政策である。本稿では,全被保護世帯を対象とした個
票パネルデータを使って,就労自立給付金制度が被保護者の労働インセンティブに与えた効果
を推定している。差分の差分法に基づく分析の結果,就労自立給付金制度は単身世帯の女性の
労働参加率を有意に増加させ,母子世帯の保護からの脱却に寄与していることが分かった。この
結果は,既存制度に対象者の労働インセンティブを阻害する仕組みが存在している場合,追加的
に導入される就労支援政策は,限られた特定の世帯にしか実効的な効果をもたらさないことを示
唆している。
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