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TUPD-2022-008

表 題 フリーライダー問題と主権保護 Free-Rider Problem and Sovereignty Protection
著 者 松島 斉

東京大学大学院経済学研究科 教授
東北大学経済学研究科 客員教授

P D F
要 旨

 各プレーヤーが他者に負担を押し付けるインセンティブを潜在的にもつ「フリーライダー問題」を、プレーヤー間の長期的関係においてゲーム理論的に分析する。プレーヤーは問題解決のため「委員会(committee)」を設立する。しかし、委員会は強制力を持たないとする。各プレーヤーは毎期、委員会に対して、自身が許容できる協力のレベルを表明する。委員会は、各プレーヤーに対して、あらかじめ用意されたコミットメントルール(合意形成ルール)にしたがって定められる「約束(コミットメント)」を実行することを要求する。
 本論文は、委員会が各プレーヤーの主権を保護する立場にあることを明示的に考慮する。つまり、委員会は各プレーヤーに対してその意志に反してまで高い協力レベルを要求してはいけない。意思やコミットメントのレベルが低いことを理由に、プレーヤーが他のプレーヤーから将来において報復を受けたり、委員会自体が機能不全(持続不可能)になったりしてはいけない。ただし、委員会の要求する約束に違反したプレーヤーがいる場合には、このような報復や機能不全がおこることを認めるとする。
 本論文は、「cautious commitment rule(慎重な約束設定ルール)」と称する新しい合意形成ルールを提案する。このルールに従えば、プレーヤーの「主権保護」とルールの「持続可能性」をみたしつつ、フリーライダー問題を解決できることを証明する。応用として、「地球温暖化(気候変動、グローバルコモンズ)」問題を分析する。我々は、30年間続いているCO2排出削減枠の分担合意形成をベースとした現行の「pledge and review approach」を止めて、共通の炭素価格水準の設定合意形成をベースにして、さらに本論文が提案する「慎重な約束設定ルール」を採用すれば、難航している国際温暖化交渉を好転させることができ、気候変動、経済発展、社会的包摂といったSDGsの三つの柱を尊重しながら「グローバルコモンズの悲劇」を解決できることを示す。

キーワード フリーライダー問題 Free-Rider Problem, グローバルコモンズ Global Commons, 主権保護 Sovereignty Protection, ルールの持続可能性 Rule Sustainability, 慎重な約束設定ルール Cautious Commitment Rule
発行年月 2022年 4月

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