第8回細谷賞受賞者

授賞式について

*2026年11月5日(木)開催予定*

1. 小池 祐太(東京大学)
Koike, Y. (2026). High-dimensional bootstrap and asymptotic expansion. Probability Theory and Related Fields.

2. 伏島 光毅(一橋大学),澤田 真行(一橋大学)
Fusejima, K., Ishihara, T. and Sawada, M. (2025). A unified test for regression discontinuity designs. Journal of Econometrics, 251, 106074.

講評
小池氏は、高次元ベクトルの標本平均の最大値統計量に対するブートストラップ近似の精度を、漸近展開により精密に解析した。高次元同時推論では、多数の成分の最大値の分布を正確に近似することが重要であるが、次元が標本数を上回る状況では通常の標準化や共分散行列に基づく手法が困難となる。本研究は、third-moment matching wild ブートストラップが、一定の共分散構造のもとで標準化を行わずに二次精度を持つことを示し、高次元性が単なる困難ではなく、推論精度を改善し得るという本質的な現象を明らかにした。さらに、共分散構造に依存しない double wild ブートストラップの二次精度も示しており、高次元統計推論における実用的意義も大きい。Stein kernel を用いて高次元 Edgeworth 展開を厳密に導いた点は、既存理論では十分に説明できなかったブートストラップ近似の高次精度を理論的に解明するものであり、高次元データ解析の基礎理論に対する重要な貢献である。
 伏島氏と澤田氏は、石原卓弥氏との共著論文において、回帰不連続デザインにおける診断検定の多重検定問題を明確に指摘し、密度検定と共変量バランス検定を統一的に扱う検定法を提案した。回帰不連続デザインは、社会科学における因果推論の代表的手法であり、その妥当性確認には、閾値における割当変数の密度の連続性や、処置前共変量のバランスが検証される。しかし既存の実証研究では、これら多数の診断検定が個別に解釈されることが多く、偶然の有意性による過剰棄却が生じ得る。本研究は、既存の実証研究における診断検定の運用を詳細に調査し、この問題を具体的に示したうえで、局所多項式推定量の同時漸近正規性に基づく統一的検定手続きを構築した。特に、密度推定量と条件付き平均推定量の漸近的直交性を利用し、sWald 検定および Max 検定という実装可能な手続きを与えている。これは、社会科学における因果推論の実証実務を統計的により適切なものへ改善する成果であり、データ科学の社会科学への応用として高く評価できる。

受賞者略歴
小池祐太氏
2010 東京工業大学(現 東京科学大学)理学部数学科卒業
2015 博士(数理科学,東京大学)
2017- 東京大学大学院数理科学研究科准教授

伏島光毅氏
2018 東京大学経済学部経済学科卒業
2023 東京大学大学院経済学研究科経済専攻統計学コース博士課程修了
2023- 一橋大学社会科学高等研究院特任講師

澤田真行氏
2011 上智大学経済学部経済学科卒業
2019 Ph.D. in Economics, Yale University
2026- 一橋大学経済研究所准教授

2026年6月10日
細谷賞選考委員会