東アジアの銑鋼一貫企業:高級鋼材生産システムの構築をめぐる競争(『ふぇらむ』Vol.15 No.320103月)

---

更新:201049

 本稿は「東アジア鉄鋼企業の比較分析」の改訂版であり、東アジアの銑鋼一貫企業を、高級鋼材生産システムの構築をめぐる競争という見地から比較分析しています。分量の問題と掲載誌の性格から、生産システムの分析に集中しており、その理論的説明は以前より丁寧になったと思います。一方で、前稿で少しずつ触れていた、投資行動を促す企業形態・産業政策への言及はカットしました。

 具体的には、冒頭で藤本隆宏氏らの「工程アーキテクチャ」論、田中彰氏の「日本モデル」論と、拙稿の「生産システムの世代」論を明示的に対比しました。実証部分では、宝鋼の研究開発について評価を高め、中国鋼鉄のシステム進化を制約するのが市場要因であることを明示しました。またデータを更新し、事実関係に関する記述も、より正確になるように改めました。これらの改訂にあたっては、前稿脱稿後にPOSCOと中国鋼鉄の見学・聞き取り調査を実現できたことが力になりました。

 ところで、本稿の特徴は、学問的に言えば生産システムの序列性と多様性を統一してとらえる枠組みを提示していることですが、もっと事態即応的に言えば、事実に基づいて、

「日本企業の生産システムは、いまのところ東アジアのトップだが、ダントツのトップではない」

「もはや『日本企業は高級鋼、他のアジア企業は汎用鋼』という関係ではない」

「東アジアで、日本企業がもっとも活発に研究開発を行っているわけではない」

と主張していることです。これはあくまで事実がどうであるかという判断であり、価値判断として日本企業批判を行っているわけではありません。ただ、この事態を直視しないと、学問的にも実践的にもいろいろなところで判断が偏ってくるのではないか、と思われてならないのです。

 読んでくださる方には抜き刷りをお送りしますので、メールでお問い合わせ下さい。

---

論文・報告書ライブラリへ

---

Ka-Bataホームページへ

---

Feedback: mailto:kawabata@econ.tohoku.ac.jp