産業構造調整の新局面と中小企業

19974月 大阪府中小企業家同友会第12回定点景況調査結果へのコメント−


※本稿はもともと図表を含んでいないので、この頁に掲載されたものが全文である。ただし、本来が景況調査へのコメントであり、調査結果の数値がないとわかりにくいぶぶんもある。調査結果は公開されているので、関心のある方は大阪府中小企業家同友会(Tel:06-944-1251,Fax:06-941-8352)に連絡されたい。

余談:このようなコメントは何度も書いているので、今後もアップロードしていこうと思う。なお、プリント版には誤植がある。フロッピィ入稿でないこともあり、ある程度はやむを得ないのであるが、DIに%がついているのに気づいたときは顔面蒼白となった。笑われてもやむをえないような表記である。校正ミスであり、私の誤入力ではない。おのれの非常識を隠すために他人に罪をきせるけしからぬ大学教員と思われる向きもあるかもしれないが、どうか信じていただきたい。まあ、そもそも大騒ぎするほどの文章かという問題はあるのだが……

1 現状をどう見るか

 景況の判断が難しくなっている。というのは、方向の異なる多数の要因が絡み合い、一見すると互いに矛盾するような現象を生み出しているからだ。景気回復がそれなりに中小企業経営を好転させているようにも見えれば、倒産・廃業がますます広がっているようにも見えるのである。こうした現象の背後には、1)経済情勢自体に方向の異なる複数のベクトルが働いていること、2)産業別や規模別の相違、3)構造調整への大企業、中小企業の対応の違いがあり、しかもそれぞれがまた相互に絡み合っているのである。

 まず、経済情勢にはたらくベクトルを考えると、長期的には国際競争の激化と下請システムや流通システムの再編成が進行中である。いずれも価格体系の再編を伴う。10年単位で見ればこの過程は決して終わっていないことを銘記すべきである。次に中期的には、あまりにもなだらかな景気回復があげられる。円安についても、正直言ってどの程度持続的なものかわからないのであるが、3-4年単位で考えるものとすればここに入るだろう。また公共事業の見直しもある。短期的には、消費税増税との関係での駆け込み需要とその反動減の影響がある。

 次に、産業別や規模別の相違である。例えば、日本経済新聞社の集計によると(『日本経済新聞』1997430日付)、973月期全産業上場企業の経常利益は前年比8%増であるが、増益額の半分以上は自動車と自動車部品業界の増益によるものとみられている。その多くは円安効果によるものである。逆に各電機メーカーの半導体事業は十年ぶりの半導体不況で赤字となっている。これは規格品の大量生産から抜け出られないDRAM事業の企業行動の帰結でもある。私は963月の平野区産業振興フォーラムでこの問題を指摘したが、幸か不幸か予想は当たったようである(『OSAKA中小企業家』第157号参照)。また、産業構造調整の進展度が製造業の各業界で異なる点については、本年113日の大阪産構研合同発表会で指摘しているのでここでは繰り返さない(概略は同上誌第166号参照)。

 企業行動の相違については、上記の半導体事業など大企業についても言うべきことがたくさんあるが、同友会に関わる中小企業の経営対応を中心に、次節以降、具体的な話のなかで取り上げたい。

2 景況調査の結果に即して

 景況調査の結果に即した話に入っていこう。まず注目すべきは、199610-12月期の売上・利益の結果である。「売上増加」が7-9月期比で46.4%、前年同期比で42.8%である。また「利益増加」は7-9月期比で36.8%、前年同期比で33.2%である。「増加−減少」で景況DIを見ると、売上DI7-9月期比で+28.8、前年同期比で+16.8であり、利益DI7-9月期比で+16.0、前年同期比で+5.2である。

 1995年の第6-8回調査、つまり阪神大震災以降の9カ月間、景況が二番底になり、利益DIがいずれもマイナスであったことを考えれば、前回私がコメントした第9回調査、つまり9510-12月期以降、今日に至るまでの1年あまりで、全体として景況の若干の好転がみられることは確かであろう。

 売上・利益の回復については、景気全般のゆるやかな回復の他に、円安をきっかけとして、自動車・電機・機械類の一部で、国内生産が強化されていることがあげられる。例えば昨年は国内の家電需要が大きく伸びた。バブル期に購入されたものの買い換え時期にあたっていたからであるが、日本の顧客のことであり、バブル期ほど高級品ではないにせよ、最低価格帯よりいくらか上のものが購入された。これと円安およびリストラの進展が相まって、量産品だが日本国内向けのやや高級品という、電子ジャーやエアコンの国内生産が強化されたのである。こうして、機械・金属関係や物流関係の受注が増加する傾向が生じた。さらに、消費税増税前の駆け込み需要が加わり、産構研や事務局に寄せられた情報では、1-3月期には一部の企業で繁忙状態も見られている。経営の力点として「仕事がフルにあるので来年は工場を拡大したいと思う」(プレス)、「新本社ビル建設により、積極的に優秀な人材を確保」(建築関連資材)という記述もある。

 しかし、楽観を許さない情報もまた多い。まず、不況の最悪時と変わらない状況を訴える声、とくに価格問題を訴える声が多数寄せられていることである。数字から見ても、売上DIと利益DIの差が、7-9月期比で12.8、前年同期比で11.6といぜん無視できない大きさであり、売上増が利益増につながらない価格問題が継続していることを示している。売上・利益の減少要因の三大回答(順不同)は、前回と同様に「消費不況」、「ダンピング・価格競争激化」、「売上単価の低下」である。輸入品との競合については、「円安にかかわらず海外品の流入が止まらない」(プレス)、「ダンベルブームが去り、また輸入品の拡大のために競争拡大」(健康器具・健康食品・医薬品等)などの声がある。また取引先との関係で、「主取引先の景況悪化に伴う強力な値引きを要請された」(電子・電気)、「大手取引先のリストラで取引している部門が子会社に分散し地方へ行ってしまった」(缶・板金)などリストラの影響も依然として深刻である。長期的に見れば、産業構造調整はなお進行中なのである。円安でメリットが出ている企業も、いまのうちに長期的な見通しをたてておかなければ、一服の後にまた苦労が待っていることになるだろう。

 そして、今回特に不気味なことは、繁忙をきわめる企業がある一方で、倒産・廃業の影響と思われる動きが出ていることである。

 まず最新の全国的状況を、帝国データバンクの「全国企業倒産集計」19973月報によって見ておこう。19973月の倒産は1407件と、24カ月ぶりに1400件を超えた。負債総額は140233800万円と史上3番目の高水準である。これは負債1000億円以上の倒産が3件あったことによるが、うち2社はノンバンクであり、1社は旧住専や木津信用組合の大口融資先だった不動産業者である。さらに、販売不振や売掛金回収難によるいわゆる「不況型倒産」が939件と24カ月ぶりに900件を超えた。構成比では全体の66.7%と、過去最高である。ちなみに大阪府での倒産は195件で、前年同月比27.5%増、前月比10.2%増である。

 この全国情勢を踏まえると、同友会の今回の調査結果にも気になる数字がある。まず資金繰りである。「楽−苦しい」でみたDIが現在は−7.2と前回の−2.4を下回り、さらに97年度上期の予想としては−16.4と見通しが暗くなっていることである。次に利益減少の要因として「倒産・不渡りの影響」が全回答の5.2%と前回の1.0%を大きく上回ったことである。特に流通・商業では全回答の13.6%となっている。

 ここでも、産業構造調整が長期にわたって継続していることを認識しておくことが大事ではないか。つまり、この過程で力つき、これ以上経営を支えきれない一点に達した企業が増えてきているということではないだろうか。信用不安からくる金融機関の融資態度の硬化が、そうした企業へのだめ押しになってしまう危険がある。また、体力のない企業の場合、3月までの駆け込み需要による繁忙とその後の反動減の過程で資金ショートを起こしやすくなることが考えられる。とはいえ、これらの点は詳しく調べなければ確実なところはわからない。同友会活動の上でも今後十分に注意していく必要があるだろう。

3 明暗をわける中小企業の経営対応

 上記のような複雑な情勢を個々の企業の立場から見れば、企業努力を超えた要因で浮沈を繰り返さざるを得ない側面と、経営対応が明暗を分けるという側面がある。ここで後者の点をとりあげよう。

 この間、産構研(メーカー分野)で議論した点も含めて言うと、為替相場の変動や取引先のリストラ、取引先または自社の海外進出などの構造調整過程を乗り切りつつある企業とそうでない企業の違いがはっきり出つつある。

 失敗のパターンとして、とにかく業種転換をしようとして、近接業種に参入し、十分な展望なく低価格を提示して顧客奪取を図るやり方があげられる。結果は、採算割れ、共倒れであり、自社や新規参入者によるこうした企業行動の破滅性を訴える声が、相変わらず多い。

 成功へ向かっている企業について言えば、まず、経営計画の明示や従業員教育など基本的なことをおさえていくという点や、ここ数年同友会で強調されている営業力強化への取り組みを行っているという点が共通である。その基盤に立って、自社の業界の中でのポジションをつかみ、戦略と計画をもって経営に臨んでいるという、プラスαを実行している企業もある。

 例えばあるプレス部品メーカーは、以前はある家電メーカーへの依存度が5割の下請企業であったが、メインとしていた商品の生産が次々と海外へ移されていくにおよんで、1991年から他の分野への展開を試み始めた。そのかいあって取引先数は20社を越え、973月時点ではゲーム機の仕事で繁忙を極めており、むしろ、拡大均衡でその割合を低めたいと考えている。この仕事を受注できたのは、ゲームメーカーと取引のある商社に足繁く1年半ほど通った成果とのことであり、地味だが辛抱強い営業努力の成果といってよい。

 この企業の一つの特徴として、取引先にかわって外注企業を管理できるということがあげられる。大企業は、リストラと海外進出で下請を切り捨て、管理の人員を削ったため、円安で生産を少し国内に戻そうと思ったり、新製品を増産しようと思っても生産を外注すべき相手や管理すべき人が足りないという状況に直面している。そこでこの企業の受注が増えると言うわけである。注意すべきは、この管理能力は、長年の努力で基本的な生産管理が行き届いているからこそ養われたということ、その強みを自覚的に事業展開に結びつけていることである。

 さらに、業界動向をおさえて対応していることも重要である。家電メーカーの海外進出の動向を踏まえて対策を打っており、他方では出始めの電気製品は国内で生産すること、部品発注に際してもコストを厳格に把握・管理できないことを見抜いて、利益の出る取引を行っているのである。

 このように、量産品中心の、価格面で決して有利な条件にない分野の部品メーカーでも基本的な対応に努力し、プラスαを積み重ねることで構造調整を乗り切っていこうとしているのである。

 このままでいけば、構造調整を乗り切れる企業とそうでない企業の格差はますます広がっていくだろう。同友会活動の、いっそう強力で、具体的な展開が求められている。


論文・報告書ライブラリへ


Ka-Bataホームページへ


経済学部ホームページへ