最終メンテナンス:1998年1月16日
※この論文の図表は省略しています。
余談:この論文が掲載された『季刊経済研究』は1月に刷り上がったので、その時点で私の所属は東北大学経済学部に変わっている。しかし、「執筆者紹介」欄では「大阪市立大学経済研究所助教授」となっている。建前としては12月に発行される号なので、そうなったのだろう。引越しと校正が重なったので、校正刷りの往復や連絡、抜き刷りの郵送などで、大阪市立大学経済研究所庶務掛の皆さんにお世話になった。
キーワード:東アジア,鉄鋼業,大量生産,国際分業,貿易,
英文タイトル:The Steel
Producers and the Steel Trade in East Asia
T 目的と課題
U 東アジア鉄鋼業分析のフレームワーク
1 鉄鋼業の企業類型
2 国際分業と技術選択
V 企業類型・貿易構造分析
1 世界鉄鋼業における東アジア
2 グループT-1:日本,韓国,台湾――銑鋼一貫企業による多品種大量生産(以上 『季刊経済研究』第20巻第2号)
3 グループT-2:中国――特異な技術構成と制約された大量生産
5 グループV:タイ,マレーシア,フィリピンなど――一貫生産の未確立
グループT-2に該当するのは中国である.その特徴は,銑鋼一貫企業による大量生産システムが確立している程度と領域が限られており,技術・設備構成や製品構成においてT-1とは異なる性質をもった部分が広く存在していることである.
まず,全体として技術・設備の水準が低い,あるいは構成がグループT-1とは大きく異なることである.1995年現在,中国には高炉が3227基存在している61.日本の約100倍という,まさにけた違いの数である.しかし,図 III-1が示すように,大型高炉は16基に過ぎず,2889基は内容積100立方メートル未満の小高炉なのである.また製鋼工程でも,転炉比率は66.7%と日本,韓国,台湾に遜色ないが,電炉比率が19%と低く,日本,韓国,台湾では旧技術として使用されていない平炉の比率が14.3%である.また,転炉も297基のうち138基が10トン/回未満,電炉も3343基のうち1637基が3トン/回未満である.さらに,連続鋳造比率が47.1%と極めて低く62,造塊・分塊法に大きく依拠した生産性と熱効率の悪い生産となっている.このような特異な設備構成は,中国の歴史的条件を反映したものであり,別個に立ち入った考察が必要である63.さしあたりここでは,1995年時点で世界第3位の粗鋼生産と世界第1位の銑鉄生産が,こうした特異な設備構成に支えられているということを強調しておきたい64.
図 III-1
以上の基本的な問題点を踏まえつつ,銑鋼一貫企業による多品種大量生産システムの確立をグループT-1と同様に四つの面から検証しよう.
まず,銑鋼一貫の巨大企業の存在である.1995年の企業別粗鋼生産高ランキングでみると,宝山鋼鉄公司,鞍山鋼鉄公司,首鋼総公司,武漢鋼鉄公司の4社が世界30位に顔を出している(表
III-5).このうち,首鋼を除く3社は大型高炉,大型転炉,スラブ連鋳機,大型ホット・ストリップ・ミルを各1基以上保有している.ただし,分塊・造塊法にも一部依存している.首鋼はホット・ストリップ・ミルを持たず,条鋼・形鋼類を生産する製鉄所であるが,大型高炉,大型転炉,連鋳機は保有している65.
しかし,中国の銑鋼一貫製鉄所は,上記の大型のものばかりではない.企業別の統計が確認できる範囲では,銑鋼一貫企業が54社存在している66.おおむね1企業1事業所と考えられる67.しかし,そのうち年間粗鋼生産能力が500万トン以上のものは4社,100万トン以上のものでも21社に過ぎない.1995年の重点企業・地方企業の粗鋼生産実績では,300万トン以上のものは6社,100万トン以上のものが19社である68.しかもこのなかには,製銑・製鋼・圧延の工程バランスがとれていないものもある.巨大一貫企業・製鉄所と多数の中・小型の一貫企業・製鉄所が併存しているのであり,グループT-1の一貫企業に比肩しうるものはほんの一部と言わねばならない.
また,巨大企業の中にも二つの系譜がある.先進国と同水準の技術・設備を導入して建設され,その意味で浦項綜合製鉄や中国鋼鉄の製鉄所に比肩しうる新鋭臨海製鉄所を保有しているのは,宝山鋼鉄だけである69.その他の製鉄所は,第二次大戦以前の日本の支配下で建設された工場を出発点とするもの,ソ連の援助下でつくられた比較的大型の製鉄所,第二次五カ年計画以後に政策的に建設が推進された多数の中小型企業,などにわかれ,中国の独自技術も加わった独特の系譜を有している70.
次に生産の集中度であるが,上記の巨大一貫企業6社が1995年の粗鋼生産にしめる割合は41.0%である.国内の鉄鋼メーカーが1570社であることを考えれば71,かなりの集中度であるが,前述の日本や韓国,台湾における巨大一貫企業への集中度よりはかなり低い.
しかし,中・小型を含めた一貫企業への粗鋼生産集中度を見ると83.2%であり72,これは日本,韓国,台湾よりもむしろ高い.つまり,中・小型を含む銑鋼一貫企業が支配的な企業類型となっているのである.前述の製鋼法比率の数値とあわせて考えれば,一貫製鉄所が転炉製鋼か平炉製鋼を行い,製鋼圧延企業が電炉製鋼を行うのが,基本的なパターンだと推測される.
次にフルライン生産および薄板類の位置づけであるが,巨大一貫企業が各種鋼材の生産に占めるシェアを示す統計は入手できていない.そこで,比較的大規模な一貫企業が多い重点企業と中・小規模の多い地方企業という分類で見ておこう.重点企業は,粗鋼年産300万トン以上の6社すべてと,100万トン以上の19社中12社を含んでおり,粗鋼生産に占めるシェアは63.3%である73.
重点企業,地方企業,系統外のそれぞれの品種別生産高とシェアをみたものが表 III-13である.まず,薄板類の生産は全体の18.9%に過ぎず,必ずしも生産の中心に据えられていないことに注意する必要がある.次にシェアを見ると,重点企業は,軌条が多くを占める鉄道用鋼材,大形形鋼など大形の条鋼・形鋼類では圧倒的なシェアを占めており,薄板類でも78.3%と高いシェアを占めている.ただし帯鋼では46.3%とやや低い.中屋信彦が『武鋼年鑑1994』から計算した表によれば,薄板の生産は前述の鞍鋼,宝鋼,武鋼と本渓鋼鉄公司に集中しているようである74.なお,本鋼は連鋳機を装備していない75.要するに,中国鉄鋼業では,ごく一部の巨大企業のみが<高炉−転炉−連続鋳造機−ホット・ストリップ・ミルを中心とする多様な圧延機>という技術体系を装備して薄板類を生産しており,多数の企業は中・小型の生産能力で,典型的には<高炉−平炉−造塊モールド・分塊圧延機−条鋼・形鋼を中心とする圧延機>という技術体系の下で操業しているのである.
表 III-13
次に市場との関係である.中国鉄鋼業の場合,1995年現在でも生産能力の大半は国有企業の下にあり,郷鎮企業等は粗鋼生産能力の8.5%を有するに過ぎない76.そしてかつては鋼材流通の統一配分制が実施されており,企業が鋼材を必要とする場合はそれを上級の主管部門に報告し,主管部門が全体のバランスをとってからそれを許可し製鉄所に通知し,製鉄所は当該企業と話し合って契約する,という手続きが踏まれていた77.しかし,市場経済化の進む現在では,こうした国家配分の対象数量は減少を続けており,1994年の計画では全生産予定量の16%にまで減ってきている.かわって,鋼材市場や鋼材卸売り公益市場での随時取引が増大しており,また鉄鋼企業とユーザーの個別取引も行われている78.1995年の鋼材出荷量に占める市場販売(Self- sale by enterprise)の割合は,重点企業で91.0%,地方企業で93.5%にのぼっている79.実状はなお詳しい調査を要するとしても,中国の鉄鋼企業とユーザーとの関係を,市場の問題として資本主義諸国と比較することが可能になったと言ってよいだろう.
さて,ここで重要なことは,市場における薄板類の比重がグループT-1とは異なっていることである.品種毎の消費パターンを示す細かい統計は入手できていないが,日本鉄鋼輸出組合の推定によれば,厚中板を含む鋼板類でも全体の32%に過ぎない.また中国国家統計局のデータを利用した夏秋晶一の推計では,薄板類・高級薄板類が21.5%,鋼板類が31.6%である80.さらに部門別鋼材消費パターンをみると,薄板類に限ったものは不明であるが,全品種についての推計が表 III-8である.建設業の比重が63%と大きく,台湾,韓国よりも製造業の比重が小さいことが特徴的である.また製造業の内部では,自動車・造船の比重が小さく,電機・産業機械の比重が大きい.機械工業も,鉄鋼業と同様に計画経済下で育成されたため,構造的には問題を抱えながらも量的には大きく,これが鋼材需要に反映されていると考えられる.全体としては,中国では,鉄鋼企業と大量消費向け産業との結合関係が鋼材市場を大きく左右するには至っていないのである.
しかも,工業の発展に対応して生じている高級鋼材の需要に対して,一部,技術的に製造できない,あるいは規格上の対応ができないなどの問題が生じている.例えば,自動車用鋼材では,タイヤコードに用いられる0.25ミリメートル以下の高炭素線材製品や,アルミめっき鋼板は生産不可能である81.また自動車用鋼板の品質上の問題や,外国から導入した車種に必要な鋼材の規格がないといった問題も生じている82.油井管については,宝鋼以外の製品は市場ニーズに対応できず,肉厚が不均一であったり,ひび割れや亀裂が生じるなど,品質や耐久性の面で多くの問題を抱えている83.
以上,要するに,中国においては,銑鋼一貫企業による大量生産システムの確立,大量消費との連動は,グループT-1の鉄鋼業に比べて,相当に制約されたものだと言わねばならないのである.
中国では,電炉数が多い割には電炉製鋼比率は19.0%と,グループT-1の3国を大きく下回っている.
粗鋼生産においても鋼材生産においても製鋼圧延企業の果たす役割は大きくなく,汎用の条鋼・形鋼類の生産についてもかなりの部分を中・小型の銑鋼一貫企業が担当しているものと推定できる.
むしろ注目すべきは,前述した多数の小高炉の存在である.小高炉の一部は銑鋼一貫企業に保有されているが,多くは,高炉のみを保有する単純製銑企業の下にある.これら企業の実態については不明な点が多いが,川原業三,児玉光弘のレポートがその一端を伝えてくれている84.児玉が利用した『中国鋼鉄統計』によれば,山西省には100立方メートル未満の小高炉が1582基存在している.全国にある2889基の54.8%が集中している勘定であり,これは石炭,鉄鉱石の産地であることによる.小高炉は,土法製鉄ではなく実際に小型の高炉であるが,操業技術の水準は高くない.経営形態は郷鎮企業や個人企業であり,製品は型銑として上海方面の機械メーカーや製鋼所に売られている.
ここで注目すべきは,これら小高炉の基数が年によって大きく変動していることである.高炉全体の基数は,1985年に516基,93年に1502基,94年に4567基,95年に3227基と推移しているが,変動の主要な要因は小高炉である85.休止中の炉をどう勘定しているか不明であるが,小高炉は工期が3〜4カ月で,実際に多数建設されては廃止されるようである86.きわめて柔軟だが不安定な供給体制と言えるだろう.
さて,小高炉は,一見すると欧米の「鉄の時代」に対応した,あるいは大躍進期や文化大革命期の政策の遺産としての旧技術のようである87.実際,技術の系譜は連続している可能性があろう.しかし,その基数が減少する一方でなく,むしろ1980年代以降に爆発的に増えていること,児玉の観察事例では型銑が上海へ出荷されていたことを踏まえると,「改革・開放」後の市場構造にそれなりに対応した,いわゆるニッチ企業的な存在ではないかと思われるのである.ただ,これ以上の分析はいまのところ筆者の能力を越えるので,問題提起にとどめる.
1995年の中国の鋼材輸出は1019万トン,鋼材輸入は1452万5000トンである(表 III-14,表 III-15).推定輸出比率は13.2%,推定輸入依存度は17.8%である(表 III-3).最近10年間で見ると,輸出は89年に100万トンを突破し,95年に前年の4.75倍に急増したものである.輸入は86年に2018万6000トンであり,いったん400万トン弱にまで減少した後,93年に3626万トンへと増加,その後若干減少したものである88.
表 III-14
表 III-15
製品別に見ると,まず輸出では,何よりも鋼材とは別に,銑鉄が543万3000トンと大量に輸出されていることが特筆される.次に,鋼材の中では鋼塊・半製品が458万7000トンと,全体の45.0%という大きな比重を占めている.つまり,製品以前の段階で1000万トン以上の輸出をおこなっているわけである.これは,圧延能力が絶対的に不足しているためではなく,すぐ後で述べるように競争上の問題である.相対的に品質・納期を厳しく問われない銑鉄・鋼塊・半製品段階での価格競争力があるため,輸出がおこなわれていると推測される.これら半製品に次いで多いのが,熱延鋼帯(ホット・コイル),厚中板・熱延薄板(大部分は厚中板)である.重点企業を中心に,薄板類の中では加工度の低い量産品であるホット・コイルが相対的に競争力を持っていると推測できる89.一方,輸入は条鋼・形鋼類が全体で36.7%と,日本や韓国よりは大きな比重を占めている.次いで,冷延鋼板類17.9%,熱延鋼帯13.3%となっている.汎用鋼材の輸入も高級鋼材の輸入もともに多いが,それぞれに別個の理由がある.
汎用鋼材の圧延能力は絶対的には不足しておらず,1995年の圧延部門設備稼働率は62%と,むしろ形鋼などの過剰能力が問題になっている90.旧式の圧延工程しかもたず,製品競争力を持たない企業が多いことが輸入の根本原因であるが,これを加速する条件も存在している.@まず三資企業の鋼材調達について,輸入鋼材にのみ減免税等の優遇装置があるため,国内製鋼材が不利になっており,Aその上,この優遇措置を受けて購入した鋼材は,自家使用されねばならないにもかかわらず,一部転売されている.Bさらに,過剰生産能力を抱えた旧ソ連からの安値輸入がおこなわれているのである91.
一方,高級薄板類やステンレスは,輸入に占める比重は大きくないものの,生産能力の不足によって輸入依存度が高くなっていると推定できる.ブリキ,亜鉛めっき鋼板,冷延電気鋼板については,95年の需要の半分以上が輸入によってまかなわれたことが報じられている92.
仕向先・供給元別に見ると,輸出先は単独では韓国がもっとも多く,25.0%を占めているが,アセアン7カ国を合計すると27.0%である.続いて台湾13.8%,日本12.5%となっている.アジア合計では89.0%と輸出市場の要をなしている.輸入元は日本が最大の37.0%を占め,ロシアが22.7%でこれに次いでいる.アジア合計は54.5%であり,輸入鋼材の調達先はアジアに限られていない.全体としての製品の流れはかなり明白であり,日本に対して輸入超過,それ以外のアジアに対して輸出超過,ロシアに対して輸入超過である.
品種と仕向先・供給元をクロスさせた場合の特徴を列挙すると,第一に,日本,台湾に対しては鉄源・半製品の供給者という位置にある.銑鉄,鋼塊・半製品が出超である一方,その他の鋼材はすべて入超である.第二に,韓国に対しては,厚中板・熱延薄板と熱延鋼帯が出超であり,若干の競合が生じている.第三に,アセアン諸国に対しては,半製品・製品の供給者となっている.第四に,ロシアを中心に旧ソ連・東欧から大量の条鋼・形鋼類と一部薄板類が流入している.これは能力不足によるものではなく,供給元の諸国でも生産過剰の汎用品が安値で流入しているものである.中国でも反ダンピング・反補助金条例が97年3月に公布されたが,96年にいっそう増大したロシアからの鋼材輸入に歯止めをかけることも狙いの一つである93.
以上の内容は,中国の特異な設備構成を反映している.全体としての量的供給能力は大きいが,高級鋼材の圧延能力は不足している.そして,銑鉄,鋼塊・半製品と汎用品の一部のみが競争力を持っているのである.
中国鉄鋼業においては,一貫企業が,全体として中・小型の生産能力で<高炉−平炉−造塊モールド・分塊圧延機−条鋼・形鋼を中心とする圧延機>という技術体系をとっている場合が多く,大量生産システムの確立,大量消費との連動は,グループT-1の諸国に比べて,相当に制約されたものである.条鋼・形鋼類の生産も一貫企業が担っているが,それが特に効率的だというわけではない.このため,一方では高級鋼材が不足し,他方では外国製の安値の汎用鋼材との競合が強まって,輸入を招いているのである.一方で品質・納期を厳しく問われない分野では輸出がおこなわれており,一部の鋼板類も伸びてはいるが,全体としては銑鉄,鋼塊・半製品が中心である.
しかし,質的に問題がありながらも,量的に膨大な生産能力を有していることは,中国鉄鋼業が東アジア市場に対して,常に何らかの形で影響を与えざるを得ないことを意味している.現在のところ,それは東アジア全域で増大している鉄源と半製品の需要に,スポット的に対応するという形であらわれている.ただし,特に各企業が輸出をめざした生産体制を整えようとしているわけではない.むしろ,一国内や地域内での分業を前提とした計画経済下の体制が,世界経済と連動した市場経済化によって大きく揺さぶられる中で,一時的に銑鉄・半製品の外販・輸出が合理的とされる局面が出現したに過ぎないのである.したがって,銑鉄,鋼塊・半製品の輸出についても,今後どのように変化するかは不確実であり,安定した供給源とは言えないことに注意すべきであろう.
なお,1996年から2000年までを期間とする第9次五カ年計画は,粗鋼生産予測を年率2.2%の伸びに抑えており,量的成長からの転換を図っている94.この五カ年計画とそれを受けた中国政府の方針は,製品面では品質向上と品種構成の調整に主眼を置くもので,大手・中規模企業に高品質の鋼管,鋼板の量産を求めている.設備面では一貫製鉄所建設プロジェクトの多くを凍結した模様であり,現有企業の設備改良・能力拡大を重点に置いている.具体的には,小型高炉,小型転炉を減らすこと,2000年までに平炉を基本的に廃止すること,連鋳比率の引き上げ,鋼板,鋼管製造部門への2次精錬設備の導入といった方針が打ち出されている.中国鉄鋼業では,特異な構成を持つ膨大な設備能力が,市場動向に対応して再編成される過程が当分の間は続くであろう.
第Uグループは,還元鉄一貫企業による量産システムが供給能力の中心を形成している国・地域であり,具体的にはインドネシアである.
表 III-2,表 III-3,表 III-4によれば,還元鉄一貫企業は,インドネシアとマレーシア,ミャンマーに存在しており,うち,インドネシアとマレーシアは100万トンを超す還元鉄生産能力を有して,実際に生産をおこなっている.にもかかわらず,グループUにインドネシアのみを含める理由は二つある.第一に,インドネシアのP. T. Krakatau Steelがホット・ストリップ・ミルを保有して薄板類の一貫生産をおこなっているのに対し,マレーシアの還元鉄企業はこれをおこなっていないという違いである.第二に,インドネシアのKrakatau Steelは<直接還元炉−電炉−連続鋳造機−ホット・ストリップ・ミルを含む多様な圧延機>という技術体系をとる一貫製鉄所を有しているが,マレーシアには一貫製鉄所は存在しないことである.Amsteelは単純還元鉄製造所と製鋼圧延所を保有することで,またPerwaja
Steelは還元製鉄製鋼所と単純圧延所,製鋼圧延所の三カ所を保有することで,企業レベルでは一貫企業となっているが,事業所レベルでは一貫生産をおこなっていない95.しかも,Amsteelは直接還元鉄を外販した方がメリットが大きいとして,ほとんど輸出しており,製鋼圧延所の原料にはまわしていないので,企業レベルでも一貫生産をおこなっていないのである96.Krakatau Steelの方が,生産の統合性ははるかに強力だと言える.
さて,インドネシアの還元鉄一貫企業の中心性を,第Tグループにならって,@生産設備の規模と水準,A生産の集中,Bフルライン生産と薄板類生産での中心的地位,C大量消費システムとの結合の四つの面からみていこう.
まず設備規模であるが,Krakatau
Steel社Cilegon製鉄所は直接還元鉄(DRI)製造段階では,旧型バッチプロセスのHYLT型直接還元炉100万トン/年,連続プロセスのHYLV型直接還元炉135万トン/年の還元鉄生産能力を備えている.国内で産出される天然ガスを還元に使用している.製鋼段階では,電炉10基270万トンの粗鋼生産能力を持っている.鉄源のうち67.8%をDRI,6.08%を社内発生スクラップでまかない,残りは市中スクラップ,輸入銑鉄・スクラップなどを購入して使用する97.設備1基あたりの規模は大型高炉や転炉に劣るものの,製鉄所としては中規模の一貫製鉄所に匹敵する生産能力を備えているのである.さらに,スラブ用およびビレット用連鋳機,年産200万トンの大型ホット・ストリップ・ミルを保有しており,これはインドネシアで唯一のホット・ストリップ・ミルである98.実際には,1995年に170万9000トンの直接還元鉄,220万トンの粗鋼を生産した99.
Krakatau Steelは高炉法による銑鋼一貫生産には及ばないが,規模においてこれに次ぐ,薄板類中心の量産システムを形成していると言えるだろう.
次に生産の集中とフルライン化を見よう.Krakatau Steelは1995年のインドネシアにおける粗鋼生産の53.3%を占めている.輸入を含む鋼材の総供給に対しては,熱延薄板類の61%,冷延薄板類の50%,線材の32%を占めている100.この他,Krakatau Steelは,厚板,棒鋼,形鋼も生産している.1980年代には,Krakatau Steelが鋼材を独占的に輸入するという保護・育成政策がとられていたが,1993年までにほぼ撤廃されたため,現在では保護貿易によってシェアが維持されているわけではない101.
1995年のインドネシアの最終鋼材見掛消費に占める薄板類の割合は33.1%であり,グループT-1の諸国とほぼ同水準である102.部門別の全鋼材消費パターンは表 III-8のようだと推定されている.製造業の比重は韓国,台湾より小さく,中国よりは大きい.自動車・家電の比重は台湾とほぼ同じであるが,容器の比重が大きいという特徴がある.自動車・家電・容器産業がある程度有力な薄板類ユーザーとなっていると推測できる.
Krakatau Steelが薄板類で大きなシェアを占めていることは薄板類ユーザーとの結びつきが強いことを意味している.ただし,Krakatau Steelのマーケティング・ディレクターであるDjoko Sbagyoのスピーチによれば103,同社が大きなシェアを占めているのは,熱延薄板類市場では鋼管向けの80%,建設向けの77%,冷延薄板類市場では鋼管向けの80%,ドラム缶向けの87%,亜鉛めっき鋼板向けの57%である.逆に言えば,自動車向けや家電向けの薄板類市場ではシェアが小さいと推測できるし,同じスピーチで,輸入冷延鋼板は主に自動車,ブリキ,亜鉛メッキ鋼板などの高級用途に向けられていると述べられている.これは,品質上の問題が大きいと思われる.長谷川伸の調査によれば,国内には真空脱ガス処理をしていない薄板を扱わない日系自動車メーカーがあり,Krakatau Steelには1994年まで真空脱ガス設備がなかったために,このメーカーは薄板を輸入していた104.また野村俊郎の調査に対する自動車用プレス部品の大手メーカーP. T.
Pamindo Tiga Tの回答によると,ドア,燃料タンク,マフラー用の薄板はインドネシアでは生産されておらず,同社は日本製を使っている.Krakatau Steelの製品は,冶具用の厚板,形鋼,パイプを使っているが,厚板は材質証明書と実際の成分が異なっていたり,欠品が多くサイズがそろわなかったりする.また,形鋼はこれに加えて寸法が違うことがあり,P. T. Pamindo Tiga Tで機械加工しているとのことである105.鋼材品質の悪さがユーザーの生産システムを制約する一例である.
このように,薄板類でも高級なものは輸入に依存しており,Krakatau Steelと大量消費向け製造業との結びつきは,その分だけ割り引いて評価する必要がある.今後は,国民車構想との関わりが注目されるところである.
インドネシアでは,Krakatau
Steel以外に,14社の製鋼圧延企業と2社の単純製鋼企業,18社の単圧企業が存在する.棒鋼,形鋼,線材の圧延能力の過半は製鋼圧延企業と単圧企業によって占められており,また製管能力はすべて単圧(単純製管)企業によって保有されている.Krakatau Steel以外で年産50万トンを超える大型設備は,電炉,ビレット連鋳機,コールド・ストリップ・ミル各1基が確認されるのみである106.
1995年のインドネシアの鋼材輸出は77万1000トン,鋼材輸入は365万7000トンである(表 III-16,表
III-17).1990年代には,輸出・輸入ともおおむね拡大基調にある.表 III-3によれば推定輸出比率は20.7%,推定輸入依存度は55.3%である.
ただし,インドネシアや,後述するグループVの諸国・地域では,半製品やホット・コイルを輸入して圧延・加工するケースや,それをさらに再輸出するケースが少なくないことに注意する必要がある.表 III-3の脚注に記しているとおり,ここでは鋼材生産を国産粗鋼に由来するもののみとして取り扱っているので,輸入半製品・ホットコイルを圧延・加工した部分は,輸入にのみ計上され,鋼材生産に計上されない.したがって,見掛消費については,熱間圧延鋼材や最終鋼材をベースに計算した場合には生じてしまう二重計算を回避できており,その分だけリアルな数値となっている.しかし,他方で輸入半製品・ホットコイルを圧延・加工して再輸出した場合には,輸出にのみ計上され,鋼材生産に計上されないため,輸出比率が実状にそぐわなくなっている可能性がある.そこで東南アジア鉄鋼協会の統計項目にしたがい,最終鋼材の生産と輸出をみたものが表 III-18である.各国とも輸出比率が表 III-3より小さくなっており,インドネシアも13.6%となっている.こちらの方が実態を反映しているであろう.
表 III-16
表 III-17
表 III-18
製品別に見ると,まず全品種について輸入超過であることが注目される.輸出をおこなっている品種については,汎用品生産と高級品輸入という関係があると思われるが,全体としては生産能力不足による輸入と考えてよい.輸出では,熱延鋼帯(ホット・コイル),鋼管,冷延鋼板類の順に多い.輸出の大半はKrakatau Steelやその川下工程を担当する子会社の製品とのことであり,一定の競争力を備えているようである107.輸入については,鋼塊・半製品が全体の38.0%と際だっており,次いでホット・コイルが14.7%,冷延鋼板類13.6%,条鋼・形鋼類12.7%となっている.このほか,銑鉄が106万トン輸入されていることが目につく.Krakatau Steelの量産システムが確立しているにもかかわらず,インドネシア全体としては,特に製銑・製鋼工程の能力が不足気味だと言えるだろう.
仕向先・供給元別に見ると,輸出についてはマレーシアが全体の29.1%と最大であることが注目される.日本が23.0%でこれに次いでいる.アジア合計では88.7%となり,主要市場となっている.輸入については,日本が22.2%と最大であり,次いで旧ソ連が合計で20.4%,韓国が11.8%となっている.アジア合計は54.0%であり,鋼材調達先は分散している.全体としては,銑鋼一貫生産をおこなっているグループTの諸国・地域に対して輸入超過であり,それ以外のアジアへは輸出超過,アジア以外に対しては,旧ソ連を中心に輸入超過である.
品種と仕向先・供給元をクロスさせると,第一に,日本は,半製品と合わせ鋼材・ワイヤーを除く全品種で最大の供給元となっている.第二に,日本,韓国,台湾に対してはほとんどの品種が輸入超過であるが,日本に対してのホット・コイルだけは輸出超過である.第三に,マレーシアが銑鉄の最大の供給元である一方,最大の鋼材輸出先になっており,工程間の分業関係が成立している.第四に,旧ソ連が半製品とホット・コイルの有力な供給元になっている.なお,詳細は省くが,インド,ロシア,中国,ウクライナからのホット・コイル輸入などについて反ダンピング問題が生じている.
インドネシアは,アセアン諸国の中では最大の粗鋼生産国である(表 III-3).1960年代から80年代初頭にかけて,国営製鉄所による一貫生産の達成に努力した国・地域は多いものの,インドネシアのように還元鉄一貫生産を,薄板類の量産システムを含めて実現している例は少なく,その点ではユニークな存在である108.鋼材の輸入依存度も,次に見る,一貫生産が確立していない諸国・地域に比べれば低く,アセアン内の鋼材貿易では製品供給者の役割を担っている.とはいえ,それでも鋼材供給の過半を輸入に依存し,半製品の輸入もまた大きいことを考えると,全体としては鋼材供給能力が不足気味である.また,Krakatau Steelの製品の品質も,競争上は見過ごせない問題である.生産能力規模の拡張という課題をなお抱えつつ,品質やこれを支える生産プロセスをどう高度化するかという新たな課題にも直面していると言えるだろう.
なお,96年7月に発表されたKrakatau Steelの拡張計画は,年間生産能力250万トンの高炉と年間生産能力130万トンのHYL-V直接還元炉の建設,さらにPOSCOとの合弁による年間生産能力100万トンの薄スラブ連鋳・コンパクト・ストリップ・ミルの建設を含んでいる109.実現すれば,インドネシア鉄鋼業ではグループTに準じた多品種大量生産システムが整うこととなるであろう.
グループVには,1990年代半ばの時点で銑鋼一貫生産,もしくは還元鉄一貫生産が確立しておらず,製鋼圧延企業や単純圧延企業によって鉄鋼生産をおこなっている諸国・地域が含まれる.さしあたり,粗鋼年間生産能力10万トン以上の企業が存在することを基準とすれば,タイ,マレーシア,フィリピン,シンガポール,香港,ベトナムが含まれる.
一貫企業が存在するはずのマレーシアとベトナムが含まれているのは,以下の理由による.マレーシアには還元鉄一貫企業が2社存在するが,前節で述べた理由で一貫生産プロセスとみなすことはできない.また,かつて日本の技術協力の成功例とされたマレーシアのMalayawata Steelは高炉・転炉を停止して電炉法による製鋼圧延企業となっている110.ベトナムには銑鋼一貫企業Thaiguen Iron and Steel
Crop.が存在するが,高炉の製銑能力が製鋼能力の27.1%しかない上に,その稼働率が16%ときわめて低く,さらに転炉がなく電炉製鋼であることから,実質的な一貫体制に至っていないと判断される.また,ラオス,カンボジアについては粗鋼生産能力がなく,ミャンマーの2社も,ともに粗鋼年産5万トン以下であるため,ここでは対象外としている(表 III-2,表 III-3,表
III-4)111.
ただし,グループVの諸国・地域の中でも,生産・貿易のあり方は多様である.ここでは,一貫生産の未確立という共通の特質を重視しつつ,多様性を踏まえた分析をおこなっていく.
まず,一貫生産が未確立であるため,鋼材生産を担う技術体系は,製鋼圧延企業の<(スクラップ,冷銑,還元鉄)−電炉−連続鋳造機−条鋼・形鋼圧延機−(条鋼・形鋼類)>と,単純圧延企業の<(半製品)−多様な圧延機−(多様な鋼材)>になる.実際,製鋼圧延企業1社のみが存在する香港を除くと,両方の企業類型が各国に存在している(表 III-2).条鋼・形鋼類は製鋼圧延企業を中心に生産されているが,薄スラブ連鋳機は設置されていないので,鋼板類は半製品を輸入した上で単圧企業で生産するか,輸入に依存することになる.
したがって,条鋼・形鋼類の生産の流れと鋼板類の生産の流れはまったく分離していることになる.これを典型的に示すのが,フィリピン鉄鋼業の生産フローをあらわした図 III-2である.National Steelはフィリピン最大の製鋼圧延企業であるが,同一企業内でさえも条鋼・形鋼類と鋼板類は分離した工程となっていることがわかる.
図 III-2 <フィリピン鉄鋼業の生産フロー.Alberto M. Albano「東南アジア各国の鉄鋼業(3)フィリピン」『鉄鋼界』1996年3月号,25頁.>
まず,電炉を起点とした条鋼・形鋼類の半一貫生産についてみると,電炉による粗鋼生産は,もともと高炉・転炉に比べれば規模は小さいが,特にこのグループでは,マレーシア以外は小規模の企業が多い.年間粗鋼生産能力が50万トン以上の企業は,タイのSiam Yamato Steel,マレーシアのAntara Steel Mills,Perwaja Steel,Southern Steel,Amsteel Mills,シンガポールのNat Steelの6社のみであり,うち100万トン以上であるのは,Perwaja Steelのみである112.一国の生産の多くが巨大企業に集中される状況ではない.
次に鋼板類の単純圧延については,国・地域によって存在する工程が異なっており,表 III-19からこれを読みとることができる.ホット,コールドのストリップ・ミル,厚板ミル,ステンレス用のゼンジミアミルがそろっているのはタイだけであり,他の諸国・地域ではいずれかの,あるいはすべての鋼板ミルが欠如しているのである.独特の産業構造を持つ香港を除けば,鋼板類の生産能力を持たないことが工業化の進展に制約をもたらすと考えられる.
表 III-19
しかし一方で,鋼板類,特に薄板類の圧延機は,条鋼・形鋼類の圧延機に比べて相対的に大規模である.フィリピンのNational Steelの第2ホット・ストリップ・ミル,タイのSahaviriya Steelのホット・ストリップ・ミル,97年に稼働したばかりのThai Cold Rolled Steelのコールド・ストリップ・ミルは,年間生産能力が100万トンを超える大型ミルであり,各国で増大しつつある薄板類の需要に応えているのである113.
なお,国・地域別の相違に触れておけば,マレーシア鉄鋼業は,かつての国営企業主導の工業化政策の遺産として還元鉄生産工程や条鋼向けの製鋼工程が比較的発達しているが,薄板の熱延工程を欠いている.これに対して,タイ鉄鋼業は薄板類の圧延工程が,特に近年の機械工業の急成長に対応する形で発達しており,それだけに,製鋼工程・スラブ連鋳能力の欠如が際だっているのである.
次に市場との関係であるが,統計を発見できない香港を除く各国・地域の最終鋼材見掛消費を品種別構成比でみたものが表 III-20である.タイ,マレーシア,フィリピンで,薄板類の比重が40%以上と,日本を上回っていることが目につく.これらの諸国では,薄板類を使用する産業の,特に組立工場が数多く立地しており,タイ,マレーシアでは家電と自動車,フィリピンでは家電と食缶製造の各産業が,薄板類の需要を生み出していると考えられる.薄板類に限った需要部門の統計は発見できないが,全品種に関する表 III-8の推定値もこの推測を補強するだろう.これらの諸国では,薄板類を大量に使用する大量消費向け諸産業が発達しつつある.しかし,それに応じる大量生産システムは未確立であり,次に見るように輸入の増大を招いているのである.
他方,薄板類の需要が大きくないシンガポール,香港,ベトナムではこのような関係は見られない.ベトナムの場合は機械工業が全般的に未発達だからであるが,シンガポール,香港の場合は,経済発展の方向性そのものが薄板需要を誘発しにくいとみるべきだろう.シンガポール,香港のようなタイプは,一国の経済発展・工業化と鉄鋼業の発達の関係を固定的にとらえてはならないことを示唆している.
表 III-20
グループVの諸国・地域の貿易は,生産プロセス・企業類型と連動した構造をとるタイ,フィリピン,マレーシア,ベトナムと,中継ぎ貿易が大きな比重を占めるシンガポール,香港の二つのタイプに分けられる.後者は輸出が生産を上回り,輸入が国内需要を上回っている(表 III-3).このタイプの分析は,鉄鋼業論の範囲を越えたグローバルな産業構造や,貿易に独自の問題に立ち入らねばならないので,ここでは前者のみをとりあげる.
典型的な事例として,タイの鉄鋼貿易をとりあげる.1995年のタイの鋼材輸出は65万4000トン,鋼材輸入は1060万4000トンである(表
III-21,表 III-22).1980-90年代にかけて輸入は増加傾向にある.表 III-3の基準では輸出比率は33.9%,輸入依存度は89.3%である.しかし,輸出比率に関しては,インドネシアと同様の理由で最終鋼材を基準とすべきであり,表 III-18が示す11.3%が妥当であろう.マレーシア,フィリピン,ベトナムも,輸入依存度が5割を超えているなど同様の傾向を示すが,マレーシアは最終鋼材の輸出比率が17.3%とインドネシアや台湾を上回る程度に高い.
表 III-21
表 III-22
製品別に見ると,まずほとんどの品種が輸入超過である.条鋼・形鋼類を棒鋼,線材などの品種別に見てもすべて輸入超過であり,輸出超過なのは鋼管,より具体的には溶鍛接鋼管だけである.輸出は鋼管,熱延鋼帯,形鋼の順に多い.輸入品種で最大の比重を占めるのは鋼塊・半製品であり,全体の32.3%にもなる.続いて熱延鋼帯(ホット・コイル)が17.6%,冷延鋼板類が17.5%となっている.製鋼能力と薄板類の圧延能力の不足がはっきりとうかがえる.しかしながら,次第に能力不足ゆえの輸入に加え,競争の結果としての輸入という性格を持ちつつあることもまた,いくつかの事実から推定できる.統一的な統計整備や実態調査を経なければ正確なことは断定しにくいのであるが,各品種の生産高と各社圧延能力推定値の総和から稼働率を試算すると,棒鋼が80.8%であるのに対して形鋼が41.1%,線材が36.7%と著しく低い.同様の現象はマレーシア,フィリピンのいくつかの品種でも見られる114.一部には,新規設備の立ち上げに伴う一時的な低迷もあろうが,操業技術水準の低さや,価格・品質面での競争の結果としての稼働率の低迷もあるとみてよい.タイではロシア,ウクライナからのホット・コイル,ポーランドからのビーム鋼,韓国からの構造用鋼など,多くの品種・仕向先について反ダンピング問題が起こっており115,97年秋には輸入関税の引き上げ方針が出されるなど国内企業保護・輸入抑制へ向かう動きがある.こうした動き自体が,鋼材輸入が,すでに絶対的な能力不足の結果でなく,競争の問題であることを示唆している.
マレーシア,フィリピンも,溶鍛接鋼管以外すべて輸入超過という点は,まったく同様である116.ただしマレーシアは,鋼材には含まれない直接還元鉄については輸出超過である.上位の輸入品種についても,タイと類似の傾向がみられるが,鋼塊・半製品が輸入全体に占める割合がフィリピンは61.9%とタイを上回るのに対し,マレーシアは10.4%にとどまっている.鋼材需要の急伸に対して粗鋼・半製品供給能力が立ち後れる関係は,タイ,フィリピンで特に顕著だということができる.
仕向先・供給元別に見ると,輸出先では,シンガポール向けが全体の20.8%と最大である.アジア合計では68.7%とグループT,Uより小さいが,輸出全体の規模が小さいのでさほど意味を持たない.輸入の供給元では,ロシアが最大で31.1%を占め,次いで日本が24.3%,中国が11.1%となっている.アジア合計では45.2%であり,調達先は分散しているが,アジア以外ではロシアの比重が圧倒的に大きい.マレーシアの輸入は,日本からの供給が最大の27.5%を占め,韓国が8.9%でこれに次ぎ,以下,中国,ブラジル,ロシア,台湾と続いている.フィリピンの輸入は,ロシアからの供給が最大で35.5%を占め,ブラジルが12.6%でこれに次ぎ,以下中国,日本の順になっている.
タイの輸入について,製品と供給元をクロスさせると,第一に,ロシアと中国は半製品および汎用品で高いシェアを占めている.鋼塊・半製品の輸入は両国を合計すると67.7%にのぼる.またホット・コイルの最大の供給者もロシアである.第二に,日本が高級鋼材の供給者となっている.冷延鋼板類の59.2%,電磁鋼板の93.8%,その他表面処理鋼板の66.7%,ステンレスの56.7%が日本からの輸入である.この二つの特徴はマレーシアでもほぼ同様であるが,全品種にわたって日本のシェアがより高い一方で,半製品・汎用品の供給元がトルコ,ブラジル,台湾,インドネシアなどに分散している117.
グループVの諸国は,一貫生産システムを確立していないため,安定した鋼材供給をおこなうに至っていない.特に鋼板類・薄板類については圧延工程さえも十分に整えられていないため,急速な需要の増大に対応できず,半製品・ホットコイル・高級薄板類のすべてにわたって輸入に大きく依存する状況が続いている.
同時に,国内生産能力の整備とともに輸入鋼材との競合関係が生じ,鋼材輸入が絶対的な能力不足によるものから,競争の結果によるものへと移りつつあることも重視すべきである.インドネシアと同様に,生産能力規模の拡張と生産プロセス高度化の課題が同時に浮上しているわけであるが,一貫生産システムを持たないだけに,今後どのような技術選択を通じて問題解決を図るかが,決定的な意味を持ってくるだろう.
すでに各国・地域では,一貫生産の確立をめざした計画が続出している118.タイのThai Special Steelが計画中の一貫製鉄所は,年間生産能力が高炉380万トン,転炉230万トン,線材ミル50万トンであり,線材を銑鋼一貫生産しつつ,余剰の銑鉄やビレットを外販する,変則的な生産プロセスをとっている.Siam Strip Millは,この銑鉄を鉄源として薄スラブ連鋳でホット・コイルを生産する計画であり,Nakorn Thai Stripも,合弁の別会社で生産する直接還元鉄を鉄源に,薄スラブ連鋳でホット・コイルの還元鉄一貫生産を実現しようとしている.マレーシアでは,川崎製鉄にフィージビリティ・スタディを依頼していた一貫製鉄所建設計画はさしあたり断念されたものの,インドネシアのGunawanグループによる一貫製鉄所建設計画が進行中であり,これも厚板を一貫生産しつつスラブを外販する方針である.フィリピンではJacintoグループが<Corex−電炉−薄スラブ連鋳機−ホット・ストリップ・ミル>の技術体系を持つ還元鉄一貫製鉄所の建設を開始しており,National Steelも銑鋼一貫化をめざしている.
これらの計画は,年産200万トン程度の中規模一貫生産か,銑鉄・半製品に集中した大量生産と外販をねらっているところに特徴がある.グループTのような,銑鋼一貫による鋼板類・薄板類の大量生産とは異なる方向へ,多数の企業が各社各様に動いているのであり,その成否が今後問われることになるだろう119.
本稿では,東アジア鉄鋼業の企業類型と貿易構造を,国・地域別のグループ化を通じて分析した.そこから得られる知見を,いま一度まとめれば以下のようになるだろう.
第一に,グループT-1の鉄鋼業が,もっとも安定した生産能力を備えていることである.特に,日本の銑鋼一貫企業,次いで韓国のPOSCOは,多品種大量生産システムを基盤として,国内はもとより東アジア全域への鋼材供給をおこなっている.先進国では成熟産業と言われる鉄鋼業であり,実際に日本では設備集約を伴う激しいリストラクチャリングを1980-90年代に経ているが,なお多品種大量生産システムが健在であることが確認されるべきである.ただし,銑鋼一貫企業がホット・コイルを中心とする国際競争に直面する一方,各国・地域内を中心に銑鋼一貫企業と製鋼圧延企業の競争が,その場面を条鋼・形鋼類からホット・コイルへと広げつつ激化している.生産力的基盤が経営としての安定をただちに保証する状態ではないことにも注意しなければならない.
第二に,グループT-2,すなわち中国鉄鋼業が,量的には膨大であるが特異な技術構成を持つ生産能力を抱え,「改革・開放」下で再編成の途上にあるということである.再編成への過渡で銑鉄・半製品の大量輸出という独自の貿易構造が形成されているが,今後,貿易の品種・仕向先・供給元が変化しようとも,不安定な生産力的基礎に依拠しながら大量の需要・供給を発生させるという特徴はしばらく継続し,東アジア鉄鋼業に強いインパクトを与えざるを得ないであろう.
第三に,グループU,V,特にタイ,マレーシア,フィリピン鉄鋼業では,特に薄板類を中心として,未だに生産能力が不足し,また工程間の不均衡がみられるということである.しかし,一方で,条鋼・形鋼類も含めて国産鋼材と輸入鋼材との競合が強まりつつある.この二重の課題に,どのような技術選択を通じて立ち向かうかが問われており,すでに各社各様の思惑による一貫化と設備拡張がはかられている.
第四に,各国・地域の鉄鋼輸出は,アジア域内を中心におこなっており,相互に自らの製品市場とみなしあう関係にある.ただし,ホット・コイルでは日本,韓国,中国が,高級鋼材は日本が主要な供給者となっており,グループTの生産システムの安定性と,その内部での序列を反映した構造となっている.
第五に,各国・地域の鉄鋼輸入は,輸出に比べればアジア域外との結びつきが強い.中でも注目されるのは,ロシア・ウクライナなど旧ソ連地域からの半製品と汎用量産品の輸入が大きな比重を占めていることである.東アジアの鉄鋼需給は,かつて世界最大の粗鋼生産国であった旧ソ連の体制転換に伴う再編成に連なっているのである.なお,いまのところ中国の分析からの類推に過ぎないが,旧ソ連からの供給もまた,不安定な生産力的基礎の上での大量供給である可能性は高いだろう.
第六に,以上のことから,現在の企業類型と貿易構造,そこで示される競合とすみ分けの関係や序列的な関係は固定的なものではあり得ず,むしろ変化へ向けた出発点だということである.
企業類型・国際分業構造は,各国・地域の企業の競争戦略を規定する,唯一ではないが一つの有力な要因である.現時点での企業類型・国際分業構造の制約を受けながらどのような競争戦略が選択され,どのような企業行動が将来に向かってとられるか,それがどのように東アジア鉄鋼業の競争構造をつくりあげるかを明らかにすることが,今後の課題である.
(完)
(1997.11.14受理)
※本稿(T)の表 III-4において,中国の熱間圧延能力を括弧つきで1億4581万トンと表記した.これは,熱延能力の統計を発見できなかったため,全圧延能力の数値を記したものである.筆者のミスで注記が脱落したため,ここに補足しておく.
※本稿作成にあたっては,業界団体の方々,特に,日本鉄鋼輸出組合調査部海外調査課長の佐藤和雄氏と鋼材倶楽部鉄鋼情報サービス室課長の二瓶眞一氏に多大なご協力をいただいた.両氏は,たび重なるヒアリングや問い合わせに丁寧に応じてくださった.また,大阪市立大学商学部の安井國雄教授は,自ら収集した資料を貸与してくださった.心より感謝申し上げる.ただし,本稿の内容に関する責任は筆者にある.
※本稿は,1997年度科学研究費補助金<奨励研究A:課題番号09730037>を受けた「東アジア鉄鋼業の生産システム配置と国際分業・競争の展望に関する研究」の研究成果の一部である.
※本稿は,経済研究所プロジェクト「生産システムの高度化とグローバル・ローカライゼーション」の研究成果の一部である.
61 高炉,転炉,電炉のデータは『中国鋼鉄工業年鑑』1996年版,中華人民共和国冶金工業部,1996年,109-110頁による.なお,全高炉数が3227基と記されているが,内容積の各クラスター別の基数を合計すると3228基になるという統計の不整合がある.
62 同上,95頁より計算.
63 この点について,星野芳郎『技術と政治 −日中技術近代化の対照−』日本評論社,1993年,田島俊雄「中国鉄鋼業の展開と産業組織」(山内一男・菊池道樹編『中国経済の新局面−改革の軌跡と展望』法政大学出版局,1990年)を参照.
64 なお,1996年には粗鋼生産も世界第1位となった.
65 「中国の主要製鉄所別生産設備の概要」鋼材倶楽部鉄鋼情報サービス室,1997年2月.
66 重点企業と地方企業については,『中国鋼鉄工業年鑑』1996年版,118-148頁に企業別の統計が掲載されている.この段落の数値はこの統計による.
67 田島,前掲論文,110頁.近年,企業集団化によって変化しつつある.
68 『中国鋼鉄工業年鑑』1996年版,79,114-148頁より計算.また,1996年9月に発表された李鵬首相のステートメントは,22社が年産100万トン以上の生産能力を持っていると述べている.「中国鉄鋼業の改革・発展に関する李鵬首相のステートメントについて」『日本鉄鋼輸出組合月報』1996年12月号,52頁.
69 首鋼と宝山を比較した松崎義「技術革新」(松崎編『中国の電子・鉄鋼産業』法政大学出版局,1996年)後編第1章,259-261頁を参照.
70 例えば首都鋼鉄公司の場合,李捷生『中国国有大企業の経営と労使関係』東京大学大学院経済学研究科博士(経済学)論文,77-79頁によればその歴史は三つの時期に分けられる.第一期は単独高炉企業の時代(1919〜1949年)であり,北洋軍閥支配時代,日本占領時代,国民政府支配時代を経過している.第二期は半銑鋼一貫製鉄所の時代(1950〜1978年)である.一貫製鉄所ではあるが,製銑能力が製鋼能力より大きく,銑鉄のかなりの部分が他の製鋼企業に供給されていた.この時期は計画経済の下で工場が拡張された.第三期は銑鋼一貫製鉄所の時代(1979年〜現在)であり,経営請負制の下で生産工程のバランスを整えてきた.製鉄所の様々な系譜については星野,前掲書,丸山伸郎『中国の工業化と産業技術進歩』アジア経済研究所,1988年を参照.
71 『中国鋼鉄工業年鑑』1996年版,79頁.
72 同上,95-96,114-148頁より計算.
73 同上,95,114-127頁より計算.
74 中屋信彦「中国鉄鋼業の国有企業改革と効率性」『経済論究』(九州大学大学院)第94号,1996年3月,430頁.
75 「中国の主要製鉄所別生産設備の概要」から判断.
76 『世界金属導報』1997年3月14日付.以下の引用も含めて,同誌の記事は日本鉄鋼輸出組合の抄訳による.
77 『人民中国』1973年7月号の記載を,戸田弘元『現代世界鉄鋼業論』文眞堂,1984年,128頁から引用.
78 日本鉄鋼輸出組合資料に基づく.
79 『中国鋼鉄工業年鑑』1996年版,176頁より計算.
80 『世界主要国鉄鋼ハンドブック 第6版』日本鉄鋼輸出組合,1997年,7頁,夏秋晶一「東アジア地域の鉄鋼市場」(『東南アジアの発展と鉄鋼業 第34回白石記念講座』日本鉄鋼協会,1997年)77頁.
81 『人民日報(海外版)』1997年3月31日付,『物資報』1997年3月28日付,いずれも日本鉄鋼輸出組合の抄訳による.
82 『中国物資貿易信息』1996年7月19日付,日本鉄鋼輸出組合の抄訳による.
83 『冶金報』1997年11月10日付,以下,同誌からの引用は日本鉄鋼輸出組合の訳出による.
84 この段落の叙述は,川原業三「山西の高炉たち」『鉄鋼界』1996年4月号,児玉光弘「中国山西省の小型高炉群」『鉄鋼界』1997年7・8月号,による.
85 過去の高炉基数は,『中国鋼鉄工業年鑑』1989年版,207頁,1994年版,88頁,1995年版,114頁による.
86 児玉,前掲論文,23頁.
87 「鉄の時代」と「鋼の時代」は,ベッセマーによる溶鋼の大量生産法の発明によって区切られる.中沢護人『鋼の時代』岩波新書,1964年,を参照.
88 『世界主要国鉄鋼ハンドブック 第6版』7頁を参照.
89 『世界金属導報』1997年3月14日付.
90 同上.
91 『冶金報』1997年4月8日付.『供給と価格』1997年2月3日付,『国際経貿消息』1996年10月6日付,日本鉄鋼輸出組合訳,丸山「中国の新産業政策と対外開放政策の調整」(北村かよ子編『東アジアの産業構造高度化と日本産業』アジア経済研究所,1997年)59-63頁などを参照.
92 『世界金属導報』1996年11月22日付.
93 『冶金報』1997年4月8日付.
94 第9次五カ年計画と政府方針については,日本鉄鋼連盟「中国第9次五カ年計画(1996-2000年)と鉄鋼業について」1996年4月,「中国鉄鋼業の改革・発展に関する李鵬首相のステートメントについて」を参照した.
95 「アジア各国の現有鉄鋼生産設備一覧」より判断.
96 日本鉄鋼協会生産技術部門電気炉部会『韓国,台湾,ASEAN地区の電炉の現状』1997年3月,62頁.
97 同上,68頁.
98 PT Krakatau Steel
Homepage, http://www.ks.co.id/facilities/facilities.html, 更新日不明,1997年10月28日確認.「アジア各国の現有鉄鋼生産設備一覧」も参照.
99 「インドネシア鉄鋼業の概況と鉄鋼輸出入」『日本鉄鋼輸出組合月報』1996年9月号,8,11頁.電炉には還元鉄だけでなくスクラップも装入している.
100 同上.粗鋼シェアは同上と表 III-3より計算.
101 保護貿易政策の撤廃については,小黒啓一・小浜裕久『インドネシア経済入門』日本評論社,1995年,第3,5章,「主要国の鉄鋼関税率と輸入制限措置および輸出奨励策」第11版,日本鉄鋼輸出組合,8頁を参照.
102 South East Asia
Iron and Steel Institute, Steel Statistical Yearbook 1995, p.31より計算.
103 以下,このスピーチについては,「インドネシア鉄鋼業の概況と鉄鋼輸出入」2-7頁による.
104 長谷川伸「インドネシア・クラカタウスティール製鉄所調査報告」アメリカ資本主義研究会報告レジュメ,1995年8月2日,による.PT Krakatau Steel Homepage, http://www.ks.co.id/ks/history.htmlによれば,真空脱ガス設備は1995年に完成したが,輸入代替が進んだかどうかは不明である.
105 野村俊郎「インドネシアの自動車メーカーと部品・原材料調達」『商経論叢』(鹿児島県立短期大学)第47号,1997年5月,58-61頁.
106 「アジア各国の現有鉄鋼生産設備一覧」より判断.
107 「インドネシア鉄鋼業の概況と鉄鋼輸出入」11頁.
108 この時期の政策について北村「ASEAN諸国における重化学工業化の展望と課題」(北村編,前掲書,所収)を参照.
109 「アジア各国の鉄鋼生産設備新規計画一覧」鋼材倶楽部鉄鋼情報サービス室,1997年5月,日本鉄鋼協会生産技術部門電気炉部会,前掲書,71頁.
110 Malayawata Steelへの技術移転については,米山喜久冶『適正技術の開発と移転』文眞堂,1990年に詳しい.高炉の停止は,日本鉄鋼輸出組合でのヒアリングと,Kuala
Lumpurr Stock Exchange Web Site , http://www.klse.com.my/lc/mwata.htm, updated:
20 September 1997より判断.
111 「アジア各国の現有鉄鋼生産設備一覧」でも確認.なお,グループT,U,Vのいずれにも含まれない有力な鉄鋼生産者として北朝鮮の鉄鋼業があげられる.しかし,資料を発見できなかったため対象外とした.
112 「アジア各国の現有鉄鋼生産設備一覧」,「アジア各国の鉄鋼生産設備新規計画一覧」から判断.
113 同上.
114 同上,およびSEAISI, op. cit.,から判断.
115 Metal Bulletin,
March 6, 1997, 日本鉄鋼輸出組合の訳出による.
116 以下,マレーシア,フィリピン,ベトナムの貿易データは,SEAISI, op. cit., 「マレーシア鉄鋼業の現状と見通し」『日本鉄鋼輸出組合月報』1996年10月号,『世界主要国鉄鋼ハンドブック』による.
117 なお,フィリピンについては,品種と仕向先・供給元をクロスさせた輸入統計を入手できなかった.
118 この段落の事実関係は,「アジア各国の鉄鋼生産設備新規計画一覧」,『鉄鋼新聞』1997年9月24日付,10月20日付,『鉄鋼需給の動き』No.
186,鋼材倶楽部,1997年8月号,56頁,鈴木峻「東南アジア鉄鋼業の将来と日本鉄鋼業の役割について」(『東南アジアの発展と鉄鋼業』所収)98-99頁,を参照.
119 これら東南アジア諸国の鉄鋼設備拡張計画について,鈴木峻は「もし現状のまま放置すると現地企業が無秩序に設備建設をおこない,しかも合理性を欠いた立地,設備内容が具体化してしまう危険をはらんでいる.そこでは極めて歪んだ形の製鉄所が建設されてしまう危険性をはらんでいる」(前掲論文,100頁)と指摘している.本稿(T)提出後に現れたタイムリーな指摘なので紹介しておく.