張艶・川端望「大連市におけるソフトウェア・情報サービス産業の形成」『アジア経営研究』第18号、20128

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更新:20181130

 本稿は大連市におけるソフトウェア・情報サービス産業の形成史を論じたものです。

・産業形成の事実関係のうち重要なものをピックアップして紹介しました。3大企業の創設・誘致とDLSPの形成、ハイテクパークとDLSPの関係、日本語人材とIT人材の確保などが重要なところです。元の情報は、2010-2011年の現地調査によっていますが、単一のインタビュー情報では信憑性に不安が残るところや、先方からの匿名希望により記載できない部分もあり、苦心しました。幸い、高麗華『超越中国制造』、何徳倫『大連は燃えている』などの優れたルポルタージュで裏付けをとれる場合があり、これらから多数引用させていただきました。もちろん、すべての箇所に文献注を付けています。

・産業形成の理論的な側面を、市場競争の作用と、地方政府の産業政策、企業者行動、外資企業の行動がタイミングよくかみあったものとしてとらえました。いずれを欠いても説明できないと判断したからです。

・企業者の系譜として、アナリー・サクセニアンの頭脳循環論が適用できることを認めつつ、在中国の企業への技術移転、政府からのスピン・オフという要因も付け加えました。

 本稿のトーンはサクセス・ストーリーですが、実際には、大連市の産業集積が形成されてめでたし、めでたしというところで物語は終わりません。リーマン・ショック後の日本からの発注単価切り下げ、日本の情報サービス市場規模の停滞と中国市場の拡大、受注ソフトウェアを用いた自前のシステム保有からクラウド・コンピューティングへの流れ、BPOの拡大、スマホアプリ開発など新たな市場の登場、内陸部での産業集積の形成など、大連市の産業集積に構造転換と高度化を迫る出来事が次々と押し寄せているからです。これらについて論じるのが次の課題です。また地場大企業、日系企業、地場中小企業の、それぞれ特徴ある事業と経営について、企業論的に論じる機会も持ちたいと思います。

 なお、『アジア経営研究』の紙数の限界から記すことができませんでしたが、この論文を公表することができたのは、多くの方のご協力によるものです。匿名を条件とされた場合もあるので社名を記すことができませんが、多くのソフトウェア・情報サービス企業の方に取材に応じいただきました。また、ソフトウェアパーク運営企業の皆様、業界団体の皆様、研究機関の皆様、政府機関の皆様からも貴重なお話をうかがい、情報とアドバイスをいただきました。心よりお礼を申し上げます。

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