update:1998年4月28日
川端望
『経済大国』を読むにあたって、参考になる論点やテキスト、一部は宿題を提示する。宿題の部分は必ず質問するので、レポーターが必ず調べておくこと。宿題のほかに疑問点・討論点を出すこと。ただし、宿題をより深めて、自分の意見を述べてもよい。
文献・資料の入手方法については、1)購入する、2)学部図書室で借りる、3)図書館で借りる、4)他機関からとりよせる、5)川端に相談する、などの手段をつくすこと。これも勉強のうちである。
1.経済大国の光と影、経済の高度成長(12〜70頁)
遅れた日本→先進国日本、大国日本、という評価の移り変わり。自己評価と外国からの評価。これをどう受け止めるかという問題は、今後も出てくるので注意。
「司馬史観」は、最近、藤岡信勝氏らが「自由主義史観」との関わりで持ち出してきている。どのようなものなのか、どのように使われているのか、その魅力と問題点などについて、興味があれば、調べてみるとよい。
重化学工業、軽工業、とはどのような概念か(宿題)。
「農地改革や家族制度の改革」が、なぜ「労働力の移動を自由に」するのか。また、それがなぜ「工業化や都市化を加速」するのか(宿題)。
労働基本権とは何か(宿題)。
信用創造、オーバーローンとは何か(宿題)。
所得倍増計画のような、高度成長への強気の展望は、何を根拠に出されたのだろうか。下村治氏の著作・論文などを読むとわかるかもしれない。
二重構造とは、何を指して言われた言葉か。『経済白書』ではどう言われたか(宿題)。
2.都市化と大量消費社会(78〜117頁)
高度成長期のニュータウンの生活はどのようなものであり、どんな問題があったか。それ以前や現在とどのように異なるか。宮本氏が監修した『堺市政白書』などが参考になる(※)。
家電メーカーによる小売店の系列化とはどのようなものか。松下の急成長にどのように貢献したか。今日ではどうなっているか。孫一善(伊丹敬之・加護野忠男・宮本又郎・米倉誠一郎編), 高度成長期における流通系列化:松下電器産業の販社とナショナルショップ(『日本的経営の生成と発展:ケースブック日本企業の経営行動1), 有斐閣, 1998/03、などから調べよ(※)。
スーパー、コンビニ、ディスカウントストアなどは、それぞれどういう特徴を持っているのか。今日の競争状況は高度成長期とどう異なっているのか(※)。
ガルブレイスの言う依存効果とは何か(宿題)。
社会的費用と何か(宿題)。さらに進んで、自動車の社会的費用とは何のことか、宇沢弘文, 自動車の社会的費用, 岩波書店, 1974/06、などを参考に調べるとよい(※)。
※のついた論点のうち、最低一つを調べてくることを宿題とする。
3.「企業国家」と地域開発(118〜161頁)
宮本氏は日本の財政を「企業国家」と特徴づけているが、他の国についてはどう考えているのか。その根拠は何か。他の著作、特に宮本憲一, 現代資本主義と国家,岩波書店,1981で調べよ(宿題)。
宮本氏は70年代の税制について「負担の公平のための累進課税制度がまったく機能していない」と述べている。しかし、最近の税制改革論議では、政府・企業はむしろ累進性がきつすぎるので緩和することを主張している。レポーターはどのように考えるか。
TVAの「草の根民主主義」に対する評価には、学界で疑問も出されている。旧工業経済学ゼミの先輩の著作である、小林健一, TVA実験的地域政策の軌跡:ニューディール期から現代まで, 御茶の水書房,1994/07、小林健一(金田重喜編著), TVA原子力事業の危機とリストラ(『苦悩するアメリカの産業:その栄光と没落・リストラ,創風社,1993を参照。
コンビナートを中心とする拠点開発方式が何をもたらしたか、以下の文献のいずれかにあたって紹介し、意見を述べよ(宿題)。
, コンビナート総点検, 『公害研究』1980年冬号、岩波書店, 1980
宮本憲一, 大都市とコンビナート・大阪(講座地域開発と自治体1), 筑摩書房, 1977/11
堺まちづくり研究会, 「堺まちづくり白書」もっとええまち堺へ:地域自立のネットワークをめざして, 堺まちづくり研究会, 1997(この文献は図書館にないので川端から借りること)
4.「公害先進国」日本(162〜196頁)
急速な「重化学工業化」は必ず公害をもたらすのだろうか。日本の技術発展の具体的なあり方と関係あるのではないか。中村静治, 日本の産業構造と公害, 『経済』1974年4月号、新日本出版社, 1974/04、を参照。
著者は、1967年制定の公害対策基本法が経済の発展と環境保全の調和をはかることを目的としていたことを批判的に叙述している。著者はなぜ調和論に批判的なのか、宮本憲一, 環境経済学,岩波書店,1989/06、などで調べよ(宿題)。
「疫学による判断」とは何か(宿題)。
5.過密の都市と過疎の農村(197〜223頁)
204-207頁に引用されている, くたばれ、2DK, 『朝日ジャーナル』,1966/06、, オート三輪の反戦歌, 『朝日ジャーナル』,1966/07、を入手し、現在との異同を念頭に置いて感想・意見を述べよ(宿題)。
「外部不経済」とは何か(宿題)。
三八豪雪の当時の新聞・雑誌の記事などをいくつか入手し、テキストとは独自に当時の状況と問題点を紹介せよ。
6.異議申し立ての時代(224〜257頁)
東大闘争の経過とそこで提起された問題についてNHK取材班, NHKスペシャル戦後50年その時日本は第3巻,日本放送出版協会, 1995/11、を参照の上(ビデオ版あり)、意見を述べよ(宿題)。
同様の問題だが、「大学の大衆化という現実に、大学の機構や教育が対応できなくなっていた矛盾」とはどのようなことを指すか。現在も同じように言われているが、レポーターはどのように考えるか。
7.新しい政治の流れ(258〜299頁)
佐藤内閣が長期安定した理由として、1)高度成長による経済の安定、2)行政の拡大、3)野党や国民運動側の不統一、があげられている。また、この時期の社会党の退潮について、労働運動の「右傾化」と、住民運動のような新しい社会運動に対応できなかったことがあげられている。具体的に、労働運動はこの時期、どのように変化したのか。渡辺治, 「豊かな社会」日本の構造, 労働旬報社, 1990/04、などを参考に論じよ。
旧中間層、新中間層とは何か。
革新自治体の成果、問題点はどのようなものだったか。
環境問題をめぐる南北対立は、1992年の「環境と開発に関する国連会議」(ブラジル会議)や、97年の「地球温暖化防止京都会議」(COP3)でも繰り返された。その論点はどのようなものか。
8.「戦後は終わった」(300〜353頁)
沖縄に米軍基地が集中していることが、どのような法的・経済的問題を引き起こしているか、関連する文献や最近の雑誌・新聞上で出されている意見等から調べよ。
韓国の経済成長は、どのような産業と市場によって支えられたのか。軍事独裁政権の存在は、経済成長とどのような関係にあったのか。
9.混迷のなかへ(354〜394頁)
戦後資本主義の経済体制とはどのようなものであったか。なぜ再編成を余儀なくされたのか。
立花隆, 田中角栄研究:その金脈と人脈, 『文藝春秋』1974年11月号, 1974/11、で告発されたような政治資金をめぐる構造は、現在に至るまでどのように変化しているか、あるいは維持されているか。
10.戦後世界体制の再編成(395〜446頁)
スタグフレーションを発生させたメカニズムはどのようなものであったか(※)。
1970年代末以降、ケインズ主義の財政政策が批判されるようになったのはなぜなのか。例えば伊東光晴, 現代経済の理論:伊東光晴/経済学を問う1, 岩波書店, 1998/02、第W部を参照(※)。
第一次石油危機以降の日本の製造業の国際競争力は、どのような要因に基づいていたのか。サブテキストや鈴木良始, 日本的生産システムと企業社会, 北海道大学図書刊行会, 1994/03、などが参考になる(※)。
今日に至るまで継続している財政危機の現状と問題点は、例えば今年度予算にはどのようにあらわれているか。
国鉄分割・民営化の功罪について、どのように考えればよいだろうか。
※のいずれかを調べてくることを宿題とする。
11.いずこへいくか――世紀末の未来像(447〜489頁)
最新の「(五)全総」では、東京一極集中問題をどのようにとらえ、どのような対策を打ち出しているのだろうか。
消費税の仕組みと問題点はどのようなものだろうか(宿題)。