更新:/2002/05/25
<質問詳細>
インフレーションについて質問です。ハイパーインフレーションがなぜ起こるのかわかりません。というのは、僕は以下のように考えるからです。
政府や中央銀行による紙幣・硬貨の回収・増刷等はないものとします。
当然のことながらお金には限りがあります。そのため、消費者には買える物と買えない物があります。ここでインフレが起きたとします。たとえば、100円だったパンが150円になったとします。この程度なら、どうにか買うことはできるでしょう。しかし、ハイパーインフレーションなどで5000円、10000円に価格が上がったら、とても遣り繰りはしていけないでしょう。なぜなら、お金には限りがあるため、物価上昇に相応する所得の上昇は望めないからです。このことが一部の人たちにしか該当しないならまだしも、国中に広まったら、たちまち生活難の人たちで溢れかえるでしょう。そうすると、「必要だけど買えない」という理由で需要は減り、イン
フレで上昇していた物価は下がるのではないでしょうか。
政府がいたずらに貨幣を発行し、市場に出回るお金の全体量を増やさない限り、ハイパーインフレーションは起きないように思います。しかし、第一次世界大戦後のドイツなどで、驚くほどの物価上昇が起きています。
どうしてハイパーインフレーションは起きるのですか。解説をお願いします。
<回答>
まずインフレーションの定義を『有斐閣経済辞典』第3版にしたがって、「経済を構成する特定部門の特定の財・サービスの価格上昇にとどまらず、一般的な物価水準の継続的な上昇をいう」とします。
次にインフレーションが起こる理由を考えます。学派によって理解が異なるので、ここでは細かい説明が必要になる部分をすべてとばして説明します。ある経済社会で一定量の商品が流通し、それが一定量の不換紙幣で流通させられていると考えてください。不換紙幣とは金や銀に交換される保証のない紙幣です。
ここに外部から不換紙幣をさらに投入されたとします。不換紙幣は金・銀と異なり商品流通にしか使えませんから、以前と同一量の商品が名目的により大きな金額を持つ紙幣によって流通させられることになります。よって、物価は全般的に騰貴します。これがインフレーションのメカニズムを簡略化したものです。
市場経済のもとでのインフレーションは、政府が国債を中央銀行に引き受けさせるなどして、商品の増加を大きく越える不換紙幣が増発されたときに生じます。しかしテキストに出てくる移行経済の場合は、事情がかなり異なります。
旧計画経済諸国では、消費財の物価が人為的に低く抑えられていました。また、前回(5/20)の授業で説明したように、慢性的な品物不足を生み出す傾向が経済システムに内在していました。このため、物不足が生じながら物価上昇によって調整されず、多くの購入希望者がカネはあってもものを買えない(購入延期)という形で調整されていました。消費者は事実上、貯蓄を強制され、貯蓄はあってもものは買えないという状態におかれました。テキスト100ページで、このことが「抑圧されたインフレーション」として説明されています。
この状態で価格統制を解除すると、強制貯蓄されていた大量の紙幣が購買力となって不足がちな商品に買い向かいます。かくてハイパーインフレーションになるわけです。つまり、価格統制後に政府が紙幣を大量発行しなくても、それ以前から蓄積され、流通に入らずに凍結されていた紙幣があったため、それが流通に入ることによってインフレーションを引き起こしたのです。これが第1の局面です。
さらに、第2の局面が生じます。市場経済化とハイパーインフレによる経済の混乱に対して、政府が賃金や年金の引き上げ、国家介入による企業救済などに打って出ると、財政赤字が発生します。国債による大量の財政資金調達が紙幣の増発を引き起こし(そのメカニズムについては色々な説があるのですが)、それがまたインフレーションを悪化させます。こうした介入を行わなければもちろんインフレは生じないのですが、経済の混乱に対して手を打つべしという国民各層や利益集団からの要求に対して、政府は抵抗しにくいものです。まして移行経済の政権は、国民多数の指示を得て旧社会主義政権を打倒したのですからなおさらです。
結局いつかは財政の引き締めによるインフレの収束をはからねばならず、また各国とも実際にそうしたわけですが、そこに至るには紆余曲折の道があるわけです。この紆余曲折については後の章でとりあつかいます。
なお、貨幣の外的な増減がないという前提ならば、あなたのいうとおり、一時的に個々の部門で価格が上下しても、やがて元に戻らざるを得ないでしょう。
余談ですが、経済改革を望む国民の圧倒的支持を受けて成立した政権が、国民の不評を買う経済安定化策をとれなくて困るというのはどこでも同じようなところがあります。下記の「(笑)いしい商店本店」でCNNのNo.12のマンガをご覧ください。
http://www.asahi-net.or.jp/~eb9y-tmok/