経済学入門A:期末試験問題と解答

---

2002722日掲載(723日更新)

 7月23日記:答案を読んだ結果に基づき、正解の範囲を拡張する方向に修正した。

 

 以下の設問に解答せよ。解答に際しては、答案用紙に問題番号を記し、設問と解答の関係が明確になるように書くこと。

 

※100点満点で素点を計算するが、成績評価に占める試験の比重は75%である。試験の素点に0.75をかけたものとレポートの点数を加えたものが最終成績となる。

 

 

T.選択肢の中から正しいものを選んでアルファベットで解答せよ(各2点)。

 

1.首相とアドバイザーは、コンテスタブル市場理論[コンテスタビリティ理論]がアメリカの航空輸送業に適用できると考えているか。

A.2人とも適用できると考えている。

B.首相は適用できると考え、アドバイザーは適用できないと考えている。

C.アドバイザーは適用できると考え、首相は適用できないと考えている。

D.2人とも適用できないと考えている。

 

2.アメリカと日本の航空輸送業の教訓は何であると教官は授業で話したか。

A.規制緩和による新規参入は競争を促進するが、有効競争が可能な条件を確保するためには、政府が何らかの介入をせざるを得ない。

B.規制緩和は結局は独占に帰結するので、競争促進効果がない。

C.規制緩和は不徹底であるとかえって市場を歪めるので、政府介入を徹底的に排除し、自由放任に徹しなければならない。

D.規制緩和は制度の色々な側面についてまとめて短期間におこなわなければならず、小出しに実施すると既得権益を守ろうとする勢力の抵抗にあって進まなくなる。

 

U. 次の文章は、いずれも授業の内容の一部である。空欄を埋めよ(空欄一つにつき2点)。

 

1.社会主義体制の崩壊は「一社会の資源がどのようなしくみを通して配分されるか」という経済学の基本問題にかかわるものであった。すなわち、これらの諸国では体制移行によって、(@計画[「計画経済」、「集権的計画」、「官僚的調整」、「国家」、「政府」も可])を通した配分から(A市場[「市場経済」、「市場メカニズム」、「市場的調整」も可。「資本家」、「企業」は不可])を通した配分へと転換したのである。

 

2.講義では、経済活動のコーディネーションには四つの類型があるという学説を紹介した。市場的調整、(@官僚的調整)、(A倫理的調整)、(B攻撃的調整)である。市場経済においては主として市場的調整が行なわれるが、他の調整様式も存在する。特に重要なことは、市場経済においても企業内では仕事は計画的にすすめられ、労働者は経営者の職務にかんする指示・命令に従わねばならないという意味で(C官僚的調整)がおこなわれているということである。

 

3.旧計画経済においては、ソフトな予算制約のために企業の需要が過大となる傾向があった。超過需要は価格メカニズムによって調整されずに、不足が生じていた。不足の帰結として消費者の厚生が減退し、それ以外にも以下のような帰結が生じていた。

(1)原料不足による設備遊休などの生産の非効率が生じる。

(2)(@買い手)に対して(A売り手)が、割り当て要求者に対して配分機関が優位となる社会関係が生じる。(@「消費者」A「生産者」、@「需要者」A「供給者」の組み合わせも可。

(3)イノベーションが停滞する。優位な(B売り手[「生産者」も可。「企業」は不可])にはインセンティブが欠如しているからである。

 

4.株式会社の発達とともに経営者に対する株主のコントロールが弱まる理由はいくつかあるが、講義では3点取り上げた。

(1)迅速な意思決定をしたり、留保利益をすべて株主に配当せずに再投資するなど、企業活動の効率をあげるためには、株主の頻繁な関与や持ち株に応じた厳密な権利配分が妨げになることである。

(2)(@株式所有が分散し、株式の圧倒的多数を握る大株主がいなくなることである。[[「株式の分散」は1点]

(3)経営者の職務が専門化・複雑化し、株主が経営判断に介入することが困難になっていくことである。

 

5.ウォルター・アダムス、ジェームス・ブロックらによる産業研究の手法は、市場構造・市場行動・市場成果の三つの局面を分析するもので、(@S-C-Pパラダイム[「産業組織論」は1点])と呼ばれている。

 

6.市場経済において、人々に(@インセンティブ[「動機」「誘因」も可])を与える基本的なしくみは私的所有権である。私的所有権が、自分のコントロール下にある財産を効率的に使おうとする(Aインセンティブ[「動機」「誘因」も可])を個人に与える。

 

7.マルクス経済学は、生産手段が私的に所有されている資本主義社会を、資本が支配する搾取と疎外のシステムととらえる。特に労働価値説をベースとして、搾取と(@剰余価値[「利潤」「階級対立」は1点。「疎外」は不可])の生成を、市場の等価交換ルールと両立する形で説明しているところに特徴がある。

 

8.企業の所有、意思決定と監督の権限・責任が、どのような目的を持つどのような個人・集団によって担われているか、という問題を(@コーポレート・ガバナンス[「企業統治」も可])問題という。

 

9.企業合併・買収[M&A]に用いられる資金調達手段の一つで、買収企業がM&Aに必要な資金を被買収企業の資産やその将来の事業キャッシュ・フローを担保として調達するものを(@レバレッジド・バイアウト[「LBO」も可])という。この手段を用いることで、巨額の買収資金調達が容易になる。

 

10.株式会社は教科書的な市場経済の建前どおり(@株主)の利益に従うべきなのか、企業自体の長期的成長を重視して(A経営者支配[経営者革命]も可)を容認すべきなのか、様々な(Bステークホルダー[「利害関係者」も可])の利害にも配慮すべきなのか、またそれぞれはどこまで現実に可能なのか。唯一の回答はない状態である。市場経済の下でも、企業という存在は私的所有のみによってはコントロールできないのではないかという問題が、経済学に投げかけられている。

 

11.完全競争が実現していれば、労働市場を含むすべての市場で需給が均衡する。労働市場では市場賃金ですべての労働者が雇用される。しかし、現実には市場は不完全であり、(@有効需要[[需要]は1点])が不足した際に価格による調整がさよう(作用[変換ミスにて、試験場で訂正])せず、労働市場では現在の賃金で働きたくとも職のない失業者が生まれる。このような失業を(A非自発的失業)という。

 

12.計画経済においては消費財の価格が政府によって低く抑えられているが、物不足が常態化するので消費者は消費財を十分に購入できない。このため、消費者は購入を延期し、たんす預金を行なう。市場経済移行のために価格を自由化すると、これらの購買力が顕在化し、(@ハイパーインフレーション[「インフレーション」「超過需要」は1点])が生じる。

 

13.「経済活動を支える制度は、取引を実際に行なう主体がその制度に慣れ、実態に即して修正し、細部を仕上げ、習慣や文化で補うことによって機能するものである」という命題は、(@漸進主義的[「漸進的」「漸進」も可])移行を主張する根拠である。「市場経済の様々な要素は互いに補完的であるため、一つ一つをばらばらに導入しても経済効率をあげることはできない」という命題は、(A急進主義的[「急進的」「急進」「ビッグバン」も可])移行を主張する根拠である。

 

14.講義では市場経済における政府の役割を以下の三つの側面からとりあげた。

(1)(@私的所有権をはじめとする市場経済のルールの設定と審判)。

(2)マクロ経済政策の実施

(3)(A「市場の失敗」に対する補正

 

15.講義ではマクロ経済政策の目的を以下の3点について指摘した。

(1)貨幣・信用システムの安定

(2)(@完全雇用の維持[「失業の防止」は1点]

(3)(A経済成長の促進[「景気対策」は1点]

 

16.環境汚染の解決策は様々に考えられるが、市場取引を応用した解決法の理論的根拠として「コースの定理」がある。これは、「資産や権利の所有権が明確に割り当てられており、かつ当事者間の自由な交渉が(@取引費用[「費用」は1点])を伴わずに可能であるならば、どの所有権が誰に割り当てられていようとも同一の(A効率性[「配分」、「結果」は1点。「分配」は不可])が達成される」という定理である。

 

17.環境汚染が市場取引では解決できない理由として、講義では5点あげた。

(1)(@分配)問題が深刻な場合。

(2)(A道徳的・倫理的基準[「法的基準」「法律]も可。「政府」は不可])によって所有権割り当てが制限される場合。

(3)対象に対する所有権が明確にできない場合。

(4)情報が不確実な場合。

(5)(B取引費用)が高い場合。

 

 

V. 以下の問題に解答せよ。

1.首相の「あなたは、自由市場はひとりでに発達する、つまりは重苦しい歴史や文化や政治やナショナリズムや伝統的制度の重苦しい遺産をひとりでに克服すると言っているのですか」という質問に対して、アドバイザーは「結局は、そういうことですね」と、自由化によって市場が自然発生することを強調する。この見解に対して講義では、市場経済が成立するには三つの要件が必要であり、それが満たされないところでは、旧システムを破壊し自由放任政策をとっても健全な市場経済は生まれないことを論じた。この三つの要件とは何か(3点)。

(@社会的分業の発達

(A流通インフラの整備)

(B市場交換のルール)

 

2.「合成の誤謬」とは何か。簡潔に説明せよ(4点)。

個人について成立することが、社会全体にも妥当するとは限らないこと。

 

 

3.「公共財」が持つ二つの性格とは何か。簡潔に説明せよ(4点)。

(一つは対価を支払わない人の消費を排除できないという非排除性である。もう一つは、ある人の消費により他の人の消費を減少できないという非競合性である[1項目2点。説明なく、「非排除性」「非競合性」のタームだけ書いた場合は各1点]。)

 

4.「見えざる手」の作用と「逆の見えざる手」の作用について説明せよ(5点)。

私的な経済的事柄においては、それぞれの自己利益を追求する人々は、公共の利益を促進する見えざる手に導かれるかのように行動する。しかし、政治の領域においては、公共の利益という概念を追及する諸個人は、彼らがそうしようとした意思とは無縁の、望ましくない結果を生み出す見えざる手によって導かれる。

 

5.テキストの著者たちの問題意識は、私的な意思決定が公共の利益を促進することを保証しながら、同時に個人の自由を与える統治機構を構築することである。
@首相とアドバイザーは、この課題を解決するために必要な条件は何だと考えているか。両者の意見は一致しているか。簡潔に説明せよ(4点)。

分権的市場経済を実現することと、国家権力である企業権力であれ、権力の集中・強大化が生じないようにコントロールすることである。この点ではアドバイザーと主張の考えは一致している。

Aその条件を満たすために政府がとるべき態度について、首相とアドバイザーはそれぞれどのような見解をとっているか。両者の意見は一致しているか。簡潔に説明せよ(4点)。

この必要条件を満たすために政府がとるべき政策については、アドバイザーと首相は激しく対立している。アドバイザーは政府が自由放任政策を取るべきだと主張しており、首相は分権的市場経済を確保するためにこそ政府の規制や介入が必要だと主張している。

(※@、Aを逆に書いた場合などを含めて、両方あわせて総合的に判断して採点する)

 

 

6.「経済学入門Aの開講にあたって」のレジュメ、講義レジュメ(1)〜(7)、ウェブ上のQ&Aに掲げられた参考文献のうち3点について、著者名・書名・出版社名をあげよ。ただし『有斐閣経済辞典』は対象外とする。出版社名がわからない場合は、著者名・書名だけでもあげよ(6点)。

[著者名・書名・出版社名があっていれば1冊につき2点。著者名・書名があっていれば1冊につき1点。]

---

2002年度授業・ゼミナール資料へ

---

Ka-Bataホームページへ

---