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■日本語版への序文に即して
◇社会主義体制の崩壊
現存した社会主義の特徴
◇社会主義体制崩壊の経済学的意味−−当初の回答
「一社会の諸資源はどのように、誰によって、どのような目的で、どのような帰結をもって配分されるかという、経済学の原理的な質問への回答をひっくりかえすもの」の意味
◇体制移行の10年
移行の帰結が各国で異なる(図表1−1)。
なぜ帰結は異なったか
◇経済構造転換(リストラクチャリング)の一環としての体制移行
イギリスのサッチャリズム
中国の市場経済化
EU統合の進展
アメリカのレーガノミックス
IMF管理下韓国の経済改革
日本の成長と「失われた10年」
旧社会主義諸国の体制移行
◇教訓1:いかなる国の経済も経済的リストラクチャリングの危機を免れない
共産主義的指令経済の窒息
1970-80年代のアメリカ産業の国際競争力低下
「イギリス病」
日本の「構造改革」
◇教訓2:いかなる経済システムも完全ではない(1)
デレギュレーション(規制緩和)とレッセ・フェール(自由放任)政策による問題
規制緩和による貯蓄貸付組合破綻問題
問題はどういう混合経済かである
純粋なレッセ・フェールはありえない
純粋な計画経済はありえない
◇教訓3:経済的リストラクチャリングへの取り組みは、経済学の問題であると同じくらいに、政治学の問題でもある。
経済のリストラクチャリング
利益を受ける者と損失を被る者の闘争
◇体制移行の観察から発見できること
市場経済に対する理解が問い直される
「市場経済とはこういうもの」として移行政策に適用しようとすると、問題が現れる。
→対象に問題があるのか(既得権益の抵抗など)?
→適用する側(IMF、世界銀行、先進国の援助政策)の市場経済理解に問題があるのか?
■アダムスとブロックの序論から――社会科学の方法(1)
「私たちはこの本を、全体主義的指令・統制システムから自由な市場民主主義へと転換することの経済的諸問題と政治的複雑性を強調するために書いたのであって、移行の理想的青写真を提示するために書いたのではない。私たちの目的は思索を促すことであり、判決をくだすことではない。それは読者の特権なのである。」
複雑なものを複雑と受け取りながら、手探りで理解し、反省しながら主張していくこと。
回答以前に、問題の所在に気づくことが重要であること。
答えは一つとは限らないこと。
■ハイルブローナーの序言から――社会科学の方法(2)
「歴史が経済学者に強いるような、困難に満ち、リスクを伴ない、決して十分には予見できないような賭けとして提示されずに、単に選択理論における練習問題として安易に提示されうる諸決定の意味を経験させることは、言葉の最良の意味で教育的なのである。」
理論経済学の判断基準は、行為の合理性と制度の効率性である。しかし、
・「意味」や「経験」を切り捨ててものごとを「理解」し、「正しい」政策を判断してよいか。
・経済現象は本質的に不確実であり、予見には限界があるのではないか。
■政治経済学の性格
政治と経済の密接な関連(『広辞苑』第5版より)
純粋経済学:経済外的(例えば、政治的)現象には立ち入らず、経済現象だけを純粋に研究しようとする傾向の学問。近代経済学の一翼をなし、内容的には数理経済学とほぼ一致する。
政治経済学:(political economy) 経済現象を、政治現象や社会構造との関連に重点を置いて解明しようとする経済学。
構造(ストラクチュア)とリストラクチャリング
完全な市場や計画なら「構造」の違いはない
(テキスト第1日へ)
■経済学の普遍性
・空間的普遍性をめぐって
・経済学帝国主義をめぐって
市場経済と人間の合理性
■合理的な市場経済が、どこでもひとりでに発達するのか(28-29頁)
市場経済が成立するための3つの要件(石川[1990]、大野[1996])
(1)社会的分業の発達
(2)流通インフラの整備
(3)市場交換のルール
準備なしに自由かと対外開放を進めたケース――モンゴル(大野[2000])
共産党時代のコルホーズによる遊牧民・家畜の組織
民営化
遊牧民の増加
教訓:旧システムがたとえ非効率であったとしても、その急激な破壊と自由放任によっては健全な市場経済が生まれない
■計画経済と市場経済
◇市場競争によらないコーディネーション→市場化
市場競争によらない、したがって価格をシグナルとする調整によらずに、生産品目・数量と、そのための経済的資源の配分を決定する。
それがなぜうまくいかなかった。なぜなのか。
市場によるコーディネーションはどのような条件のもとで機能するのか。2(第2日)で詳しく扱う。
分権的なはずの市場経済における経済権力の作用は3(第3日)で詳しく扱う。
◇生産手段の私的所有によるインセンティブの不在→私有化
私的所有の不在:経済活動のインセンティブの基礎として私有化が位置づけられている。これに対して、従来の社会主義理論では私有が資本主義の様々な弊害を作り出すと考えられてきたし、現在でも私有と利潤動機の弊害は様々な局面で主張されている。4(第4日)で詳しく取り扱う。
◇財政赤字とハイパーインフレ→安定化
移行過程で生じる財政赤字とハイパーインフレ。市場経済を安定させるためには、政府がマクロ的財政金融政策をおこなわねばならない。5(第5日)で取り扱う。
◇市場経済における政府の役割――第5日、第6日で詳しく扱う
市場システムの法的基礎の設定とレフェリーの引き受け
金融政策と財政政策
目的:完全雇用の維持、経済成長の促進、物価の安定
金融政策
前提として名目貨幣の発行。中央銀行券の発券集中。
通貨供給のコントロールによるマクロ経済のパフォーマンス改善策。
財政政策:
政府支出と租税によってマクロ経済のパフォーマンスを改善する政策。
市場の失敗の補正
◆文献
石川滋『開発経済学の基本問題』岩波書店、1990年。
大野健一『市場移行戦略』有斐閣、1996年。
大野健一『途上国のグローバリゼーション』東洋経済新報社、2000年。