1999年7月12日現在
川端 望
Tel&Fax 022-217-6279
Mailto:kawabata@econ.tohoku.ac.jp
HP http://www.econ.tohoku.ac.jp/~kawabata/index.htm
■自動車の製造工程(図W-1)
■二つの背景
製造のアメリカン・システム
専用工作機械の使用
互換性生産
精密ゲージ
大量需要(鈴木論文143頁表1)
T型フォードの製品特性(強度、軽量性、パワー、低価格)(図W-2)
■生産のライン化と専用機械
量産化の見地から見た作業職場の類型(図W‐3、4、5、6)
万能職場
機種別職場
品種別職場
流れ作業職場
部品加工部門の品種別加工ライン化と機械の専用機械化(図W-7)
組立部門の流れ作業ライン化
ハイランド・パークの静止式組立台(図W-8、9)
品種別・流れ作業ライン化(図W-10、11)
■労務管理問題と労使妥協
標準化された労働(テイラーなきテイラー化)。強度の高さ。
高い労働移動率と日給5ドル制
■フォーディズムと大量生産・大量消費システム
「高賃金・低労働コスト・高生産性・低価格」による大量生産・大量消費の経営思想(フォーディズム)の成立
労働過程における苦痛や疎外を生産性上昇の成果配分によって購う関係
■「柔軟な大量生産」への修正の核心=単一製品主義の放棄
A型車への転換とそれに伴う混乱
フォード・システムの柔軟化
製品モデルと構成部品の設計変更の分離
価格帯が異なるモデル間で部品を共用
半専用機?
■労使関係の変革
産業別労働組合運動の台頭と労使関係システムの「制度化された妥協」
巨大企業と産業別労働組合による団体交渉を中心とした賃金・労働条件の集権的決定
持続的賃金上昇と付加給付の拡大
生産諸条件に関わる経営権の認知
職務(job)と先任権(seniority)を中心とした職場コントロール
ニューディール期・戦時体制・戦後直後の紛争・妥協を通じて定着
■自動化の推進
工程機械化の二つの動機
コスト計算
労働過程の統制
労働問題対策としての自動化
熟練工,作業者の技能への依存を低める
デトロイト・オートメーション(図W-12、13)
■労働編成と職場コントロール
労働運動によるテイラー・システムの容認
職務と先任権によるコントロール
職務分類・職務記述書・職務給
先任権システム
現場管理者(職長)の恣意排除
■経済成長における「好循環」の構造と大量生産システム
<小報告>
■機械化志向の昂進による硬直化傾向
専用工場化とオートメーション
生産量確保の優先と品質・労働者関与の軽視
製品設計の硬直化。過度にマーケティング依存の販売
■職場規律の弛緩と生産システムの悪循環現象
職場秩序の崩壊と品質問題
アブセンティズム、山猫スト
品質問題と業績悪化
機械化と管理強化による悪循環
ローズタウン戦略の失敗
■大量生産システムの行き詰まりはどこにあったか
開発・生産システムの硬直化
市場の求める品種・仕様と品質に適合しない
多品種・多仕様生産の困難
変量生産の困難
テイラー・システムの危機
単調な労働による疎外とそれへの反抗
賃金・付加給付の上昇
「好循環」の崩壊
労働コスト上昇>生産性向上
需要と市場シェアの停滞
◇参考(1-3を通して)
鈴木良始_アメリカ自動車産業と大量生産システムの硬直化過程、1908-1972_『経済学研究』(北海道大学)第48巻第3号_1999/01(第2部テキスト。特にW章はこの論文に基づく)
鈴木良始(坂本清・貫隆夫・宗像正幸編著)_アメリカ大量生産システムの成熟と変容(『現代生産システム論:再構築への新展開』)_ミネルヴァ書房_1998(テキストと同趣旨。1990年代まで対象としているが、叙述はテキストより簡略化されている)
テキストで引用されている文献がそのまま参考文献となる。特に以下を参照。
Hounshell/ David
A._From the American System to Mass Production/ 1800-1932: The Development of
Manufacturing Technology in the United States_Baltimore and London: The Johns
Hopkins University Press_1984(以下は翻訳)
ハウンシェル,デーヴィッド・A(和田一夫・金井光太朗・藤原道夫訳)_アメリカン・システムから大量生産へ:1800-1932_名古屋大学出版会_1998/11
Hounshell, David A.(
Shiomi, Haruhito and Wada, Kazuo eds.)_Planning and Executing ‘Automation' at Ford Motor
Company, 1945-65: The Cleveland Engine Plant and Its Consequences( Fordism Transformed:
The Development of Production Methods in the Automobile Industry)_Oxford
Unversity Press_1995
鈴木直次(東京大学社会科学研究所編)_大量生産方式の普遍性と特殊性:アメリカ自動車産業を中心に(『20世紀システム2経済成長T基軸』)_東京大学出版会_1998/03
Halberstam, David_The
Reckoning_New York, Morrow_1986(以下は邦訳)
ハルバースタム,デイビッド(高橋伯夫訳)_覇者の驕り(上)(下):自動車・男たちの産業史_新潮文庫_1990/09
Piore, Michael J. and
Sabel, Charles F._The Second Industrial Divide: Possibilities for
Prosperity_Basic Book, New York_1984(以下は邦訳)
ピオリ,マイケル=J/セーブル,チャールズ=F)(山之内靖・永易浩一・石田あつみ訳)_第二の産業分水嶺_筑摩書房_1993/03
塩見治人_現代大量生産体制論:その成立史的研究_森山書店_1978/11
このほかに、以下も参照
藻利重隆_経営管理総論(第2新訂版)_千倉書房_1965
熊沢誠_寡占体制と労働組合:アメリカ自動車工業の資本と労働_新評論_1970/05
山本潔_日本における職場の技術・労働史:1854〜1990年_東京大学出版会_1994/02
<小報告>
■ニュー・エコノミーをめぐる議論から
確認される事実
生産性の向上は、従来と比べて驚異的なものではない(表X-1)
ただし製造業は1970年代に陥った停滞から脱出している
情報化投資は実際に進んでいる(図X-1)
インフレが起こっていない
労働過程に何が生じているか:ありうる可能性
情報技術と生産管理の改革によるフレキシブル生産と効率的なSC(サプライ・チェーン)が実現したの
か?
「生産・非監督」労働者(ブルーカラーとホワイトカラー含む)の賃金圧縮(図X-2)はなぜ生じたか?
技術発展によるミスマッチ?
グローバル競争=発展途上国製品との競合?
管理・監督による「駆り立て方式」?
労務管理と労使関係はどのように改革されたのか?
■マクロデータから確認される「ムチ」方式――デイヴィッド・ゴードンの研究による
管理・監督従業員の割合の増大――組織のダウンサイジングは本当に起こったのか?
1980年代までの「非生産・監督労働者」の一貫した上昇(図X-3)
1990年代にも管理者の比重上昇(図X-4)
国際比較
経営・管理雇用者の割合と実質賃金変化率の負の相関
アメリカ企業は、全体としては、賃金を抑制された労働者を、命令・監督することによってはたらかせる方式
にシフトしているのではないか。次項では生産システムの改革例を見るが、それは典型というよりは先進的
な少数派なのかもしれない。
◇参考
Gordon, David M._Fat
and Mean: The Corporate Squeeze of Working Americans and the Myth of Manegerial
"Downsizing"_The Free Press_1996(以下は邦訳)
ゴードン,デイヴィッド・M(佐藤良一・芳賀健一訳)_分断されるアメリカ:「ダウンサイジング」の神話_シュプリンガー・フェアラーク東京_1998/06
中本悟_アメリカの「ニューエコノミー」論と株式市場:1990年代アメリカ経済論に関する覚え書_『証券研究年報』(大阪市立大学)第12号_1997/12
篠原総一_アメリカ経済とニューエコノミー論_『経済セミナー』1998年8月号、日本評論社_1998/08
■生産システム改革の課題
生産性向上と品質向上、製品革新のトレード・オフの克服
大量生産の多品種・小ロット化
JIT生産方式
製品開発システムの改革(略)
労働過程の統制回復と賃金コストの削減――焦点
個別労働者に対して
個別性対処の技能認知
参加意欲の喚起
フレキシブルな労働力配置
労働組合に対して
産業別の賃金・労働条件決定(ビジネス・ユニオニズム)排除
厳格な職務・先任権(ジョブ・コントロール・ユニオニズム)の排除
ノン・ユニオンか、労使協調のパートナーシップ路線
■改革の系譜
アメリカのノン・ユニオン経営の系譜(Human Resource Management)
日本企業の生産システムの移転と修正(合弁・トランスプラントを通じて)
■TMMK(Toyota Motor Manufacturing, Kentucky, Inc.)の事例
チーム・システムと権限の委譲
生産労働者・保全労働者をそれぞれワーク・チームに編成し、諸任務はチームを単位として割り当てる。
チーム・リーダーは現場監督ではなく労働者のリーダー。その上のグループ・リーダーが監督者。恣意的
監督の防止(後述)
問題解決・改善と省人化
改善提案の推奨と尊重。1件あたり平均33ドルの報奨金の支給。
失敗や問題点に対して叱責ではなく協力して解決する態度を徹底してチーム・リーダーに教育
チーム内の職務ローテーション(2時間ごと)
最小限労働力の配置(きつい労働)――これまでのところ、レイオフをしないだろうという従業員の信頼(確
約はなし)と結びついて是認されている
人事労務管理の特徴
ポイント
労働者関与の実行を保証し、これを排除する旧方式にもどらせない
企業意識を醸成
生産性・競争力への意識(JIT生産方式とチーム・システムの結合の促進)
トヨタは従業員の声を受け止めているという印象の確立
ノン・ユニオン。労働組合を組織する必要性を感じさせないようにする
強力な人事部
専門職・管理職の特権と恣意的管理を排除し、全社に同一の管理方式を適用
管理職の専用食堂、専用駐車場、専用オフィスなどはなし
各部門に人事担当部員が配置され、従業員から直接相談に乗る。懲戒や昇進にも関与。
労働災害に誠実に対応する印象の確立
作業制限措置の制度化
女性従業員への処遇
25%が女性で作業チームにもいる。社長から五つ目の職位までは女性管理職もいる。
■困難を抱える事例
労働者関与の看板倒れ(Subaru-
Isuzu Automotiveほか)
セクシャル・ハラスメント(三菱)
■問題の所在と兆候
信頼と協力か、依存と抑圧か――チーム方式=「ストレスによる管理」(Management by Stress)説
監督者の監視による管理ではない
生産工程での逸脱や失敗がただちに目に付き拡大されるような生産プロセス。
運行に支障が生じると、誰もが直ちに被害を受けるような生産プロセス。
→労働強度と人事管理のあり方次第で、信頼に基づく協力、あるいは無言の強制となる。
TMMKの場合
職務記述書の範囲を超えた労働が期待される関係から問題がおこらないか
業務政策による強制なしに、勤務開始時刻の15-30分前から仕事の準備をする
整理整頓・トラブルへの一次対処などに関する職務のあいまいさ
労働者が自分の健康や権利について自己規制する傾向
けがをした労働者は、不名誉やチームに対する義理意識などを考慮する
◇参考
鈴木良始_生産システムと労使関係(報告レジュメ)_日本経営学会東北部会(東北大学)_1999/02/06
Besser, Terry L._Team
Toyota:Transplanting the Toyota Culture to the Camry Plant in Kentucky_State
University of New York Press_1996(以下は邦訳)
ベッサー,T・L(鈴木良始訳)_トヨタの米国工場経営:チーム文化とアメリカ人_北海道大学図書刊行会_1999/07
Parker, Mike and
Slaughter, Jane_Choosing Sides: Unions and the Team Concept_South End
Press_1988(以下は増補日本語版)
パーカー,マイク&スローター,ジェイン(戸塚秀夫監訳)_米国自動車工場の変貌:「ストレスによる管理」と労働者_緑風出版_1995