1999年6月16日現在
川端 望
Tel&Fax 022-217-6279
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HP http://www.econ.tohoku.ac.jp/~kawabata/index.htm
(1)「日本的生産システム」概念の不明瞭さ
■「日本的生産システム」と言われた要素――どれをさすのか
QCサークル、TQC
多能工化とローテーション、チーム・システム
かんばん方式、JIT生産システム、トヨタ生産方式
多品種少量生産
長期継続取引
パートナーシップ的労使関係
三種の神器(終身雇用、年功賃金、企業別組合)
「系列」におけるパートナー的関係
ラグビー型開発組織
■「日本的生産システム」論の不正確さと適用範囲の無限定性
かんばん方式とトヨタ生産方式
日産自動車で採用されていない。
「系列」におけるパートナー的関係
ほとんどの研究が一次メーカーにとどまっている。
多能工化とローテーション
専門工が無視されている(実際には存在する)。
終身雇用
終身雇用「制度」ではなく慣行。また、男子・大企業・正社員のみ。
(2)「日本的生産システム」評価の変転
■礼賛の哲学と非難の哲学
|
日本企業評価 |
アメリカ企業評価 |
1980年代後半 |
普遍性論 |
相対化もしくは歴史的没落論 |
1990年代 |
非難もしくは歴史的没落論 |
普遍性論もしくは再生論 |
■システムの競争力の評価の変転
1980年代後半 |
コスト・品質の両立 |
納期・製品多様性の両立 |
経営政策の貫徹と労働者の技能の発揮の両立 |
自己革新・自己改善するシステム |
1990年代 |
高コスト体質 |
過剰品質とネットワーク分野への対応の遅れ |
馴れ合い |
トップダウンの改革の必要性 |
■教訓と課題
より理論的に正確な議論(「日本型」を固定しない、普遍的文脈で論じられる)
より実態に則した議論(正確な実態調査)
より特殊性、個別性を重視した議論(技術、市場、企業、産業、労使関係による相違)
より歴史的な議論(世界経済など、より広い文脈での環境変化をふまえて、生産システムの変化をみる)
(1)市場と価格による調整の限界
■市場の失敗
独占体による市場支配力の行使
規模に関する収穫逓増(表U-1)
規模の経済
範囲の経済
学習の効果
連結の効果
外部性の存在
ある経済主体の活動が、価格メカニズムを通じないで他の主体の経済厚生に影響
サーチのコスト
売り手・買い手やその売買条件を探索するにはコストがかかる
■市場の失敗と制度的調整
非価格的調整=広義の制度的調整
企業の形成、企業内、企業間の様々なシステム
◇参考
塩澤由典_複雑系経済学入門_生産性出版_1997/09
Milgrom, Paul/ Roberts, John_Economics, Organization, and Management_Prentive
Hall_1992
(Chapter 4.以下は訳書)
ミルグロム,ポール&ロバーツ,ジョン(奥野正寛・伊藤秀史・今井晴雄・西村理・八木甫訳)_組織の経済学_NTT出版_1997/11(第4章)
(2)組織の経済学における企業――ミルグロム&ロバーツの説明を中心に
■方法的前提
自己利益を追求する個人をアクターとする。
企業行動の原動力を最終的に個人の欲望に還元
組織の目的論的理解の排除
契約の束(nexus)としての企業
各種の取り決めおよび個々の組織構成員相互の間の合意の集合
分析単位としての取引
一個人から他の個人への財・サービスの移転
組織のパフォーマンスを判断する基準としての効率性
関係するすべての個人の目標と選好を基礎として、すべての個人がもっとも望ましいと思う選択肢がほか
に存在しないような状況
効率性原理
人々が十分に話し合うことができ、その決定をきちんと実行し強制できるなら、経済活動の結果は効率
的となる
価値最大化原理
資産効果:資産額の変化に基づく選択の変化
資産効果がなければ生産問題と分配問題を分離できる=資源配分が効率的になるのは、当事者たち
の総価値が最大化される場合に限られる。
■取引費用アプローチ――コースによる開拓
取引費用:コーディネーションと動機づけに必要な費用
コーディネーションに必要な費用
取引相手を探し、ニーズを確認し、取引を進めやすい場所を特定する等々
動機づけに必要な費用
情報の不完備と非対称への対処
不完全なコミットメントへの対処
取引費用の節約という観点から市場取引か内部取引かが決まる。
■取引費用を左右する取引の性質
資産特殊性
特殊な利用や関係の下で、他の場合に比べて価値が大きくなる資産の存在。企業特殊的技能など。
取引の頻度と継続期間
長期継続取引による調整費用の節約など
不確実性と複雑性
業績測定の難しさ
他の取引との連結性
■取引費用アプローチの限界
生産費用と取引費用の区別
垂直統合か外注かの選択が、技術変化による生産費用の変化を伴うものであると、もはや取引費用アプ
ローチだけでは論じられない
■企業行動の非価格的調整が効率的とされる例
イノベーション
企業の規模と構造
範囲の経済性
■補完性とシステム
補完性のある要素が同時存在することによる効果→生産システムの意義
◇参考
Milgrom, Paul/ Roberts, John_Economics, Organization, and Management_Prentive
Hall_1992 (特に第2、3章。以下は訳書)
ミルグロム,ポール&ロバーツ,ジョン(奥野正寛・伊藤秀史・今井晴雄・西村理・八木甫訳)_組織の経済学_NTT出版_1997/11(特に第2、3章)
Milgrom, Paul and Roberts, John_The Economics of Modern Manufacturing: Technology, Starategy, and Organization_American
Economic Review, 80_1990/06
Coase,Ronald Harry_The
Firm, The Market, and the Law_University of
Chicago_1988(特にChapter 2 The Nature of the Firm.以下は訳書)
コース,ロナルド・H(宮沢健一・後藤晃・藤垣芳文訳)_企業・市場・法_東洋経済新報社_1992/10(特に第二章「企業の本質」)
Williamson, Oliver E._Markets and Hierarchies_The
Free Press_1975(以下は訳書)
ウィリアムソン,O・E(浅沼萬里・岩崎晃訳)_市場と企業組織_日本評論社_1980/11
(3)マルクス経済学における企業
■マルクス経済学における取引の理論
労働力、典型商品、資本、土地について各々別々の取引理論がある。
対等な交換という形式が守られつつ、資本の権力が保証される。
資本の権力が、資本主義システムの維持という意味では保証される。
個々の取引において資本の支配が一方的に貫徹するかという目的論的理解には問題がある
■マルクス経済学における資本
資本の人格化としての企業
個人の主体性が企業の主体性としてあらわれる
労働者・経営者・株主に還元されないアクターとしての企業それ自体の成立(←→組織の経済学:組織の
個人への還元)
資本の蓄積と循環
価値増殖体としての資本→ゴーイング・コンサーンとしての企業
分析基準としての資本蓄積(←→組織の経済学:取引の効率性)
価値判断基準は別問題
■労働力商品の特殊性と価値増殖の非価格的(制度的)調整
生産過程の特殊性
労働の生産物ではないので、典型商品のような生産調整ができない
売買過程の特殊性
労働力所有者は、つねにただ一定の時間を限ってのみ労働力を売る
契約しただけでは労働力の使用価値(=価値を生む)は買い手の手中に移らない
消費過程(=労働過程)の特殊性
資本家もしくは企業の管理下での労働=生産過程における権力の不均等
生産物は資本家もしくは企業の所有物であり、労働者の所有物ではない
賃金は収益分配ではなく労働力商品の対価であり、労働者は生活必需品を資本家もしくは企業から買
い戻す
剰余価値生産の不確定性
剰余価値生産の大きさは、資本家が労働者に、必要労働を超えて剰余労働をおこなわせることのでき
る程度に依存する。この大きさ(剰余価値率)は、価格メカニズムでは決定されない。
資本家の管理の権力的優越と労働者の抵抗、労使関係の諸制度
新古典派経済学における「賃金=労働の限界生産性」のような均衡点が、抽象モデルに存在しない
◇参考
マルクス,カール(資本論翻訳委員会訳)_資本論_新日本出版社_(第1部第1-4編)
金子勝_市場と制度の政治経済学_東京大学出版会_1997/09
平野厚生_労働力商品の基本問題_高文堂出版社_1984/09
平野厚生_労働力の特殊な商品形態について_『東北大学教養部紀要』第41号(U)_1984/12
服部文男(原田三郎編)_『資本論』成立過程における「階級闘争」・「国家」(『資本主義と国家』)_ミネルヴァ書房_1975/12
野口真_構造主義理論の展開とマルクス経済学:ボブ・ローソンの新著に寄せて_『季刊経済と社会』第3号、創風社_1995/05
(4)本講義の経済学的前提――制度的・複線的把握
・マルクス経済学、近代経済学のどちらか一方を全面的に採用する必要はない。
・経済活動が制度的に調整されねばならないことを認める(市場メカニズムに近ければ近い程よいという図式をア・プリオリに前提しない)。制度的調整の分析に様々な学派の成果を用いる。
・経済活動の制度的調整には複数の経路がありうる。
・(1)企業それ自体を蓄積主体と認める、(2)生産過程における権力の不均等性を認める、という2点ではマルクス経済学の視点を採用する。
(1)生産システムの定義
■生産の概念
狭義の生産と広義の生産=再生産(生産と消費の反復)
資本主義経済における生産と再生産
物的再生産と資本・賃労働の再生産
■システムの概念
井上義祐による定義
ある目的達成のために、いくつもの構成要素がその環境との関連の中で相互に作用し合うひとつの全体
システムの目的と機能:宣言された目的と実際の方向性がずれる可能性
システム評価の視座:目的合理性と意図せざる結果の双方に注意が必要
■生産システムの概念
企業レベル:本講義ではこのレベルで議論する
企業の生産目的に導かれた、生産工程に即しての労働手段、労働対象、労働の結合様式
社会レベル
◇参考
井上義祐_生産経営管理と情報システム:日本鉄鋼業における展開_同文舘_1998/04(第1章)
(2)要素的把握と循環的把握(図U-1)
■要素的把握
技術・管理・労働
物的システムと労働システム
■循環的把握
開発・購買・製造・流通・販売の機能的統合
部分最適化から全体最適化への模索と困難
サプライ・チェーン・マネジメントの視座
取引問題(公正性と分配)の深刻さ
◇参考
坂本清(編著)_日本企業の生産システム_中央経済社_1998(第1章)
岡本博公_生産システム・事業システム・企業システムの展開(『日本経営学会第72回大会報告要旨集』)_日本経営学会_1998/09
(3)社会構造的条件と経済合理性
■社会構造的条件
競争構造
産業構造
労使関係
一見技術必然的な手法も、労使関係に左右される。「省人化」の例(図U-2)
社会的諸制度
■生産システムの技術的・社会的特質と経済合理性(効率性または資本蓄積)
技術的・社会的特質によって、生産システムには有意な差が生じる(制度的・複線的)
諸特質は、経済合理性を通じてあらわれる(普遍的)
◇参考
鈴木良始_日本的生産システムと企業社会_北海道大学図書刊行会_1994/03(第2章)
宗像正幸_「日本型生産システム」論議考:その含意をさぐる_『国民経済雑誌』(神戸大学)第174巻第1号_1996/07
(4)生産システムの競争力評価
■評価の視角
基本的指標と相互間のトレード・オフ
生産における品質、コスト、生産性、納期。
開発におけるコスト、生産性、設計品質、開発リード・タイム。
フレキシビリティ(後述)
問題解決と自己改善
◇参考
藤本隆宏_生産システムの進化論:トヨタ自動車にみる組織能力と創発プロセス_有斐閣_1997/08(第1章)
(5)生産システムの変化
■変革の担い手――イノベーション論
抽象理論との関係
マルクス――特別剰余価値論
構想と実行の分離。経営者の構想や科学者の研究成果は可能性を与え、労働者が現実に生産過程を
変革する。
シュムペーター――イノベーション論
現実化の担い手は企業者=実際にイノベーションを遂行する者
本来、経営者でも労働者でも技術者でも誰でもよい
指導者機能(仕事そのものでなく、これを通じて他人に影響を及ぼす機能)を含む
経営学のイノベーション論
企業者=資本家や経営者ととらえることが多い
現実の変革をどこにみるか
様々な担い手のシステムにおける位置の重要性
■藤本隆宏によるシステム発生の類型化(図U-3)
合理的計算
偶然試行
環境制約
企業者的構想
知識移転
■システムを定着させる能力
試行後の意味づけ
システムの保持・修正
◇参考
マルクス,カール(資本論翻訳委員会訳)_資本論_新日本出版社_(第1部第1−4編)
シュムペーター,J=A(塩野谷祐一・中山伊知郎・東畑精一訳)_経済発展の理論:企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転に関する一研究(上)(下)_岩波書店_1977(特に第2章)
藤本隆宏_生産システムの進化論:トヨタ自動車にみる組織能力と創発プロセス_有斐閣_1997/08(特に第1章)
(1)社会工学の文脈におけるシステムズ・アプローチ
■1960年代におけるシステムズ・アプローチの開発と拡大
アメリカ合衆国における国防問題
非軍事問題への適用――社会工学的テクノクラシー
ベトナム戦争の敗北、人種対立の先鋭化、スタグフレーションなどによる後退→新保守主義の台頭
◇参考
桜井等至_システム論の考え方(増訂版):経済問題解決のための新しい視角_ぺんぎん出版_1979/06(第1章。より専門的には、本書で引用されている文献を参照)
(2)企業・産業論におけるシステム概念の台頭
■契機としての日本企業論
高度成長→1974-75年恐慌からの早期回復→貿易摩擦→在外生産の展開
前近代的労使関係・低賃金説→日本的経営=「三種の神器」説(1978年OECD『対日労働報告書』)→日
本的生産システム論
ポスト大量生産、「ポスト・フォーディズム」、ジャパナイゼーションをめぐる論争
■なぜ、生産「システム」か――経営の個々の要素よりも、その補完性に注目
もはや低賃金では説明できない――単純な貿易理論では説明不可
産業によっては、必ずしも技術が最新ではない――技術決定論でも説明不可
(3)企業と生産のフレキシビリティ
■フレキシビリティ概念台頭の背景
1970年代の世界経済の激変:ニクソン・ショック(1971)、オイル・ショック(1973)、スタグフレーション
変化する環境を、国民経済レベルで制御することの困難性
環境変化に対して、企業が適応することを迫られる――「日本問題」で適応水準の差が明らかに
■フレキシビリティとは何か
<小報告>
◇(2)(3)の参考
湯浅良雄_現代の労働過程:リストラクチュアリングと生産システムの改革_柏書房_1997/10(特に補論T)
加藤哲郎・スティーブン,ロブ(編)_日本型経営はポスト・フォーディズムか?_窓社_1993/10(英語版とセット販売)
ピオリ,マイケル=J/セーブル,チャールズ=F)(山之内靖・永易浩一・石田あつみ訳)_第二の産業分水嶺_筑摩書房_1993/03
鈴木良始_日本的生産システムと企業社会_北海道大学図書刊行会_1994/03(序章)
宗像正幸_「フレキシビリティ」論議によせて_『国民経済雑誌』(神戸大学)第166巻第4号_1992/10
ミルグロム,ポール&ロバーツ,ジョン(奥野正寛・伊藤秀史・今井晴雄・西村理・八木甫訳)_組織の経済学_NTT出版_1997/11(日本語版への序文)
(1)生産システムのパフォーマンス
■多品種化の進展
日米自動車メーカーの製品多様性(表V-1)
■低コスト・高品質
日米比較(表V-2、図V-1)
■短納期化
トヨタ自動車におけるオーダー・エントリーシステムの発展(図V-2)
品種・使用のレベル |
1980年代前半 |
1980年代後半 |
1990年代前半 |
車種別台数確定 |
生産開始20日前に1ヶ月分確定 |
15日前に1ヶ月分確定 |
15日前に1ヶ月分確定 |
型式レベル確定 |
10日前に10日分 |
10日前に10日分 |
7〜8日前に10日分 |
デイリー変更 |
5日前に1日分 |
4日前に1日分 |
3日前に1日分 |
◇参考
岡本博公_現代企業の生・販統合_新評論_1995
岡本博公_生産・販売統合システムの発展_『日本経営学会誌』創刊号、千倉書房_1997/04
鈴木良始_日本的生産システムと企業社会_北海道大学図書刊行会_1994/03
(2)開発システムのパフォーマンス測定(1980年代後半。クラーク・藤本による)
■開発生産性(表V-3)
日本のプロジェクトはアメリカ、ヨーロッパの2倍近い
■開発リード・タイム(表V-3)
日本企業のプロジェクトは欧米より平均して1年早く開発完了
■総合商品力(表V-4)
地域特殊性なし。特に日本車が優れてはいない。
◇参考
Clark, Kim B. and
Fujimoto, Takahiro_Product Development Performance:
Strategy, Organization, and Management in the World Auto Industry_Boston,
Harvard Business School Press_1991
藤本隆宏・クラーク,キム・B(田村明比古訳)_製品開発力:日米欧自動車メーカー20社の詳細調査_ダイヤモンド社_1993/02
藤本隆宏_生産システムの進化論:トヨタ自動車にみる組織能力と創発プロセス_有斐閣_1997/08
(1)大量生産と多品種・小ロット生産の矛盾
<小報告>
◇参考
岡本博公_現代企業の生・販統合_新評論_1995
井上義祐_生産経営管理と情報システム:日本鉄鋼業における展開_同文舘_1998/04
(2)JIT生産方式概論
■システムの基本特性
徹底した同期化(見えないコンベアによる全工程の連結)
そのために在庫を徹底的に圧縮(製品・仕掛品・購入品)
システムの範囲の拡張(製造部面にとどまらない意義)(SCMとの関係)
組立メーカー→部品メーカー→流通システム→……
■鈴木良始によるサブシステム構成の整理(図V-3)
■後工程引取り方式
直接効果:作りすぎ防止
JIT生産と計画生産(図V-4、図V-5)
■品質管理と設備保全
直接効果:前工程のトラブルによる後工程停止の防止
在庫がないので、良品をとどこおりなくラインに流す必要がある
■生産の平準化による小ロット生産
後工程が引き取る品目・量の平準化
二種類あるが、ここでは品種別数量の平準化を説明する
ダンゴ生産(図V-6):前工程もしくは部品メーカーに、手待ちもしくは在庫が発生。かんばんが凶器に。
平準化生産(図V-7):手待ち・在庫極小化。
平準化に伴う小ロット生産の必要性
平準化→頻繁な段取り替え→迅速化の必要性と工夫(表V-5)(図V-8)
大ロット生産との比較
まとめ生産による個別工程での生産性追求→在庫累積
JIT方式に比べて、品質管理・設備保全の必要性に迫られない
■U字型ライン(図V-9)
相対的に単純な低速汎用設備
U字型の配置
多能工化
自動送り・自動停止機構
■「自働化」(にんべんのついたじどうか)
自動送り機構
加工終了・異常検知による自動停止機構→問題の顕在化により改善を促す
◇参考
鈴木良始_日本的生産システムと企業社会_北海道大学図書刊行会_1994/03(第1章)
門田安弘_新トヨタシステム_講談社_1991/06
Monden, Yasuhiro(門田安弘)_Toyota Production
System: An Integrated Approach to Just-In-Time: Third Edition_Engineering
and Management Press_1998(上の本の新版)
(3)JIT生産方式をめぐる諸問題
■普遍性と特殊性
普遍性――多品種・小ロット生産で生産性・品質・納期をめざす限り適用可能な側面
特殊性――社会構造的諸条件に左右される側面
日本的労働編成との強い補完性
■JITと日本的労働編成の補完性
日本的労働編成の特徴(表V-6)
労働の包括性
作業者の汎用性(柔軟性)
集団責任に媒介された個人責任
作業者の改善活動への参加とJITの細かな技術
前述した作業者数削減の例
作業者による設備管理・品質点検への参加
■JITの徹底による労働者への圧力
余裕のない作業
1980年代までのトヨタは、標準作業設定にあたって余裕率を見込んでいなかった
「権限なき責任」の広がり
企業における能力の発揮=人間性、という一面化。規制がなければ高密度労働の歯止めがなくなる。詳
しくは、第4部で扱う。
■社会的費用
小ロット配送による交通混雑,排気ガス
◇参考
鈴木良始_日本的生産システムと企業社会_北海道大学図書刊行会_1994/03
(1)製品開発活動の理論的性格
■森俊治の製品開発管理論
研究・開発はスタッフかオペレーショナルか
森説:研究・開発は生産過程の初段階をなす
商品生産におけるモノの生産と便益(Benefit)の生産。便益生産において研究開発はオペレーショ
ナル・ワークである。
<調達→生産→販売>と<開発→製造→販売>
基礎研究は別
■藤本隆宏の企業=情報システム論による製品開発管理論
情報処理としての開発・生産活動(図V-10)
消費のシミュレーションとしての製品開発(図V-11)
■共通点
自然物としてのモノでなく、商品の社会的な便益なり情報なりが生産され,消費される。
製品開発は生産過程の不可欠の構成要因である。
◇参考
森俊治_研究開発管理論(改訂増補版)_同文舘_1991/10
Clark, Kim B. and
Fujimoto, Takahiro_Product Development Performance:
Strategy, Organization, and Management in the World Auto Industry_Boston,
Harvard Business School Press_1991(特に第2章。以下は訳本)
藤本隆宏・クラーク,キム・B(田村明比古訳)_製品開発力:日米欧自動車メーカー20社の詳細調査_ダイヤモンド社_1993/02
藤本隆宏_生産システムの進化論:トヨタ自動車にみる組織能力と創発プロセス_有斐閣_1997/08
(2)企業=情報システム論からみた自動車産業の製品開発
■日本企業の開発組織の特徴
部品メーカーの開発力の活用(4で後述)
自社の製造能力の活用
製品開発プロセスには、試作車製作や金型製作などの製造活動が埋め込まれている。製造能力の優位
が開発能力の優位につながる
オーバーラップ型開発(図V-12)
製品エンジニアリングと工程エンジニアリングが期間的にオーバーラップ→開発期間短縮
上流と下流が密接にコミュニケートできる場合に限られる
■開発組織の統合――80年代に特に開発パフォーマンスの高かった企業の特徴
エンジニアの専門化の程度が低い
内的統合者(プロジェクト・コーディネーター)の影響力が強い
部門間の統合
外的統合者(コンセプト・チャンピォン)の影響力が強い
製品コンセプトの創造と具体化
重量級プロダクト・マネージャーの重要性(図V-13)
◇参考
Clark, Kim B. and
Fujimoto, Takahiro_Product Development Performance:
Strategy, Organization, and Management in the World Auto Industry_Boston,
Harvard Business School Press_1991(以下は訳本)
藤本隆宏・クラーク,キム・B(田村明比古訳)_製品開発力:日米欧自動車メーカー20社の詳細調査_ダイヤモンド社_1993/02
藤本隆宏_生産システムの進化論:トヨタ自動車にみる組織能力と創発プロセス_有斐閣_1997/08(第6章)
(3)バブル期以後の製品開発の問題
■欧米自動車メーカーの逆キャッチ・アップ(表V-3、図V-12)
一次部品メーカー数の絞り込みとシステム・サプライヤー化
サイマルテニアス・エンジニアリング
■バブル期の過剰設計問題
企業と環境の関係から見た問題の性格
不適応というより過剰適応(保持する能力の使い過ぎ)
バブル後の製品開発組織
使い過ぎなければ、なお能力は有功であるという側面
環境変化ゆえにシステムが変化を迫られる側面
開発生産性→モデルの過多
短い開発リード・タイム→設計簡素化・部品共通化ができず
高級化路線の行き過ぎ
系列部品メーカーの能力への依存→設計簡素化・部品共通化できず。
重量級PM→設計簡素化・部品共通化できず
◇参考
藤本隆宏(企業行動研究グループ編)_能力蓄積のプロセスと過剰適応(『日本企業の適応力』)_日本経済新聞社_1995
藤本隆宏_生産システムの進化論:トヨタ自動車にみる組織能力と創発プロセス_有斐閣_1997/08(第6章)
(1)社会的分業構造とサプライヤー・システム論
■機械工業の社会的分業構造(図V-14)――渡辺幸男の山脈構造型社会的分業構造図
楕円は競争範囲をあらわす
山と山の重なりに注意。完成部品メーカー(一次部品メーカー含む)でも複数納入先を持つし、零細な加工
専門メーカーが多用な産業から受注して経営を成り立たせていることがわかる(「ピラミッド型」・閉鎖的系列
論の一面性)
どの企業群に注目するかで、中小零細企業論は変わってくる。一面化してはならない。
加工専門メーカーへの注目→都市型工業集積論
技術的能力の高い一次メーカーへの注目→サプライヤー・システム論(大企業も含む)
中小の完成品メーカー→中堅企業論
支配・従属関係の中で存立する部品特化・組立特化下請中小企業→階層構造論
以下、自動車部品のサプライヤー・システムを取り上げる
◇参考
渡辺幸男_日本機械工業の社会的分業構造:階層構造・産業集積からの下請制把握_有斐閣_1997/12
(2)自動車産業における部品取引
■加工組立産業の部品サプライヤーにおける製品単価の決定方式(表V-6)
トヨタの例:取引単価の中心である加工費
トヨタは、一次メーカーの成長に必要である利益を考慮しつつ、厳しく査定する(自社の短期利益、サプ
ライヤーへのインセンティブ、サプライヤーが適度に成長する展望のバランス)。
価格決定は量産の直前であり、開発にサプライヤーが参加している場合、サプライヤー選択と価格決定
は分離している(←→競争入札)。
部品メーカーが、トヨタによる工数の厳密な査定を困難にするような技術的主導性を発揮できれば、利
益幅を増大させられる。
製品単価決定後に部品メーカーが合理化をおこなえば、見積もり工数と実際工数の差に応じて部品メ
ーカーの利益が大きくなる(合理化のインセンティブ)。
VA(Value Analysis)効果還元分
量産後の原価低減を実現できれば、取引単価も下がるが一定部分は一次メーカーに還元される。
年二回の価格の改定
価格は基本的に下がる一方。
利益のシェアやインセンティブのあり方についての頻繁な修正。
■製品単価決定システムの意味
トヨタ主導による原価低減の追及
価格低減ではなく原価低減が求められている
開発と量産準備の過程でトヨタの指導による原価低減活動(VE)。さらに、部品メーカーの生産管理の
改革を促す。VE(Value
Engineering)効果の一部は部品メーカーに還元される。
取引関係の安定とスイッチングのバランス
複数発注によるプレッシャー
当該部品の量産が続く間(80年代では2年か4年)はスイッチングしない慣行
◇参考
植田浩史_自動車産業の企業階層構造:自動車メーカーと1次部品メーカーの結合関係(1)(2)(3)_『季刊経済研究』(大阪市立大学)第12巻第3号、第13巻第1号、第14巻第2号_1989/12、1990/07、1991/09
浅沼萬里_日本の企業組織 革新的適応のメカニズム:長期取引関係の構造と機能_東洋経済新報社_1997/06
清しょう一郎_価格設定方式の日本的特質とサプライヤーの成長・発展:自動車産業における日本的取引関係の構造原理分析(2)_『経済研究所年報』(関東学院大学)第13集_1991/03
(3)部品の開発・生産システムとサプライヤー
■サプライヤーの製品開発への関与
自動車メーカーが市販品を購入する場合は、開発への関与なし
貸与図:自動車メーカーが設計をおこない、図面を部品メーカーに貸与する。サプライヤーは設計変更の
要請や提案をおこなう。自動車メーカーに品質保証責任がある。
承認図:部品サプライヤーが設計・開発をおこなう。自動車メーカーは部品メーカーが設計した図面を承認
する。サプライヤーに品質保証責任があると言われている。
委託図:部品メーカーが設計・開発を行なうが、設計の外注と量産の外注が切り離されている。部品メーカ
ーは図面や関連情報を自動車メーカーに譲り渡し、設計料のみを受け取る。
■サプライヤーの関与をどう評価するか
サプライヤーの技術的能力向上=進化説(浅沼萬里)
貸与図部品を生産する貸与図メーカーから承認図部品を製造する承認図メーカーへの進化(図V-15)
技術的能力向上→収益性向上(査定工数と実際の差VE、VA効果還元、による超過利潤)
製造から開発への競争場面拡大説(植田浩史。詳しくは第3部で講義)
部品自体の高度化、自動車メーカーの開発工数負担の増大→サプライヤーへの関与要請、という自動車
メーカー側の事情を考慮すべき
供給部品の転換ではなく、同一の部品の高度化を通じて貸与図メーカーから承認図メーカーになる
競争場面の拡大であり、サプライヤーの地位と収益性の向上と決めつけることはできない
開発プロジェクトの前提として先取研究・開発が普段からなされており、それが単価に反映されていると
断言することはできない。
■浅沼「承認図メーカー」論の方法的問題
承認図方式の、「契約的枠組み」としての整合性(社会構造に制約された特殊性、あるいは力関係が入り込む余地はないか)
設計・開発を委託されたことが、自動的に量産委託につながるわけではない。しかし、結果としてはつな
がることが多い。このあいまいさは、社会関係によって許容されないこともある。
欧米で委託図方式がとられていることが少なくないのは、それが理由ではないか。
自動車以外の業界を含む日系企業の海外での行動には、承認図の所有権とその内容の知的所有権の
あいまいさをうかがわせるものがある。
組立メーカーが、海外のサプライヤーにわたすなどの目的で型図面提出を金型メーカーに要求する場
合
◇参考
浅沼萬里_日本の企業組織 革新的適応のメカニズム:長期取引関係の構造と機能_東洋経済新報社_1997/06
植田浩史(明石芳彦・植田浩史編)_自動車部品メーカーと開発システム(『日本企業の研究開発システム:戦略と競争』)_東京大学出版会_1995/04
植田浩史(坂本清編著)_自動車部品サプライヤとTQC(『日本企業の生産システム』)_中央経済社_1998/12
田口直樹_金型産業における取引構造_『金沢大学経済学部論集』第19巻第2号_1999/03
(1)多品種・小ロット・大量生産システムにおける技能
■多品種・小ロット・大量生産の下での技能
技能の二つの契機
1)生産の構想(目的、計画、理念)
2)与えられたプロセスにおける個別性への対処(カン、コツ)
基本傾向――労働の単純化、標準化による技能の排除
生産労働者の技能の残存と変容
影響を与える2要因
ME化による影響
多品種・小ロット化の影響
残存
技術的・経済的に機械化困難なもの(高精度の金属加工など)――手工的熟練
非定常時の作業(インライン検査、機械のクセを読んだ運転、トラブル対処)
保全・修理――専門工
変容
システム運用ノウハウの必要性
◇参考
野村正實_熟練と分業:日本企業とテイラー主義_御茶ノ水書房_1993
宗像元介_職人と現代産業_技術と人間_1996/10
Piore, Michael J. and Sabel, Charles F._The Second
Industrial Divide: Possibilities for Prosperity_Basic
Book, New York_1984
ピオリ,マイケル=J/セーブル,チャールズ=F)(山之内靖・永易浩一・石田あつみ訳)_第二の産業分水嶺_筑摩書房_1993/03
(2)野村・小池論争における争点
<小報告>
◇参考
野村正實_熟練と分業:日本企業とテイラー主義_御茶ノ水書房_1993
野村正實_終身雇用_岩波書店_1994/10
小池和男_仕事の経済学_東洋経済新報社_1991
小池和男_知的熟練再論:野村正實氏の批判に対して_『日本労働研究雑誌』1993年7月号_1993/07
小池和男_仕事の経済学(第2版)_東洋経済新報社_1999/05
(3)分業構造の全体像を求めて
■男子正社員の労働編成(再論)
技術者・専門工・作業者の分業関係が基本的な問題
作業者の技能
作業者の改善活動への参加
作業者による設備管理・品質点検への参加
作業者の技能の性格
専門工・技術員による改善が主流
機械を修理するレベル
→作業員の構想労働はそれほどない(しばしば過大評価あり)
非定常時の一次対応は作業員がする
機械を止めて、適切な報告をするレベル
軽保全(整理整頓、オイル差し、調整でもたせる、ウィザードを使って対応)
→個別性への対処では一定の役割
要員削減に対処する少数精鋭化としての多能工化
必要になる能力として、作業速度、強度に耐える強靭さの比重が大きくなる
工夫→削減か、削減→工夫か
■性別分業と企業間分業
電機工場などでは、女子正社員およびパート労働者(これも女性多い)が単調労働(図V-16)
理由:女性を、結婚退職を前提として管理し、教育・訓練が必要ない職務につけてきた。
自動車工場や製鉄所では女性の作業員が少ないので、この構造が見えない
単調労働は、部品メーカーや構内作業請負会社がやっている
■技能の二つのレベル
労働過程における技能
技術的なレベルの問題→物的生産性や品質への貢献
社会的に制度化された技能
労働者が所有するなら(人的資本論)→賃金、作業条件、労働条件をめぐる交渉力の基礎
企業が所有するなら→企業利益への貢献
企業特殊的か全社会的かによる相違――資格制度や労働組合のあり方に関わる
◇参考
野村正實_熟練と分業:日本企業とテイラー主義_御茶ノ水書房_1993
宗像元介_職人と現代産業_技術と人間_1996/10
金子勝_市場と制度の政治経済学_東京大学出版会_1997/09
鈴木良始_日本的生産システムと企業社会_北海道大学図書刊行会_1994/03