update:1998/09/24
川端 望
連絡事項
教員のプロフィール、研究内容などはホームページを参照。このレジュメなど配布資料のコピーもできる限り公開している。
URL
http://www.econ.tohoku.ac.jp/~kawabata/index.htm
シラバスに対する修正事項
第1部と第2部T章は、レジュメにしたがって講義する。参考文献は各節末尾に列挙したとおりであり、テキスト指定しない。第2部U章以後は、当初予定どおり、坂本清編『日本企業の生産システム』中央経済社、1998年をテキストとして講義する。11月20日前後に生協に入荷する見込み。
企業の問題性
本講義のテーマ:企業理論の基礎と日本企業の生産システム
第1部全体にわたるポイント:企業行動の制度的把握と複線的把握。
問題意識
「なぜ、これほど多くの経済活動が、距離を置いた市場取引ではなく、企業の内部で行われるのか」
「契約関係をデザインしそれを維持することにはどんな問題があるのか、またそれらの問題はどのように解決できるのか」
「雇用、給与、昇進の仕組みは、従業員や役員の生産性にどのような影響を与えるのか」
背景としての日本問題
方法的前提としての個人主義
基本問題:コーディネーションとインセンティブ
◇文献
ミルグロム,ポール&ロバーツ,ジョン(奥野正寛・伊藤秀史・今井晴雄・西村理・八木甫訳), 組織の経済学, NTT出版,
1997/11
契約の束としての企業と分析単位としての取引
効率性基準
取引費用アプローチ
取引費用:コーディネーションと動機づけに必要な費用。
取引費用の節約という観点から市場取引から内部取引かが決まる。
取引費用を左右する取引の性質
資産特殊性
取引の頻度と継続期間
不確実性と複雑性
業績測定の難しさ
他の取引との連結性
取引費用アプローチの限界
価値最大化原理と資産効果
組織の目的論的理解の排除
個人の動機に関する仮説
◇文献
コース,ロナルド・H(宮沢健一・後藤晃・藤垣芳文訳), 企業・市場・法, 東洋経済新報社, 1992/10
ウィリアムソン,O・E(浅沼萬里・岩崎晃訳), 市場と企業組織, 日本評論社,
1980/11
ミルグロム,ポール&ロバーツ,ジョン(奥野正寛・伊藤秀史・今井晴雄・西村理・八木甫訳), 組織の経済学, NTT出版,
1997/11
新古典派モデルにおける価格体系によるコーディネーションと動機づけ
市場の失敗
独占体による市場支配力の行使
規模に関する収穫逓増
外部性の存在
サーチのコスト
集権的システムが合理的なケース
内部整合的な経済活動の複数存在
市場の失敗と組織
◇文献
ミルグロム,ポール&ロバーツ,ジョン(奥野正寛・伊藤秀史・今井晴雄・西村理・八木甫訳), 組織の経済学, NTT出版,
1997/11
塩澤由典, 複雑系経済学入門, 生産性出版, 1997/09
価格によらないコーディネーション
企業内部の場合
市場の場合
企業間取引の場合
様々な属性をともなった資源配分問題
デザイン属性
シンクロナイズ問題
割当問題
組織のルーティンにしたがった活動
イノベーション属性
新古典派モデルとイノベーション
企業行動における資源配分
戦略的意思決定
企業の規模と構造
範囲の経済性
コア・コンピタンス
補完性とデザイン決定
フレキシブル生産システムの事例
戦略的意思決定と企業進化
◇文献
ミルグロム,ポール&ロバーツ,ジョン(奥野正寛・伊藤秀史・今井晴雄・西村理・八木甫訳), 組織の経済学, NTT出版,
1997/11
シュムペーター,J=A(塩野谷祐一・中山伊知郎・東畑精一訳), 経済発展の理論:企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転に関する一研究(上)(下), 岩波書店, 1977
藤本隆宏, 生産システムの進化論:トヨタ自動車にみる組織能力と創発プロセス, 有斐閣, 1997/08
動機づけ問題が生じる理由
完備契約
限定合理性と機会主義的行動
契約を不完備にする限定合理性
予測不可能性
計算費用
言語の本来的な不正確性
機会主義的行動
不完備契約
スポット契約
関係的契約
暗黙の契約
特殊的資産
共同特化した資産
企業特殊的技能
特殊な部品生産のための専用設備
ホールド・アップ問題
脅迫・評判・信頼・依存
私的情報と虚偽の表明
私的情報と逆選択
◇文献
ミルグロム,ポール&ロバーツ,ジョン(奥野正寛・伊藤秀史・今井晴雄・西村理・八木甫訳), 組織の経済学, NTT出版,
1997/11
浅沼萬里, 日本の企業組織 革新的適応のメカニズム:長期取引関係の構造と機能, 東洋経済新報社, 1997/06
宗像正幸, 「日本型生産システム」論議考:その含意をさぐる, 『国民経済雑誌』(神戸大学)第174巻第1号, 1996/07
藤本隆宏・西口敏宏・伊藤秀史(編), リーディングス サプライヤー・システム:新しい企業間関係を創る, 有斐閣, 1998/01
金子勝, 市場と制度の政治経済学, 東京大学出版会, 1997/09
モラル・ハザード
プリンシパル・エージェント関係
金融システムにおけるモラル・ハザード
雇用関係におけるモラル・ハザード
株式会社における所有と経営の分離
モラル・ハザードのコントロール
モニタリングと検証の強化
明示的なインセンティブ契約
業績給の問題
所有による解決
インフルエンス活動
◇文献
ミルグロム,ポール&ロバーツ,ジョン(奥野正寛・伊藤秀史・今井晴雄・西村理・八木甫訳), 組織の経済学, NTT出版,
1997/11
バーリ,アドルフ・A/ミーンズ,ガーディナー・C(北島忠男訳), 近代株式会社と私有財産, 文雅堂,
1958
比較制度分析
方法的個人主義と制度
ラディカル経済学の緩い定義
中範囲理論
「資本主義か、社会主義か」でなく「どのような資本主義か」
資本と国家だけでなく、技術・労働・企業への注目
◇文献
芳賀健一, 企業と蓄積体制(上), 『富大経済論集』(富山大学)第44巻第1号, 1998/07
ボワイエ,ロベール(山田鋭夫・井上泰夫編訳), 入門・レギュラシオン, 藤原書店,
1990/09
商品形態における物神性
生産関係の物象化
交換を通じた私的労働の社会的性格の確証
労働連関の商品連関としてのあらわれ
独立変数化する商品と従属変数化する所有者
◇文献
マルクス,カール(資本論翻訳委員会訳), 資本論, 新日本出版社,
有井行夫, 株式会社の正当性と所有理論, 青木書店, 1991/03
投下労働価値説における不完備契約の余地
労働力商品の擬制的商品性
価格つき使用対象としての商品
資本と労働力商品
自由な労働者という条件
労働力商品の売買と使用の擬制性――新古典派との対比
資本家が購入した労働力商品の不確定性
非資本による相対的過剰人口の確保
資本・賃労働関係の多様性と商品化の限界
典型商品における不確定性
◇文献
マルクス,カール(資本論翻訳委員会訳), 資本論, 新日本出版社,
平野厚生, 労働力商品の基本問題, 高文堂出版社,
1984/09
平野厚生, 労働力の特殊な商品形態について, 『東北大学教養部紀要』第41号(U), 1984/12
宇野弘蔵, 経済原論, 岩波書店,
1964/05
服部文男(原田三郎編), 『資本論』成立過程における「階級闘争」・「国家」(『資本主義と国家』), ミネルヴァ書房, 1975/12
野口真, 構造主義理論の展開とマルクス経済学:ボブ・ローソンの新著に寄せて, 『季刊経済と社会』第3号、創風社, 1995/05
ボウルズ,S/ギンタス,H(野口真訳), 資本主義経済における富と力:対抗的交換の視点から, 『経済セミナー』1998年5月号、日本評論社, 1998/05
金子勝, 市場と制度の政治経済学, 東京大学出版会, 1997/09
社会科学の対象としての生産力
労働の分化・機械化・結合
フレキシブル生産への射程
相対的剰余価値生産の方法としての協業と機械化
資本主義的生産様式の基本形態としての協業
協業論の射程――専門化論との対比
一時的な協業と継続的な協業
協業における労働の分析
同一作業の同時遂行の形式――集団としての生産力
同一ないし同種作業の連絡的・同時的遂行
異種作業の連絡的・同時的遂行――複雑協業
指揮・連絡労働
二つの協業とマニュファクチュア(分業に基づく協業)の起源
単純協業からマニュファクチュアへ
複雑協業からマニュファクチュアへ
大工業における機械体系――機械の単純協業から分業に基づく協業へ
同一種類の多数の作業機の集合と、同一の動力による駆動
異種機械の連結
自動機械体系
汎用工作機械の複雑協業
万能職場と機種別職場
大量生産と流れ作業職場。フォード・システム
自動加工機械
現代機械工業におけるフレキシビリティの技術的基礎
専門加工業者とその集積
メカトロニクス。フレキシブルな多品種生産の自動化。
NC工作機械とMC
FMS
『資本論』における労働の技能と組織
機械化の下での分業組織
熟練解体論
工場制度からの解放と労働者発達論
大工業と大量生産の下での技能と組織
手工的熟練の排除と新しい技能
社会的制度としての技能と熟練
分業組織の階層化と多様性
マルクスの複線的決定論を超えて
メカトロニクスにおける技術と労働
◇文献
マルクス,カール(資本論翻訳委員会訳), 資本論, 新日本出版社,
野村正實, 熟練と分業:日本企業とテーラー主義, 御茶ノ水書房, 1993
宗像正幸, 技術の理論:現代工業経営問題への技術論的接近, 同文舘, 1989/08
中峯照悦, 労働の機械化史論, 渓水社,
1992/12
金子勝, 市場と制度の政治経済学, 東京大学出版会, 1997/09
資本家か資本か
アクターとしての資本と資本の人格化
自然人の所有権を突破した企業活動
株式会社における資本の人格化
利潤ゼロか利潤の再投資による蓄積か
株式会社それ自体のものとしての利潤
経営者の二重の動機づけ
経営者・株主関係とコーポレート・ガバナンスの多様性
宿命的建前としての所有権
株式会社の正当性
収入と源泉の対応関係
貨幣資本家と機能資本家のプリンシパル・エージェント関係
株式会社における企業者利得と経営者報酬の独立的決定
正当化されない利得としての企業者利得
解決不能の問題としてのコーポレート・ガバナンス
◇文献
マルクス,カール(資本論翻訳委員会訳), 資本論, 新日本出版社,
有井行夫, 株式会社の正当性と所有理論, 青木書店, 1991/03
バーリ,アドルフ・A/ミーンズ,ガーディナー・C(北島忠男訳), 近代株式会社と私有財産, 文雅堂,
1958
ドラッカー,P・F(上田惇生訳), 産業人の未来:改革の原理としての保守主義, ダイヤモンド社, 1998/06
技術、労働の直接分析
蓄積理論と制度分析
開放的歴史的システムとしての資本主義
拡張と具体化の遅れ
理論的・政治的ドグマの負の遺産
アメ戦略とムチ戦略
ダウンサイジングの神話
Fat
and Mean説
強制・契約・信頼・依存
グローバル・アウトソーシングと工業集積
半導体産業の事例
フルセット型産業構造を超えて
選択可能性と制約性
政策、企業者、制度、歴史
戦略と意図せざる結果
経済的合理性と制度依存性
◇文献
ゴードン,デイヴィッド・M(佐藤良一・芳賀健一訳), 分断されるアメリカ:「ダウンサイジング」の神話, シュプリンガー・フェアラーク東京, 1998/06
関満博, 空洞化を超えて:技術と地域の再構築, 日本経済新聞社, 1997/01
金子勝, 市場と制度の政治経済学, 東京大学出版会, 1997/09
◇T章は、12月に発行される以下の文献に依拠している。U章以後はテキストを使用する。
鈴木良始(坂本清・貫隆夫・宗像正幸編著), アメリカ大量生産システムの成熟と変容(『現代生産システム論:再構築への新展開』), ミネルヴァ書房, 1998
フォード・システム成立の背景とプロセス
労務管理問題と労使妥協
「柔軟な大量生産」への修正の核心
製品モデルと構成部品の設計変更の分離
モデル間での部品の共用
ニューディール型労使関係の衝撃
労働組合対策としての自動化
戦後労使関係システムの二側面
ビジネス・ユニオニズム
ジョブ・コントロールと先任権制度
機械化志向の昂進による硬直化傾向
オートメーションの二つの帰結
生産量確保の優先と品質・労働者関与の軽視
製品設計の硬直化
市場の飽和と生産システム
職場規律の弛緩と生産システムの悪循環現象
職場秩序の崩壊
ローズタウン戦略の失敗
生産システム変化への客観的要請
経済危機と雇用不安
生産性・品質・製品多様性の同時追求の要請
大量生産システムの緩慢な内容
チーム・システム
サターンの労使共同経営