2001年8月22日 朝日新聞

ひと・みやぎ

  こうとうがんを克服して中国の製鉄所を指導する
  川原業三さん(72) 

「話しすぎると、翌日、首の筋肉が張って、大きな声を出せなくなってしまう。でもね、働いている運中の姿を見ると、元気が出てくるんです」
のどをふりしぼる、という言葉があるが、ぜ一ぜーと食道が膨らんだり、しぼんだりする音が聞こえる。

中国・山西省にある製鉄所で、95年から毎年、1,2カ月ほど環境保全や生産性向上の技術指導をしている。通訳を介して、労働者をてきぱきと助言する。

東北大卒業後、岩手県の製鉄会社に就職。常務だった50歳のときに、こうとうがんと分かった。ノドがいがらっぽかったので、精密検査を受けたらがんだった。手術で声帯を除去したが、腹式呼吸で食道を使った発声法を体得した。

退職後、仙台市若林区の自宅でぶらぶらしていたとき、鋳物関係の協会から山西省の製鉄所の技術指導を依頼された。同省は石炭や鉄鉱石などの地下資源が豊富で、製鉄業が盛んだ。しかし、高炉が小型で、環境対策も不十分だった。

現地に行くと、もくもくと上がるばい煙が空を覆っていた。無造作に炉に突っ込んでいた鉄鉱石とコークスを砕き、順次、層になるように入れるように教えた。煙が減り、鉄の質も良くなった。

「良い結果を出せば、人は自然についてくる」。仕事の後、中国酒の杯を労働者と一緒に傾ける瞬間が至宝のときという。
「声がうまく出せなくても不幸だと思ったことはない。誠心誠意やれば分かってもらえる」。東北大がこの夏から山西省の環境保全に協力することになった。助言者として、まだまだ、多忙な日々が続きそうだ。(高木和男)