■喉頭癌

   喉頭の悪性腫瘍(しゅよう)で、喉頭肉腫の95倍も発生頻度が高く、全身の癌の約2%を占める。50〜60歳代にもっとも多く、性別では男性に多くみられ、女性の約9倍である。真の原因は不明であるが、喫煙者に圧倒的に多く、声帯の酷使やX線などの放射線、刺激性飲食物やガス吸入などが誘因としてよく知られている。喉頭癌は、喉頭の入口部より内側にある内癌、外側にある外癌とに分け、さらに内癌は、声帯で左右を囲まれた声門に癌のある声門癌、声門より上部にある声門上癌、声門より下部にある声門下癌に分類されている。これらのうち声門癌がもっとも多く、ついで声門上癌、声門下癌となり、外癌がもっとも少ない。しかし声門癌も進行すると、声門上部や下部、さらに喉頭入口部の外側へも進展する。声門癌はきわめて初期から声がかれてくるので早期に発見されることが多く、しかも頸部(けいぶ)リンパ節をはじめとした転移も他の部位の癌よりも少ないので、予後はきわめてよく治癒率も90%以上である。声門癌以外の喉頭癌は逆に自覚症状がきわめて少ないので、相当進行してからでないと発見されないことが多く、予後も声門癌よりは悪いが、身体他部の癌と比べると喉頭癌は治療しやすく、予後もよいことが多い。

  初期の症状としては、声門癌では嗄声(させい)(しわがれ声)であり、その他の癌では異物感である。2週間以上もこのような症状があるときには、耳鼻咽喉(いんこう)科医による検査を受けるのがよい。喉頭癌が進展してくると、血痰(けったん)、疼痛(とうつう)、喘鳴(ぜんめい)や呼吸障害、嚥下(えんげ)障害などをおこすが、相当進行してからでないとみられない症状である。転移は頸部リンパ節がもっとも多く、ついで気管と肺に多い。末期になると、肝臓をはじめ全身に転移をおこしてくる。

   治療は、早期のものはコバルト60などによる放射線療法が声の機能を障害せずに治療できる点で優れており、しかも完治させることができる。進展したものでは手術的治療が適応となる。喉頭を全部摘出した場合は、声帯による発声ができず食道音声や人工喉頭による発声を行わなければならないが、訓練をすれば社会生活にほとんど支障ない程度にまで回復させることができるようになる。癌の進展する部位によっては、喉頭を部分的に切除することによって声をある程度まで保存できることもある。抗癌剤も最近は相当進歩してきているが、喉頭癌についてはまだ補助的治療の域を出ないのが現状である。    (河村正三,スーパー・ニッポニカ2002)

 

■食道音声,食道発声

   喉頭癌(こうとうがん)などで喉頭全摘出術を受けた無喉頭の人は普通の発声が不可能である。そのような場合、発声に使うため空気を食道を経て胃内に飲み込み、その空気を咽頭(いんとう)から口腔(こうくう)へ逆流させ、その際に食道起始部が振動して出る音を音声として用いることができる。この発声方法を食道発声といい、このようにしてつくられた音声が食道音声である。この発声をするには相当の練習が必要であるが、熟達した人では日常の会話はもちろん、演説や歌うこともできる。もしこの発声が上手にできない人は、一種の笛(人工喉頭)あるいは振動器具(電気喉頭)を用いて発声できる。     (河村正三,スーパー・ニッポニカ2002)